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異世界に転生したけどファンタジーなのは俺だけらしい  作者: 三十六
探求編

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26話 移動手段を造る 1

-リベスタン城塞 車庫-


 今週はずっと城内の車庫で馬車を弄っている。

 この馬車は車軸が壊れかけていて、ずっと予備扱いで使用されていなかったものだ。領内では製造出来ないためトリスタンから購入しているとのこと。当然修理出来る技術者もおらず、具合が悪くなってからは放置されていた。

 馬車の使用頻度が低いため問題視されず、従って修理の優先度も低い。気にする者がいなかったようだ。


 ジルに確認したが修理の予定は無いらしい。よって改良して私物化することにしたわけだ。まぁ、2台しかない内の1台なんだが、使っていないなら影響もあるまい。

 俺がここに来た際に使ったものよりも古く、既に何年も動かしていないため木材部分は相当痛んでいる。捨てるのも手間なので放っておいたというのが実態だろう。


 ジルから聞いたのか、作業中にマイネル司教やリナが冷やかしに来たが特に何か聞かれることは無かった。通りかかる城兵達も不思議そうな目で見ることはあったが声を掛けて来る者はいなかったな。まぁ、子供の遊びだとでも思ったんだろう。


 物は古いが大きさはこっちの方が大きいし、作りも凝っている。単純に復元しても良さそうだが、俺の目的には合致しないので作り直す。


 構造的には非常に単純だ。地面からの衝撃を吸収する部分が無いため、地面が悪いと乗り心地も非常に悪くなる。見た目はマシだが幌馬車と変わらんな。

 当然、速度も出せない仕様になる。規格そのものを変えないとダメかもな。

 概ねの採寸が済んだので、この条件を基に新しく作ってみよう。



-自警団詰所 会議室-


「お嬢、こいつがボンデさ。親父ほどじゃないが大抵の木工仕事は出来るそうだ」


 こいつが例のラムタークの息子か。なるほど、確かに体格良い。大工ってよりは木こりって感じだな。製材所でずっと仕事してればこうなるか。


「初めましてボンデさん。マリーナと申します。よろしくお願いします」


「ご丁寧にどうも。で、俺は何すりゃいい?タニアさん」


 まぁそうなるな。タニアが呼んだから来たってことか。子供が相手とは思うまい。


「アタシに聞くな。話はその子からだよ。お前の腕を見込んで頼みがあるそうだ」


「へぇ?腕ってことは木工仕事か。とりあえず伺いましょう?」


 訝しげにこちらを見る。

 

 当然の反応だな。気にせず淡々と持ってきた図面を広げる。


「こういう物を作りたいのです。お力を貸していただけませんか」


 ボンデはだいぶ驚いている。こういう図面は恐らく見たことがなかろう。

 落ち着きを取り戻すと顔つきが変わった。真剣な表情で食い入るように図面を見ている。


 タニアは少しだけ驚いた様子だったが、今はニヤニヤ薄笑いを浮かべてこっちを見ている。彼の反応が予想以上で面白がっているのだろう。


「これはお嬢さんが書いたもので?」


 ボンデは相当驚いている様子だ。


 当然だろう。三面図に展開図、構造設計は見たことも無い種類のはず。誰かの依頼を持ってきただけと考えるのが自然だ。


「はい。可能ならお願いしたいのですが、如何でしょうか」


 彼は黙り込んでしまった。

 

 ちょっとハードルが高すぎたか?最悪、材料の切り出しだけやってくれれば後は俺でも作れるんだが。


「こんな図面を詳細に書けることも驚きですが・・・この構造は初めて見ます」


 ただの重ね板バネだ。確かにこの領地で見た記憶は無いがな。


「この辺りの木ではカラマツは避けてブナで作るのが良いかも知れません」


 そう言ったらボンデは俺のことを睨みつけて来た。

 

 何だ?木工師なら当然のことだろうに、まさか木材による用途の違いが分からんわけでもあるまい。

 

「・・・タニアさん、この子は見た目通りと思わない方がいいね」


「そうかい。だが司教の秘蔵っ子だと言ってあっただろう?」


 そんな二つ名みたいなのは要らんのだが。

 

 何かやらかしても師匠のせいに出来るからこれはこれでアリかも知れん。確かに司教の知識量は尋常ではないからなぁ。


「木材の特性に造詣が有るとは思いませんでしたよ。恐れ入りました」


 何だ?口調が急に変わったぞ。タニアがニヤニヤ薄笑いをしてこっちを見ている。


「ボンデさん、やめて下さい。たかだか10歳の小娘にする口調ではありません」


 彼は頭を上げると怪訝そうな表情で俺を見る。タニアは堪えきれずに吹き出した。


「あっはっは、ボンデ分かったかい?こういう子なんだよ、マリーナは」


 ボンデの表情が柔らかく変わった。今度は面白い物でも見つけた目をしている。


「なるほどね、タニアさんが気に入るわけだ。協力させてもらいますよ」


 どうやら手を貸してもらえそうだ。何とかなりそうだな。


「手伝っていただけるならその図面は差し上げます。お願い出来ますか?」


「充分だ。ただし仕事の合間にやるので早くは仕上がらない。構わないかな?」


 請け負ってもらえれば充分目的達成だ。これ以上は望めまい。


「有難うございます。よろしく頼みます」


「任された。出来上がったら連絡するよ」


「頼むよ、ボンデ。私らも期待してるからさ」


「最近タニアさんの機嫌が良い理由が分かりましたよ。面白くなりそうだ」


 二人とも、上機嫌で俺の顔を見て笑っている。


 いまいち分からんが、兎に角上手く事は運べたのだ。成果としては十分。さて、次はどうするかな。



 下部構造に必要な部品を外注出来たので上部構造を考えることにする。


 そもそも単なる板張り構造でしかないので脆く、振動にも弱い。何より寒い。

 そんな訳で規格から全てやり直しだ。俺が考える馬車はそもそも賓客送迎用じゃない。

 長距離移動で疲弊しない環境、併せてそれなりの輸送能力が欲しい。快適ミニバンというよりは業務用ワゴンというか寧ろマイクロバス的な性能だな。

 これが上部構造に求める条件、下部構造は耐久性と衝撃緩和だな。


 動力に馬を使うが、馬車が大型化するので二頭牽きだ。車輪は全6輪。前2輪が馬に追従して左右に向くことで方向転換を容易にする。床、壁、天井はなるべくなら二重構造。グラスウールが存在しないので代替として羊毛を挟むか。


 外壁の内側に鎖帷子を張り付ける。その内狙われるだろうからな。そう考えると馬用の鎧も必要か。動力を潰されれば逃げようもない。御者の周囲も保護する仕組みが欲しいところだ。いや、欲張り過ぎかな。後から追加出来る構造にしておけばいいだろう。


 中の座席は土台に木製の板ばねを仕込む。こちらは構造が簡単なので俺でも作れる。適度に中綿を敷いて皮で覆えばいいだろう。背もたれも必要か。


 横ではなく後ろから出入りする構造で最大定員12名前後。座席を左右に割り振ればバランスも悪くない。強度的にもこの方が良いはずだ。

 

 概ねの構造が確定したので、次は材料の確保になる。本来、革の製造には多大な手間と時間が掛かる。丁寧に仕上げられる職人はわずかしか居ない。それだけ難しい技術と言えるわけだが、俺に限っては成分抽出という手法が使えるので必要分の材料が用意出来れば問題無い。とは言え、時間は間違いなく相応に掛かる。


 元々の馬車に使われていた革も綿も全て再生して再利用する。当然足りないので不足分は森で集めているところだ。既に植生と野生動物の配置はほぼ把握している。木材だけは素材が違うので流用出来なかった。こればかりはどうにもならないので集め直している。


 残念なのはゴムが無いことか。タイヤが作れないので最終的な仕上がりは期待出来るものじゃない。しかし、乗っていて辛くならない程度の水準には出来る。


 これで輸送能力のひな型が出来る。次は生産能力の機械化だな。手作業から一部が省力化されるだけで全体の生産性は飛躍的に向上する。現状を考慮すればポンプと水車が最も効率化に寄与するだろう。


 技術水準を上げていく中で注意するべきなのは技術流出だ。便利な物はそのうち真似されるものだが、複製された挙句改良品で市場を奪われるのは好ましくない。この領地での技術基盤が確立されるまでは避けたい事態だ。とは言え、既に王都辺りでは珍しくない可能性も充分有る。複製するにもそれなりの技術は必要なはず。気にし過ぎても意味の無い事かもな。

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