35話 自分のために行動するということ
「なんだかわからないけれど、わたしはユータの言うことを頭から疑ったりしないわよ。なぜならわたしは一番だからね。……でもメイとかいう子のことは記憶にないわ!」
「うむ……私もな、先ほどは『五人いたような気がする』と述べたが……本当に『気がする』だけなのだ。なにか一人、いたような……まあ、私は昔から空想上の友達との付き合いがあったし、その子がついに現実にも見え始めただけかもしれない。空想上の友達は素敵だぞ。私といつまでも仲良くしてくれる。でもな、ぬくもりがないんだ。ぬくもり、いいよな。現実の友達は素敵だ……うん……私はもう寂しくないから、君は私から離れないでくれよ」
「はあ? 理解不能だぜ。オレの記憶にはねーな。ま、でもユーが言うんならいたんだろ。お前は理解不能なことを言うが、理解不能なことは言わねーからな。どっちなんだって? どっちでもありどっちでもねーんだ。どうだ、理解不能だろ?」
「データにないんでしょう? じゃあ、私にはわからないわ。賢さとはデータを正確に把握することだもの」
色々な人に聞いて回ったけれど、メイのことを覚えている人はいなかった。
『私たちは昨日の夕食さえ忘れてしまうんだ。数ヶ月前とかいう天文学的単位の昔にいたクラスメイトのことなんか覚えていなくても無理はない』――そう言う人もいるけれど、やっぱりこれにはちょっと異常なものを感じる。
でも、その異常性に気付いているのはユータだけだ。
よくあった。昔からこうだった。
久々に懐かしい気持ちだ――世界のあらゆるものは疑問だらけだった。もっといいやり方があるはずなのにそれをしない人々。意味のない伝統や慣習をリスクを払ってでも守り抜く大人たち。他人の失敗談を聞いて『俺ならしないね』と笑いながらそう遠くない将来にまったく同じ失敗をする者。
それらはユータ視点では『間違っている』と映っていた。
しかし世間はそういう人たちがいっぱいで、彼らはみんな自分のなしたことを『間違い』だなんてちっとも思っていないような顔で、毎日を生きている。
ひとりぼっち。
たぶん悩むほうが愚かなのだろう。きっと理解できない自分が悪いのだ。
そう思い続けた日々がまた帰ってきた。
自分の正しさを自分以外に信じてくれる人がいない。
そのうちに、自分さえ、自分の信じたものが幻だったんじゃないかと思われてくる。
疎外感。
なにもない真っ白な空間に一人だけで立たされているような感覚だ。あたりからは人の声が聞こえてくるし、遠くでは仲よさそうにしている人々が見える。けれどその輪に自分が入ることは絶対にないのだと確信できる感覚。
生物としての差異。
自分はきっとモンスター側なのだとユータはある年齢まで思っていた。
だってそうだろう。同じ言語を操って、同じ姿をして、同じように生きている。だというのに話の通じない人々だらけで、実は同じように聞こえる言語を話しているだけで、本当はまったく違うことをしゃべっているのではないかと疑わないほうがおかしい。
彼らは『好き』という言葉を使う。
自分も『好き』という言葉を使う。
けれど、同じく『すき』と響くその言葉の意味が、彼らと自分とでは違うのだ。
……止めることを覚えた頭が、また動き出してしまう。
いけない。考えてもしかたのないことを考えようとしている。でも頭はどんどん思索を深めていき、思考を広げていく。
頭を止めたら楽だと、せっかく学んだのに、その学びを活かせない性質が暴走している。
「でも、幻じゃなかったんだ」
それだけは譲れない。
譲りたくないから、探す。
誰のためにメイを探すのか?
もはやそれは、メイのためではなかった。
……いや、最初から彼女のためではない。
自分のために彼女を探す。
なんのために探すのか?
考えて、考えて、考えて――なぜか考えることをやめられない頭が、勝手に深く広く考えて考えて。
そうしてようやく、彼は思い知った。
「僕は間違ってなんかいない」
それはきっと、昔からずっと叫びたかった一つの真実。
周囲からおかしなものを見るような目を向けられ、発言の一つ一つに理解を一切示されなかった。
そのたびにぼんやりと首をかしげ、あるいは笑ってごまかして生きてきたけれど――
――ずっと、自分は間違っていないんだって、心の奥で叫び続けていた。
メイを見つけることができれば、その叫びに報いることができるんじゃないか――長いあいだ奥底に封じこめられていた、自分の心を労うことができるんじゃないかと思った。
だから彼は、自分のために彼女を探す。
そして、




