042 売却王
ザイラス・ノクタリスの番が来た。彼は紫の水晶を見つめ、思案に暮れる。試練の内容は不明でも、この水晶が示すものには必ず意味がある。ザイラスは周囲を見渡し、計算を巡らせた。
(力だけでなく、知恵と策略が試されるのであれば、私こそが最も適任だ)
シルヴァーナに視線を向け、彼は口元を引き締めた。ダークエルフの王国において、彼女がどれほどの価値を持つか、ザイラスは理解している。シルヴァーナを手に入れることこそ、王国の支配の鍵なのだ。
(この試練こそ、玉座へ至る階段だ)
彼は紫の水晶に手を伸ばした。
触れると、世界が歪み、深い闇が広がり始めた。ざわめく風の音が耳を打つ中、ザイラスは一人立っていた。何も見えず、何も感じられない。しかし、恐れはなく、ただ一つの考えが彼の頭を占めていた。
「シルヴァーナだけでなく、この王国そのものが私の手中に収まる。貴族、軍、財宝――すべてが、私を支える力となるだろう」
彼は確信に満ちた口調で続けた。
「この王国の未来を決めるのは、私自身だ」
言葉を発すると視界が戻り、現実世界に引き戻された。晩餐会の参加者たちが彼に注目する。
シルヴァーナの姿を捉えると、彼はニヤリと微笑んだ。
「貴女はただの姫ではない」
ザイラスの声に、野心がにじみ出ていた。
「シルヴァーナの価値は、この王国のすべてに匹敵する。……間違いなく高値がつく」
冷ややかに言葉を継いだ。
「王族の姫として売り渡せば、必ずや莫大な財産が転がりこんでくる」
シルヴァーナの目が光る。
「恐ろしいほど愚かな考えです。私をただの“商品”だと思うことが、どれほど無礼なことか理解していないの?」
彼は落ち着いた声で言った。
「問題はない。王国の支配者として、私は市場の流れを知っている」
彼は言葉を鋭くした。
「望む未来を手に入れたければ、私の力を借りるしかない。それが現実というものだ」
ザルクスが反応した。
「お前はシルヴァーナを道具として扱うつもりか」
その声には深い憤りと警告がこめられていた。
「貴様に王国を支配する資格など無い」
ザイラスは一蹴した。
「私は必要なものを手に入れるまでだ」
そして、冷ややかに続けた。
「私がこの国の未来を形作る」
宣言の直後、ザイラスの視界がぼやけ、重圧が全身を包んだ。
(何だ?)
――彼は何もかも制御できると思っていた。だが今、その手から現実がすり抜けていくのを感じ取った。
何か大きな力に引き寄せられ、身体が反応して動かない。心拍は早まり、冷や汗が全身を襲う。
「こ、これは……一体何が…?」
ザイラスは心の中で焦りを感じた。普段であれば他人を嘲笑い、戦略で全てを凌駕してきたはずの彼。しかし、この状況はあまりにも不条理で、計算の範囲を超えていた。
動揺を隠せず、再び身体の力が抜けるように感じた。試練が本物であること、策略だけでは通用しない現実に直面した瞬間だった。
その時、周囲の闇が一気に晴れ、視界が戻った。彼は目をこすり、周りを見ると、晩餐会の参加者たちが驚きの表情で彼を見つめていた。
それを見たシルヴァーナが確信に満ちた声で言った。
「試練に負けたのですね、ザイラス」
その一言が、彼の心に深く突き刺さる。冷静を保っていたつもりだったが、その無力感に、彼は初めて自身の限界を実感した。全てを支配できると思い込んでいた自分が、ここにきて敗北を受け入れざるを得ない事実を突きつけられたのである。
他の参加者たちがささやき合う中、ザイラスは無力感に押し潰されそうになりながら、立ち尽くしていた。
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