028 王の器、神の誓い
「シルヴァーナ様、お疲れ様でした」
従者のダークエルフたちが静かに駆け寄る。整った所作で頭を下げ、報告を始めた。
「前当主ザルクス様より、お言葉を預かっています」
シルヴァーナは表情を崩さず、かすかに口元を緩めた。
「聞かせて」
「三勇者から面会の要請があり、現当主であるシルヴァーナ様に一任するとのことです」
しばしの沈黙。シルヴァーナは短く返す。
「分かった」
やがて彼女は、三勇者──戦神サラ、癒しの神レイナ、星の神かなえ──と対面することになった。勇者養成アカデミー「ソウルヴァース学園」の長、セオドール・グラシアスも同席している。
「こうして再会できたことを嬉しく思う。しかし、ダークエルフの当主として、今だからこそ語っておくべきことがある」
シルヴァーナは目を閉じ、百年前の出来事に触れる。
「冥界は統治者を失った。最近になって、私に王位継承の話が届いたが──応じるつもりはない」
サラたちは黙って耳を傾け、セオドールも真剣な面持ちで見守る。
「人々を守るという、私の果たすべき役割は、まだこの世界にある」
シルヴァーナはさらに口を開く。
「私はノクシリオン──ダークエルフの神に仕える者。偽りなど一切ない」
セオドールが問いを重ねる。
「学園の秘密について、どう受け止めていますか?」
シルヴァーナは迷わず答えた。
「脅威になることは理解しています。だからこそ、守るべきだと考えています」
その言葉に三勇者の表情が和らぐ。シルヴァーナが積み重ねてきた年月と変わらぬ誠実さを感じ取ったのだ。
サラが言葉を選びながら尋ねた。
「あなたほどの存在が、今もバトルリーグに身を置く理由は? 冥界の王にも、神にもなれるのに」
シルヴァーナは目を細め、笑みを浮かべる。
「戦いに勝つことが全てではありません。大事なのは、自分の力を確かめ、仲間たちと共に歩むこと。そして──かつてロウィンが教えてくれたように、力の在り方を見つめ直すことです。彼が示してくれた道を、この時代で引き継ぎたい」
(……本当は、バトルリーグのあとにロウィンと食事に行くつもりなんだけど……絶対に言えない)
レイナがわずかに笑みを浮かべながら言った。
「あなたとロウィンは、時を越えても変わらない関係なんですね」
冗談めいた口調ながら、優しさもにじむ。
シルヴァーナは軽く目を伏せ、答える。
「そうね。百年の時が経っても、心の奥では変わらない気がする。ただ……以前より少し、素直になれたかも」
かなえが神妙な顔で口を挟む。
「歴史の記録に、ロウィンと思われる人物がたびたび登場するのが気になります。本当に彼なのでしょうか? あるいは別の誰か……?」
シルヴァーナは表情を引き締める。
「答えは私にもわかりません。でも、もし本当に彼なら──これからも私たちは、互いに関わっていくことになるでしょう」
セオドールが重みある声で言葉を重ねる。
「歴史に名を刻む者たちは、真実を覆い隠し、新たな伝承を紡ぐこともある。ロウィンも、そうした存在のひとりかもしれません」
深く息を吐き、皆の顔を見渡すシルヴァーナ。
「真実は、私たちがこれから築く関係の中で見えてくるものです。過去の絆を大切にしつつ、それに縛られず、新しい関係を築くことが、今の私の役目です」
そのとき、腹の底から小さな音が鳴った。
(……何か食べたい。せめてチョコでも……)
もちろん口に出せない。次の音が鳴らないよう、内心でひやひやしていた。
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