035 シルヴァーナのお家事情 ~ダークエルフの家での一夜~
バトルリーグの決勝は中止となり、イベントは幕を閉じた。リーグ自体も廃止され、勇者の教育制度は大幅に刷新された。
それからのロウィンとシルヴァーナは、バトルから距離を置き、穏やかな日々を過ごしていた。
ある日の午後。
シルヴァーナがふと笑いながら問いかけた。
「ねぇ、私とロウィン、どっちが強いんだろう?」
どこか挑発的な笑みに、ロウィンは一瞬戸惑ったが、すぐに笑って返した。
「それはもう、シルヴァーナに決まってるよ」
シルヴァーナは満足げに笑う。
「ふふ、ちゃんと分かってるじゃない。実はね、私、自分が負ける気なんてしないの」
ロウィンは肩を軽くすくめた。
「みんなシルヴァーナの方が強いって思ってるよ」
その言葉に、シルヴァーナの目が鋭く光った。内に秘めた負けん気が顔を覗かせたが、ロウィンの柔らかな声に、表情を緩めた。
「それより今日はデートだろ? せっかくなんだし、楽しもう」
シルヴァーナは笑顔で応じた。
「そうね。じゃあ、行き先を決めましょうか」
ロウィンは目を輝かせ、嬉しそうに候補を挙げていく。
「地下の迷宮探索、魔法と呪術の研究、薬草や毒の調合、闇の食材を使った料理、星読み、予知……」
「待って、それ、普通のデートじゃないでしょ」
呆れた声に、ロウィンは目を丸くした後、照れ笑いを浮かべた。
「いや、シルヴァーナの得意分野ばかりだから、楽しいかと思って……」
シルヴァーナはしばらく考えた後、そっと微笑んだ。
「じゃあ、久しぶりに私の家に来ない?」
思いがけない提案に、ロウィンは驚いた様子で彼女を見た。
「君の家、か……?」
「そう。最近は研究に没頭してて誰も招いてなかったの。でも今日は、ゆっくり過ごしたくて」
ロウィンはその言葉に優しく頷いた。
「それなら、きっと楽しい時間になるね」
二人は並んで歩きながら、満ち足りた時間を過ごした。
シルヴァーナの居城に到着したロウィンは、懐かしさを覚えながら足を踏み入れた。
そこからは濃密な魔力が漂っていた。冷たく神秘的なその雰囲気は、ダークエルフの血統を色濃く感じさせた。
空中には黒い目玉がゆっくりと漂い、来訪者を監視している。ダークフェアリーたちは呪いの言葉を遊び半分に囁き、広場ではダークドラゴンたちが自由に歩き回っていた。久しぶりに会ったロウィンに、甘噛みでじゃれついてくる。
「前よりにぎやかになってないか……?」
ロウィンが苦笑すると、シルヴァーナは楽しそうに応えた。
「そうでしょ? セキュリティは万全よ。今日は特別に、みんなには静かにしてもらってるけどね」
ロウィンはその言葉に、ほっとした表情を浮かべた。
屋敷の奥へ進むと、メイドが物音ひとつ立てずに働いていた。彼女たちは外敵を見つければ、すぐに闇の魔法を行使するよう訓練されている。
さらに親衛隊が現れ、シルヴァーナに報告する。
「敵対勢力の掃討、完了しました」
「ありがとう。ロウィンが来てるから、詳しい報告は後で聞くわ」
そう言って、彼女は軽くロウィンの肩に手を置いた。
すると、地獄の番犬ケルベリスが現れ、おもちゃをくわえてロウィンの前に座る。おもちゃは、なぜか生きている天使だった。
「……やっぱり、君の家って不思議と落ち着くな」
ロウィンがぼそりと呟く。
「ふふ、ありがとう」
シルヴァーナはその言葉に頬を緩めた。
その時、一人のメイドがシルヴァーナに近づき、耳打ちをした。
「前当主のザルクス様が面会を希望されています」
思いがけない言葉に、ロウィンは驚きながらも、シルヴァーナの反応を待った。
「分かったわ。けれど、今日はロウィンと過ごす時間を優先したいの。会うのは後にする」
彼女の隣で過ごすこのひとときが、何よりも大切だと、今は素直にそう感じていた。
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