94・俺、ヤギとともに歩く
ヤギがめえめえ言いながら、ちょくちょく立ち止まって草を食う。
そのたびに一休みになる。
大変まったりした旅だ。
「今まで猛スピードでキョーダリアス大陸を駆け抜けたのが嘘のようだ」
「あの進行速度、普通じゃないからね? 多分、大陸縦断を徒歩で果たした最速の記録に迫るんじゃないかしら」
ラムハの言葉に俺は驚愕する。
そこまでの速度で俺達は突っ走ったのか。
途中途中で宿泊したり、事件に首を突っ込んだりしまくっていただろうに。
「オクノくんの世界だとどうだか分かんないけど、あたしの村は一生旅とかしない人なんかざらだったよ。だから、国から国にわたるっていうだけですっごいの」
元村娘、ルリアが語る。
そう言えば彼女の住んでる村には行ったこと無かったな。
「ルリアの実家の村どうなの」
「わっ、また曖昧な質問してきた! えっとね、ふつう? 麦と野菜育てて、雑草とか食べさせて豚と鶏を育ててるよ。なんかねー。毎日がおんなじ感じで流れていく村でねー。あたしもあそこにいたら今頃、村の男と結婚してたかもなー」
「ははあ、ルリアさんおいくつでしたっけ」
「今十五歳だよー」
「ははあ……。年下だとは思ってたが二つ下でしたか」
「オクノくん十七なの?」
「早生まれなのでまだ十六なのだ」
「はや? うま? 早馬と十六歳と何か関係が……」
おばかの子である。
だが早生まれという概念がないなら仕方ないな。
「ええと、つまりアミラが十九歳でルリアが十五歳でカリナが十二歳で……」
「もうすぐ十三歳です!! 一歩大人に近づきます!!」
「オーケーよく分かった。で、ラムハは」
「記憶がないけど、多分百年以上生きてるわよ。っていうか正確なら数千年単位じゃない?」
ラムハがケロッとして言う。
とんでもない話のはずだが。
「外見年齢的には……アミラと同い年くらいに見える?」
「そうかも」
「かも?」
ラムハとアミラで向かい合ってからこっちを見る。
あー、並んでもらうと年が近い感じに見える!
『私ノ製造年月日ハヒミツデス。ロボニハみすてりあすガ必要デスカラネ。フッフッフ』
「ダミアンGおまえ背中に製造年月日刻まれてるじゃないか」
『ピガー!?』
ちなみにイクサは話に加わらず、じーっとヤギが草をはむ様を眺めている。
あれは多分、何も考えてないな。
ヤギはたらふく草を食って、めえーと鳴いた。
「出発だよ」
ペドロが告げる。
ヤギに合わせて出発だ。
これ、山越えとしては無理しないペースでの移動ができるんだそうだ。
ヤギの腹が減る頃合いで休憩して、ヤギの腹が満ちたら移動する。
基本的に草がある、標高が低めのところを移動するから、酸素が薄くて困るというのも少ない。
「俺達も道案内で金をもらうことが多くてね。山の凸凹以外は安全に見える高山地帯だけど、高いところに行き過ぎれば息がしづらくなって、歩いてられなくなるし、地面も脆くなる。山道の角を曲がったら崩れてて断崖絶壁……なんてこともよくある」
ペドロの話を聞きながら、まったりと行くのである。
「麓を行くのが一番安全だけど、最近そこには山巨人が出るからね」
「山巨人なのに麓に出るのか」
「山巨人はでかいから、山に登ると足場が崩れるんだよ。だから山に登れないんだ」
麓巨人じゃないか。
「なので、これくらいほどほど高いところを移動するのが安全ってわけさ」
「なるほど。ちなみに俺達は大変強いので、山巨人が出たら退治できるぞ。頼ってくれ」
「そうかい? 確かに密林を抜けてくるような人たちだからなあ。本来なら、密林を迂回する道を通っていくのが普通なんだよ。突っ切ってくる人たちなんか初めて見たよ」
そうなのか。
「オクノ。私達は基本的に迂回しないで、危険地帯でも真ん中を突っ切るから移動速度が速いのよ」
「なるほど」
どうりで行く先々で戦闘があるわけだ。
お蔭で俺達は、ほんの数ヶ月間の旅でめちゃめちゃ強くなっている。
「危険地帯ばかり回ってくれて助かる」
イクサがしみじみと呟いた。
お前以外からは聞けないセリフだなそれ。
そんな感じで、一日目はまったりと終わった。
テントを張り、休むことになる。
男テント、女テント、そしてロボとヤギである。
『やぎガ私ノぼでぃヲペロペロナメテクルノデスガ』
「鉄分補給してるんだろ」
『私ノぼでぃデ鉄分ヲ!? ピガガー!』
ダミアンGが今日も元気だ。
こいつの燃料、そもそもなんなんだろうな。
俺はダミアンGの頭の蓋をあけ、食料を取り出した。
これで適当に煮たり焼いたりして食う。
水も一緒に入れてあるから便利だ。
「本当は、あまり煙を出したりするのはよくないんだけどね」
ペドロが渋い顔をする。
「そりゃまたどうして?」
「山巨人は人間を憎んでるんだ。伝説では、あいつらは登山を愛する人間の男だったそうだ。だが山の女神の入浴を覗き、怒りを買って二度と登山できない体にされてしまった。あまりの大きさと重さで、登れば足元が崩れて山に踏み込めない。だから、登山ができる人間を憎んで、煮炊きの気配があると襲ってくるという」
「完全に逆恨みでは?」
しかもめちゃめちゃに人間くさい逸話のある巨人だ。
だが俺達は温かい食べ物を欲しているのだ。
山巨人の事情などスルーである。
「オクノさん、何を作るんですか?」
「シチューをな……」
「素敵です……! 遊牧民風なら、ヤギのミルクを入れてホワイトシチューにするのは」
「カリナ、グッドアイディアだ!」
ということで、ペドロに頼んでヤギの乳をちょっともらい、これを鍋に入れ込んで──。
「もがーっ!!」
「うわー、山巨人だー!!」
ペドロが叫んだ。
なんてところで出てくるのだ。
麓から、凄い形相で巨人が登ってこようとしている。
見た目は、全身が岩石でできている人形をしたモンスターだ。
でかさは結構なもんだな。
ホリデー号の全長よりちょっと小さいくらい……。
25mくらいかな?
怪獣じゃねえか。
これは確かに怖いよなー。
「よし」
当たり前みたいな顔をしてイクサが立ち上がった。
「はい、料理できるひとー!」
「はーい!」
ここで手を挙げる、ラムハ以外の女子達。
「じゃあ、鍋の番をお願いします。焦がさないでね。ラムハさん……」
「うっ……。みんなに教えてもらって勉強するわ」
殊勝な感じのことを仰る。
ちなみに、イクサも自炊できるそうな。意外だ。
「よし、じゃあ行くぞダミアンG!!」
『エッ私モデスカ!? アイタタタ持病ノ癪ガ』
「ロボにそんなもんはないぞ。さて」
『アーレェー』
ダミアンGを肩に担いで、イクサとともに山巨人戦だ。
腹を減らして、ホワイトシチューを美味しく食べるぞ!
ガンダムよりでかい巨人出現!!
次回、閃き巨人道場!
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