31話 技術水準向上の試み 2
-サマリード領 製材所近傍-
ようやくボンデから概ね仕上がったとの連絡が来た。もちろん内装等は無い状態だ。車両本体は流石に造れなかったので図面だけ作って後は任せた。大枠としての本体が有れば俺の方で如何様にも弄れる。
そう云う訳で、製材所へと向かっているところだ。当然、俺はメリッサの馬に同乗している。今回は二頭牽き用なのでタニアも馬で同行してもらっている。
「結構な時間が掛かったね。だいだい二か月ぐらい?早い方なのかな」
「どうかな。私らにはそもそもの基準が分からないからねぇ」
「かなり頑張ってもらえた方だと思います。予想よりだいぶ早かったですよ」
俺としては半年ぐらい待たされても仕方ないと考えていたからな。恐らくはラムタークが相当手を入れたはずだ。他にも抱えている仕事が有る中で優先して仕上げてくれたのだろう。まして初めて使う部品が有る。調整だけでも苦労したのは想像に難くない。
「そうなんだ?どんなのが出来上がってるか楽しみだね」
「確かにな。だいぶ大きめだとは聞いているが、見るのは初めてだ」
二人とも期待してるところ悪いが、まだ仕上がってないからな?どうも話がちゃんと伝わっていない様だ。
「今はとりあえず動かせる程度の状態ですよ。使えるのはまだまだ先の話でしょう」
「そうなの?乗れるかと思ってたのに残念ね」
「それを持ち帰って更に手を加える訳か。相当先の話だな」
その通りだ。特に下回りと車輪は弄ることになるだろう。
「そろそろ製材所が見えてくるね」
「ああ、それらしい音も聴こえるな」
前方から木を削ったり叩いたりする音が聴こえてきた。川岸が近いのか水の流れる音がするな。積み上がった丸太の山が見えてきたのでそろそろ到着だな。
製材所には思っていたよりも人数が居るようだ。見たところ10人ぐらいか。
それぞれに役目が振られているのだろう。黙々と作業を進めている。いかにも職人集団って感じで、気軽に声を掛けるのは躊躇われる雰囲気だ。
まずはボンデかラムタークを探そう。敷地としてはそれほど広くないので少し歩けば見つかるはずだ。どうも場違い過ぎてさっきから居心地が良くない。
しばらく歩くと納屋の様な建物が見えた。人影も有るのであそこが目的地だろう。作りかけの物を雨曝しにはしない。屋根の有る場所で作業をしているはずだからな。
「ようやく形になってきたところだ。完成には程遠いがな」
ラムタークは納得出来ていない顔だ。横に居るボンデも考えは同じか。
「ここまで造っていただけただけでも十分です。ありがとうございます」
目の前には見るからに作りかけの馬車が有る。塗装前で下処理が済んだ程度の表面処理、伽藍洞の本体、辛うじて出来上がっているのは下部構造だけだ。
実物を見たタニア達の落胆具合は予想以上だったが。まぁ仕方ないな。
今回の目的は板バネの技術を職人に教えることで、馬車制作はついでだ。後は彼らが荷車や台車に逐次応用して広めてくれればいい。
これでサマリード領の木工技術は一段階上がった。彼ら職人達の工夫で更に生産性が上がり、道具が行き渡れば便利になって俺が目的とする余裕の発生に繋がる。
サスペンションの技術は輸送能力向上の必須キーとなる部分だ。概念すら無かったところに技術そのものを持ち込めた効果は大きい。試行錯誤した過程で得た知見も重要な財産になるはずだ。技術の効果と重要さを認識させるには有用な経験となっただろう。
次は彼等にクレーン技術とその知見を得てもらわねばならない。いつまでも板バネだけに腐心してもらっては困るのだ。
「では後はゆっくり仕上げます。助かりました。ボンデさんにお願いして正解でした」
「俺達も忙しいのは確かなんだが、本当にいいのかい?」
ボンデは不満そうな表情だな。やはり最後まで面倒を見ないのは職人的に気持ち悪いものらしい。対してラムタークは何やら考え込んでいるな。
「はい、これ以上のご負担はお願いし辛いですし、今でも甘えすぎだと思っています」
そもそも報酬が無い時点で本来は頼めないのだ。関係無い者からは領主の娘の我儘で強制されていると見えなくも無い。悪い噂が立つ前に引き取るのが無難だろう。
「それにボンデさんにはクレーンもお願いしていますし。次はそちらを頼みます」
「そうだな、そっちもあったっけ。分かったよ、手が必要なら呼んでくれよな」
「ありがとうございます。引き続き、よろしくお願い致します」
深々と頭を下げる。一先ず納得してくれたようだ。
帰り道はタニアに御者を任せ、俺とメリッサは空の馬車に乗った。
「へぇ、随分と揺れないものね。これがマリーナの部品の効果ね。いいじゃないの」
「これならお尻も痛くならないでしょう。長く乗っても酔いにくくなりますよ」
これでも俺には不満だらけなんだがな。まぁ、後は俺の工夫次第だ。




