029 魂の源――裏切りの英雄たち
バトルリーグの中盤戦が進む中、ソウルヴァース学園の空気は異様に重く、張り詰めていた。その中心に立っていたのは、学園のマスターの一人、アダム・グラハムだった。苛立ちを隠せず、眉間に深い皺を寄せる彼は、思い通りに進まぬ現状に内心で苛立っていた。勇者を育てる立場でありながら、成果が伴わない現実に、冷静さを保つことは難しかった。
そして、彼の視線の先には一人の少年――ロウィンが立っていた。
「ソウルヴァース学園は、選ばれし者の集まりだ。あんなゴミが紛れているとは……」
低く絞り出すように呟く声には、嫌悪が滲み出ていた。ロウィンは、アダムにとって学園の名を汚す存在だった。心の奥底で、排除する手段を密かに思い描く。
「もう限界だ……いっそ、事故を装って……」
アダムの歪んだ思考は、学園全体に暗い影を落としていた。生徒も教師も、「人々を守る勇者」という理想を忘れ、自らを選ばれし存在と錯覚していった。やがて「勇者はすべてを許される」という空気が学園に染み渡り、ロウィンのような存在は排除されるべきものと見なされるようになった。
腐敗は学園内に留まらなかった。卒業生たちは各地で反乱を起こし、政府に反旗を翻して民間人を巻き込む内戦に発展した。「正義の名の下なら、どんな行動も許される」という歪んだ解釈が、争いをさらに拡大させていった。
異世界では、かつて正義を語った卒業生たちが侵略軍を率い、民を力で支配していた。勇者という名は恐怖の象徴に変わり、戦線を離れた者たちは犯罪に手を染め、社会問題として顕在化していた。詐欺、窃盗、人身売買――かつての英雄たちの面影は、もはやどこにも残っていない。
学園の中心には、長年守られてきた「魂の源」と呼ばれる力が存在した。異世界からの脅威に対抗するための核であり、学園の存在意義そのものだった。だがこの力は安定しておらず、間違った者の手に渡れば、世界の均衡を崩す取り返しのつかない事態を招く。
とくに警戒されていたのが、ダークエルフ族のシルヴァーナだった。彼女が「魂の源」を手にすれば、世界に深刻な影響を与えるとされている。そのため、三勇者は彼女との会談を決意した。
対面の場で、シルヴァーナは静かに語った。
「私は冥界の王にはならない。私の使命は、人間界で勇者として責任を果たすこと。『魂の源』の秘密を知っても、神々との争いに身を投じるつもりはない」
その言葉に三勇者は安堵し、彼女の協力を受け入れることを決めた。しかし、学園の腐敗した上層部は信用せず、力による制圧を視野に入れていた。アダム・グラハムを中心とする勢力は、「魂の源」を守るためにあらゆる手段を模索したが、その裏には学園の威信と立場を守ろうとする焦りが隠されていた。
それでも学園の崩壊は止まらなかった。「勇者」という理想像はもはや消え去り、そこにいるのは名ばかりの英雄を気取る者たちだけだった。その虚像同士の争いが、学園をさらに深い闇へと沈めていく。本来あるべき責任や義務を忘れ、力と名誉を追い求める者たちに、人々は失望していた。しかし、学園に集められた戦力は、次第に「魂の源」を守るための、最後の希望として残されつつあった。
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