041 捨て駒の王
婚約者候補の一人、バトルマスターのエリオットが立ち上がり、紫色の水晶に手を伸ばした。指先が触れると同時に、強烈な光が全身を包み、意識が遠のく。観客たちは、その瞬間、彼の試練が始まったことを悟った。
やがて霧に包まれた不穏な景色の中で、エリオットは目を開けた。自分が何処にいるのか、何を試されているのか、まったく理解できなかった。
「……ここはどこだ?」
声が空間に反響し、奇妙な感覚が広がる。静けさの中で、彼の内に眠っていた意志が覚醒した。
「冥界、魔界、人間界──すべてを支配する。シルヴァーナはその手始めにすぎない。捨て駒として使えばいい」
エリオットは自らの野心が具現化していく感覚に酔い始めた。
「それも選択の一つ。ただし、試練を越えられればの話ね」
シルヴァーナの口調にはあしらうような軽さがあったが、その言葉には挑発の意図がはっきりと滲んでいた。
観客たちの反応は分かれた。
「本気で言ってるのか……?」
「いや、あの男には何かある。軽口じゃない」
会場の空気は重く、期待と不安が入り混じる。
ザルクスの表情は変わらないが、目の奥には何かを探る光が宿っていた。
「力を持つ者が進む道は自ら決める。しかし、欲望だけではたどり着けない。試練を通して、それを証明せよ」
その言葉は重く、エリオットがまだ本質に届いていないことを示していた。
しばらくすると、エリオットの声が闇を貫いた。
「どういうことだ…! 俺の力が通じない? ふざけるな、認めん!」
彼の本性があらわになった。
「シルヴァーナも差し出す! すべて、俺が支配するための手段だ!」
黒い霧が渦巻き、彼の願望を嘲笑うかのごとく輪郭を濃くしていった。
ザルクスは冷ややかに言った。
「滑稽だな」
短い言葉が容赦なくエリオットを打ちのめす。
「力を使うとは、その責任を負うことでもある。今のお前は、自らの欲に飲まれているだけだ。そんなものに価値はない」
彼はゆっくりとエリオットの前に立ち、視線をまっすぐ向ける。
「試練は力そのものではない。その力をどう使い、何を守るために振るうのかが問われている。お前はそれを示せなかった」
言葉の一つひとつが、エリオットの胸を打つ。
「どれだけ望み、どれだけ犠牲を払おうとも、越えられない者には何も与えられぬ」
ザルクスの存在が壁となって、エリオットを押し返す。
「今のお前には王の器は見えない。考え直すことだ」
その言葉が会場全体を引き締め、誰も動かず、息だけが濁った空気の中に残った。
試練の結末はまだ訪れていない。しかし、そこにいた誰もが、エリオットの心が無傷ではないことを感じていた。
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