023 帰還
ロウィンが目を開けると、そこには見覚えのある風景が広がっていた。
勇者養成RPG「吾輩は異世界から来たニャン娘なり!」をプレイしたあの日と同じ──ソウルヴァース学園の敷地内だった。
異世界で死力を尽くした戦いは、まるで幻のように遠ざかり、ここには静かな日常だけが息づいている。
隣を歩くのはシルヴァーナ。ロウィンをのぞき込むその笑みは、どこかくすぐったかった。
「どうしたの?」
彼女の声はいつもより柔らかく、穏やかだ。
ロウィンの胸はざわつき、現実をうまく飲み込めない。それでも何かが変わった気がした。
「……いや、なんでもない」
そう答えながら、ぎこちない笑みを浮かべる。
「ねえ、デートの行き先、決めた?」
シルヴァーナが嬉しそうに尋ねる。無邪気な様子に、ロウィンは顔を赤らめて目を逸らした。
彼女はいつもの凜々しさではなく、どこか甘えたような雰囲気をまとっている。
「今日はバトルリーグだよね? 終わったら、ゆっくりふたりで相談しよ?」
その一言に、ロウィンの気持ちは少し落ち着いた。
ロウィンは「村人Aコース」の校舎へ、シルヴァーナは「スペシャル勇者コース」のお城型施設へと歩みを分けた。
学園の門をくぐったとき、足が止まる。
冥王と魔女との死闘――あの選択が脳裏をよぎる。もしすべてが現実だったとしたら、今の世界は何なのだろう。
「……俺は、なんでここに戻ってきたんだ?」
独り言のように呟く。
心の奥が「前を向け」と告げていた。
そのとき、耳に届いたのは嘲る声。
「役立たずのロウィンじゃん」
「この学園にいるとか、ありえないし」
「お前のHP、常にゼロって感じ~」
ロウィンは軽く息を吐く。もう慣れたはずだが、異世界で英雄のように戦った自分と別人のように扱われる現実は、やはり堪える。
それでも下を向かず歩く。ここで何を証明できるかがすべてだ。
もしバトルリーグで結果を出せなければ、この学園に居場所はない。
深く息を吸い、意識を落ち着ける。
──『新たな世界が、きっと待っている』
あの旅で築いた絆も、選んだ未来も、自分自身も――すべてがここにいる理由だった。
胸に灯る意志を感じながら歩き出す。
「ここで終わるような選択だけは、もうしない」
その言葉は確かな誓いとなり、三人組の笑みを凍らせた。
ロウィンは振り返らず進み続ける。
バトルリーグの舞台は、すぐそこに待っている。
そこで何を見せるか――それが未来の自分を決めるのだ。
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