22話 地獄のフィールドワーク・準備
「それではみなさん、パーティを作ってください。五人組が四つと、四人組が二つですよ」
「うわああああああああああ!」
一人叫びだして、みんな『あ、あいつはやめとこう』みたいな顔をした。
大きなテレポーター(なんか光ったりウィンウィンしてるメカ。白い)の周囲に集められた一年Fクラスのみんなは、それぞれ名前が簡単そうな顔をした相手を選んでパーティを作っていく。
その中でユータは、叫んでいる人に話しかけた。
「ミカヅキ先輩、どうしたんですか? 無表情で叫んでいると、すごい……えっと……今日も美人ですね」
ユータは、ミカヅキが『こわい』と言われると傷つくことを知っているのだ。
道着に着替えたミカヅキは、両手両膝をついてガタガタ震えていたけど、もとの知力が高いので、ユータの言葉を認識できたようだ。
「す、すまないゆうたくん……だけれど私は、『グループを作って』とか『好きな人と二人組になって』とかいうことを言われると、緊張して、なにもできなくなってしまうのだ。なにもできない私は、ほんとすごいぞ。気配の消え方が。その結果、最後まで余る」
「なるほど」
「だから、次にそれっぽいことを言われたら、声だけでもあげて、存在をアピールしようと心に決めていたんだ。存在は、アピールできたかな?」
「存在のアピールだけなら成功したと思います」
「そうか。よかった。『賢さ』とは『正しいこと』だからな。私は賢い。だから、私は正しい。自分を信じてよかった」
「そうですね」
「ところでゆうたくん、その、なんだ……ええい、照れるな。ちょっと待ってくれ」
ミカヅキは顔のまわりを飛ぶ使い魔に右手を突っこむ。
ずるりと長い太刀を取り出した。
取り出した太刀を振った。
周囲のみんなが離れていく。
「どうしたんですか、いきなり武器を振り回して」
「精神を統一しているのだ。少し勇気が必要でな。剣を振るのはいい。肩こりにきくし、心も落ち着く」
「周囲のみんながこわがっ…………びっくりしてますけど」
「なに、自然な反応だ」
「ミカヅキさんはそれでいいんですか?」
「うん? それは、横にいる人がいきなり武器を振ったら、こわいのは当たり前だからな。武器をこわがるのは普通のことだし、私が止められることでもない」
「なるほど」
「ユータくんも、これから三年間、武器を扱うこともあるだろう。でも、武器っていうのは、本来、こわいものだからな。武器になれて、武器へのおそれをなくしては、いけないぞ」
「肝に銘じます」
「うむ。君は素直でかわいい。ところで、私たちのパーティは、君と、私と、ほかには誰だ?」
「え、ミカヅキさんと僕はもう組んでるんですか?」
「え? なんでそんなこと言うの?」
「なんでって……」
「いやなの?」
「いやではないですけど、いきなりだったんで、びっくりしました」
「む、そうか。……そういえば、そうだった。私は君と組んでいるようなつもりでいたけど、君にまだ話してはいなかったな。……そう、そうだ。さっき剣を降る前に言いかけたんだけれど、勇気が足りなくて申し出ることができなかったんだ。でも、なんかその話が終わって次の話題に行った感じだったので、私の中で『すでに言ったこと』になってしまったんだな」
「なるほど」
「……あらためて、私とパーティをくんでくれるか?」
「いいですよ」
「そうか! よかった。ここで断られたら、絶望だった。絶望というのはな、望みがないという意味なんだ」
「勉強になります。パーティには、あと、メイを誘う予定です」
「どこにいるのだ?」
「僕の真後ろにいます」
ユータがちょっと体をどかすと、ミカヅキの目にもメイが見えた。
真っ白い髪に、真っ白い肌に、赤い瞳の女の子だ。
ちょっと幼い感じの容姿をしているけれど、ミカヅキと比べたら同年代はだいたい幼く見えるし、この中でミカヅキは年上なので、幼くて当たり前だ。
「しかしメイちゃんか。……ふむ。そこまで体も小さくないのに、見事にゆうたくんの後ろに隠れたものだな。かくれんぼの才能があるのかもしれない。わたしは昔からかくれんぼが苦手でな……隠れているとよく『なにしてるんですか?』と道行く人に声をかけられたものだ」
「道行く人に見つかるんだったら、一緒に遊んでる仲間にもよく見つかったんでしょうね」
「いや」
「?」
「別に一緒に遊ぶ相手はいなかった。隠れていただけだ」
「そうですか」
「うむ。見つけてくれる人が同じぐらいの子供だったら、そのまま遊びになだれこもうと思っていたんだが、私の故郷はお年寄りばかりでな……でも、お菓子とかよくもらったな……あのころはみんな優しかったのに、学園に来てから、誰も声をかけてくれない……あ、だめ。なんか泣く。もう泣く」
「元気だして」
「……うん。元気だしてと言ってくれる人がいるんだから、元気にならなきゃいけないな。ほんと、一年生になってよかった。友達っていいな……こういうのだよ、学園生活」
「ところで四人か五人でいちパーティらしいので、あと一、二人見繕わないといけないんですけど、誰か気になる子います?」
「私としては、メイちゃんの存在が気になるが……なんでその子は君の後ろに隠れているのだ? こわいのか? 私がこわいのか?」
「メイはなんか、僕からあんまり離れたがらないんです。拾ったのが僕だからかも。しゃべってくれたら色々わかると思うんですけど、とても無口で」
「なるほど。しかし可憐な容姿をしている。うむ。とてもいい。私は可憐だったりかわいかったりする相手には、特に優しくしたいと思いながら生きてきたんだ。メイちゃんもフレンドになろう。……ふふふ。どうしよう。このままだと、フレンドの数が片手の指じゃ数え切れなくなるかもしれない」
ミカヅキは別に誰でもいいそうなので、ユータは周囲を見回した。
みんなもうだいたいパーティを組んでいるようで、それっぽいかたまりが、いくつかできていた。
ところで一年Fクラスは28人のクラスだ。
今はナナが休みだから、27人いる。
マルギットは五人組四つと、四人組二つと言っていたが、このままだと、四人組と三人組ができてしまう。
ユータは『五人組三つと四人組三つにしたらいいんじゃないかな』と思った。
しかしこのあたりの考えにいたるには、二けたの引き算どころか、割り算とか、かけ算みたいな概念も必要になってくる。
そして――数字は、ややこしい。
知力1000000あるユータでも、『なんで五人組三つと四人組三つにしたほうがいいのかしら?』とマルギットに聞かれたら、わかりやすく答える自信がなかったので、黙っておくことにした。
まあ、このまま落ち着いていれば、自然とユータのパーティが三人組になるだろう。
ユータのパーティにはなにせミカヅキがいるので、戦闘能力が高い。
フィールドワークだって初めてじゃないだろうし、ユータは三人組なら自分たちのパーティでいいと思っていた。
ところが――
「おい、そこの変な集団、オレをまぜてもらおうか」
ハスキーな声が聞こえた。
声の方向にいたのは、スカートをはいたピンク髪の女の子だった。
でも、ユータは『うん?』って思う。
その子には、おっぱいがないのだ。
ユータが性別を判定する時には、だいたいおっぱいを見る。
だからたまに、ただ太っている人を女性だと思ってしまうこともあるし、ナナなんかも、たまに男みたいに思うことがある。
それでも、なんか、不自然だった。
おっぱいがない子はそりゃあいるだろうけれど、そうじゃなくて、なんか、体つきみたいなのが、女の子っぽくねえよなあ?
「ふっ、オレを見て戸惑っているな? そうだ、それが正しい……なにせオレは、理解不能な男だからな」
「きみ、男なの?」
ユータが首をかしげる。
ピンク髪の、スカートをはいた、顔と服装だけでは男だって全然思えないひとが、得意げに笑った。
「今、『男なのにスカートはいてて理解できない』って思っただろ?」
「まあ……」
「そうだ、それでいい。なんせ、『賢い』ってのは、『理解できない』ってことだからな。わかりやすい見た目とか、わかりやすい行動とかなんか、オレは絶対にとらないぜ。いつでも不可解。それが、オレだ」
「なるほど」
つまり、人それぞれ事情があるのだ。
「ところが、オレより理解不能な連中がいやがる。それが、お前らだ」
スカート男は主にミカヅキのほうを見ていた。
ユータはスッとミカヅキとスカート男のあいだからどける。
「なんだ、私に言っているのか?」
「そうだ! なんだあの、パーティを作ってと言われた時にいきなり叫び出したり、あげくのはてになんの前触れもなく剣を振ったり……やべぇよ……マジで意味がわからねえ……オレより意味わからないなんて、オレより頭いいんじゃねえの?」
「まあ、私はこう見えて、元三年Sクラスなんだ。いっかい辞めて、入り直した」
「意味不明……」
「一年Fクラスには友達がいたけど、三年Sクラスには友達がいなかったから」
「……なるほどね。よし、これで一つ、お前は意味わかるようになった」
「わかってくれるのか」
「ああ。友達は大事だからな。……まあ、オレは理解不能を信条としてるから、普通のことはしないけど、普通のことをしないために、普通のことに詳しいんだ。普通、友達は大事だってそういうのは、わかる」
「そうか。案外いいやつだな」
「おっと、オレを『いいやつ』とか、そういう枠にはめるのをやめてもらおうか! オレは変わり者なんだ! キャッチフレーズとかいらない」
「そうか。君は変わり者なのか」
「そうだ。変わり者なんだ。オレがする行動は、いちいち変わっていて、理解不能だと思うけど、理解不能ってことは、頭がいいってことだからな。つまりオレは頭がいいから、理解不能で……ん? なんだっけ? 理解不能だぜ」
「変わり者くん、君もパーティに参加したいのか?」
「おっと、オレが声をかけたからって、パーティに参加したいんじゃないかと勘ぐるのはやめてもらおうか。オレは理解不能な男だぜ。どうだ、男のくせに女子の制服とか着て、理解不能だろ。しかも似合うの、すげえ理解不能だろ。びっくりしたぜ。鏡の前で自分に惚れそうだったからな」
「君は男でいいのか?」
「オレは男だが、今、やめた」
「女なのか?」
「いいや、違う。性別さえ理解不能……今後、これでいこうと思う。だから、男とか、女とか、そういう枠でくくるのはやめてくれ。オレは変わり者なんだ。オレはオレっていう性別で生きていくぜ」
「なるほど。事情があるのだな」
「おっと、事情とかそういうのを想像するのはやめてもらおうか。オレは理解不能だからな。事情なく思いつきで色々やるぜ。事情とかあって行動したら、それは普通だからな」
「それでパーティはどうするんだ?」
「いいのか? オレは変わり者で理解不能だぜ? こんなオレをパーティに招き入れるなんて、あんたらはスーパーボールを箱の中に投げ入れたも同然だ」
「どういう意味なのだ?」
「そりゃあもちろん理解不能だ」
「なるほど」
横で聞いていて、高度な知性を感じさせる会話だった。
このスカート男も相当な知力を持っているらしい。
余人には意味がわからないだろう会話だけれど、ユータは知力が1000000もあったから、スカート男の言いたいことがわかった。
「つまり君はパーティに入るんだね?」
「まあな。オレは理解不能だが、授業に出る意思はある。理解不能と言いつつ、まじめに授業は受ける……どうだ、理解不能だろう」
「なるほど」
「ところがこれまで会話した連中、オレの言葉が理解できないようでな。『入るの? 入らないの? どっちなの?』と言われても、オレはどっちとか言いたくないんだ。わかるか? なんせオレは……」
「理解不能だから?」
「おっと、オレを理解不能だと定義するのはやめてもらおうか。なにせオレは理解不能だからな」
「わかったよ」
「ここならやんわり流れで入れてくれそうな気配があったんだ。やはりオレは理解不能。孤高の天才。……だが、オレの言葉の意味を理解できるお前らもなかなかのもんだぜ。まあ、具体的にどうとは言わないがな。オレは具体的なことを言うのが嫌いなんだ」
「ところで名前を聞いておきたいんだけど……名前を覚えないと、授業が終わらないらしいし」
「ほんとは具体的な名前も言いたくないんだが、授業だもんな。でも、オレの名前はけっこう理解不能だぜ。果たしてお前らに覚えきれるかどうか……」
「大丈夫だよ」
「そうか。じゃあ、オレの名前を覚えられるか、オレが試してやる。……オレは『アラン』っていうんだ。どうだ、理解できるか?」
「アランくんだね?」
「おいおい! 『くん』はやめろよ! オレは今、『くん』で呼ぶべきか、『さん』で呼ぶべきか、理解不能な存在と化したんだ。余計なもんはいらない。理解しやすくなっちまうからな」
「わかったよ。アラン。僕はシラ……ユータだよ」
「へっ。ユーちゃんか。理解しやすい名前だな」
「僕の後ろにいる白髪の子は、メイ」
「メイ。なるほど。よく見ればいかにもメイって感じの顔してやがる」
「そっちにいるのはミカヅキさん」
「おっとお、さすがだな、理解しがたいお姉さん。なかなか理解不能な名前をしてやがる。だがオレは知力だ。知力とは理解不能なこと。オレより理解不能な事象はこの世に存在しないぜ。木材を集め終えるまでには、フルネームで呼びかけられるように努力する」
ユータは知力が1000000もあるから、彼が努力家であることはわかった。
いや、彼ではなく、アランだ。
アランは性別を捨てたようなので、その意思は尊重されるべきだろう。
「……ともかく、僕と、メイと、ミカヅキさんと、アランで四人そろったから、僕らはパーティ結成でいいかな?」
「これ以上理解不能な存在にこられても困る。オレはいいぜ。……ああ、いや。いいかどうかはそっちで勝手に決めろ。オレの意思は理解不能だからな」
反対意見はなかった。
かくしてユータたちは木材集めのため、フィールドワークに向かうことになる。
そこで待ち受ける様々な事件――
は、特にない。




