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025 決戦の刻

 ロウィンがバトルリーグの試合会場に足を踏み入れると、独特な空気に身が引き締まった。ここは命を懸けた戦場ではない。だが、胸の奥で湧きあがる熱は確かなものだ。


 試合のルールは明快。全力でぶつかり、実力を示す。ただし、危険はない。魔法結界が常に展開されており、どれほどの攻撃でも致命傷には至らない。強い一撃を受ければ防御が自動で作動し、衝撃を緩和する。戦闘の均衡は、そのたびに自然に保たれる仕組みだ。


 だからこそ、恐れるものはない。

 極限を引き出すための舞台。

 自らの力と向き合う真剣勝負だ。


 ロウィンの初戦の相手は、アリオス・シルバレスト。学園でも名の知れた存在で、「勇者コース」のトップを張る実力者。金の髪をなびかせ、青い瞳で辺りを見渡す姿は、人々から“王子”と称されるほどだ。しかしその裏には、冷たい計算と支配欲が隠れている。美しい外見とは裏腹に、彼が求めるのは他者を叩き伏せる快感だけだった。


 ロウィンもその犠牲になった一人だった。

 かつての試練で、アリオスは意図的に彼を困難な局面へ追いこみ、侮辱的な言葉を浴びせてきた。


「失望する価値もないな。こんなゴミくずに」


 あのとき刻まれた苦しみは、今でも鮮やかに蘇る。だが、ロウィンはもう過去の自分ではない。異世界での戦いと仲間たちの支えが、確かな変化をもたらした。


「もう負けない」


 心に誓いを刻む。

 あの男に、生まれ変わった自分をぶつける。


 試合の時が来た。観客の視線が注がれる中、ロウィンとアリオスは向かい合う。緊張は言葉では言い表せないほどに高まっていた。


 アリオスは、余裕の笑みを浮かべていた。

 勝つのは当然という態度。

 その視線には、優越感がにじんでいた。


「またお前か。少しはマシになったのか?」


 ロウィンは無言のまま、構えを取った。相手の挑発に反応することなく、むしろ冷静さを取り戻していく。


 そのとき、大型スクリーンに三人の勇者の姿が映し出された。彼女たちが視察に訪れていたのだ。観客席にざわめきが走り、試合の注目度がさらに上がる。


「……ロウィン?」


 その中の一人が、小さく呟いた。記憶を手繰るような、確信と戸惑いが混じった声だった。彼女の隣に座る仲間も、ロウィンから目を離さなかった。


 アリオスはその様子に気づくと、心の奥に火がついた。いつものように優位を楽しむだけでは満足できない。今日は違う。彼女たちが見ている。その中で完璧に勝たなければ、自分の存在は証明できない。


「――見せてやるさ」


 アリオスはそう呟くと、鋭い気を放ち始めた。周囲の空気が重くなり、観客の息が止まる。手にした剣を高く掲げ、必殺の技を発動する。


天空スカイソード


 斬撃ざんげきが風ごと駆け抜け、衝撃波しょうげきはをまとって一直線にロウィンへと迫る。だが彼は、目を閉じたまま刃の軌跡を読み切ろうとしていた。


『インスタント・ストップ』


 すべてが止まる。


 アリオスの剣が振り下ろされる寸前、時間が凍った。ロウィンは世界の静止を利用し、影のように背後へ回り込んだ。


 動きが再開されたとき、観客には何が起こったのか分からなかった。ただ、アリオスの剣は空を切り、彼の表情が戸惑いに染まる。


「どういうことだ……?」


 その問いは、すぐに答えを得ることになる。


『タイム・ブースト』


 ロウィンが加速する。時の流れを一気に進め、自らの動きを何倍にも高めた。気づいたときにはすでに目の前に立ち、拳が振り抜かれていた。


 アリオスの顔に、強烈な一撃が突き刺さる。そのまま意識を失い、地面に崩れ落ちた。


 静まり返る会場。ロウィンはゆっくりとアリオスを見下ろし、小さく笑った。


「これが今の俺だ」

 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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