155 滅界のテスタロッサ
世界はひとつでは足りず、交わったその先に滅びが芽吹いた。
シルヴァーナの居城。
玉座の間に、金属の爪が床を叩く音が静かに響いた。
次元竜テスタロッサが姿を現した瞬間、空気の流れが変わる。微かに揺れる魔力の層が、境界の膜を押し広げていく。
漆黒の鱗に銀の光をまとった彼女は、シルヴァーナをまっすぐに見た。竜でも人でもない。理から外れた、異界の存在がそこに立っていた。
「来たか、テスタロッサ。」
シルヴァーナの声は短く、揺らぎを許さない。
「目的は?」
テスタロッサの声は低く澄み、奥底から重く響いた。その音には、計り知れぬ力の気配が宿っている。
「異世界アザロスとの接続を断つ。奴らがこちらに手を伸ばす道を、完全に封じたい。」
ロウィンが息を呑み、低く言う。
「アザロスの軍は、奪った命を魔物に変え、戦場へ戻している。対話も信義も通じぬ連中だ。」
「この世界を守るため、すべてを断ち切る。」
シルヴァーナの視線が鋭くなる。ためらいは微塵もなかった。
「ならば、我が力が要るな。」
テスタロッサの瞳がかすかに光る。そこに灯るのは、紫電にも似た魔力のきらめき。静かに流れ出したその力に、空間がわずかにねじれた。
「次元の網を裂き、道を消す。過去も未来も、この瞬間も。代償は問うな。」
その言葉が落ちると同時に、天井が光を放つ。魔法陣ではない。言葉にも形にもならない空象が、空間に浮かび上がる。
テスタロッサが一歩前に出る。途端に空間の中心がねじれ、焦点を結びはじめた。結界のようでいて、どこにも属していない。それはこの現実にひびを入れる兆しだった。
誰も動かなかった。まるで、空気そのものが動きを封じているかのように。
ただ、世界の在り方が変わりはじめていることだけが、そこに確かにあった。
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