90・日向マキ航海記その1
多摩川くんと別れてから三日が経ちました。
あの人達は徒歩だから、常識で考えたらあんまり進んでないと思うけど、あの人達は非常識だからそろそろ大陸の東の端まで行ってそうな気がします。
私達はと言うと。
「いやあ、進んだなー! 風の呪法と水の呪法を組み合わせたらこんなに進むもんなんだな!」
「そうだねえ。あたいも長いこと人魚してるけど、こんだけ速い船は初めて見たさね! 気分がいいねえ!」
海賊の人と人魚さんが豪快にお喋りしてます。
町を幾つも通り過ぎて、どんどん突き進んでるけどいいんでしょうか。
どうやって多摩川くんと連絡取るつもりなんでしょうか。
私が一人だけハラハラしていると、お尻の下にあった犬小屋からフタマタちゃんが出てきました。
「わおん?」
頭が二つある大きい犬っていう見た目なんで、普通に怖いんですけど。
なんでこの子、うちの団のマスコットみたいな扱いになってるんでしょうか。
「や、あや、なんでもないです」
「わんわん」
なんか、隠さなくてもいい、不安があるんだろ、みたいに言われた気がしました。
あっ、犬の言葉が分かるなんて、多摩川くんみたいになっちゃう……!
それは勘弁して……!
でも、甲板を見回しても……。
「よしよし! これがフォースチョークである! どうだーっ」
「あ、これからリザードマンたちは日向ぼっこタイムに入ります。船はおまかせしますキャプテン」
ううっ!
まともに会話できる人がいなくない?
なんで私、こっちに残っちゃったんだろう……!!
「わんわん、わおん」
フタマタちゃんが立ち上がりました。
でっか……!
私より大きいし。
そして、前足で私の肩をぽんぽんします。
なんか、わんわんしか言ってないんですけど、なんとなく何を言ってるのか分かっちゃう。
「わんわんわん(ご主人さまとの連絡は自分が担当するから)わんわんわおん(そこは安心して欲しい)わんわおーん(バギーもあるから、それで誰かついてきてもいいし。君が運転する?)」
「あ、いや、私まだ高2なので免許持ってなくて」
「わんわん(異世界には奇妙な決まりがあるんだね)わおんわんわん(イーサワが運転できると思うから、外に出たい時は彼に言ったらどうかな?)」
「あ、お心遣いありがとうございます」
「わん(どういたしまして)わんわおーん(困ったことがあったらいつでも言ってよ。自分はこう見えても団のナンバー2なんだから)」
今知る衝撃の事実です!!
フタマタちゃんが副団長でした!
あ、いや、それは彼の自認なんですけど。
その後、フタマタちゃんは私のニオイをくんくん嗅ぎました。
「何してるんです?」
「わんわん(そろそろご主人さまのところに行くから)わんわおわん(君のニオイを目印に船に戻ってくる予定なんだよ)わんわんわん(異世界人や邪神の眷属はニオイとは違う、独特の呪力の気配があって、自分はこれをニオイとして感じ取れるのさ)わんわおわお(イクサくんも多分似たことができるよね)」
「な、なるほどー。じゃあもう発つんですか?」
「わんわん(そうするよ。結構進んでるし、事件も起きてないし)わんわおーん(何か伝えたいこととかある? あったら伝えておくよ?)」
「あ、や、特には」
すると、フタマタちゃんはふんふんと頷き、船べりに向かって歩きはじめました。
「おっ、フタマタ出発か! 気をつけて行けよ!」
「団長によろしくお願いしますよ。お金の気配があるようでしたら、僕が出向きますから!」
口々に声をかけてくる団の仲間に、フタマタちゃんが頷きます。
そして、彼は水に飛び込みました。
猛烈な勢いで泳ぎ始めます。
お魚くらいの速度があるんじゃないでしょうか。
「ああ、唯一話が通じそうな人……っていうか犬が行ってしまった」
私は遠ざかっていくフタマタちゃんの背中を見送っていました。
「かと言って、地上だと絶対、多摩川くんがノンストップで事件に首を突っ込みまくると思うし……。命がいくらあっても足りないしあれ。やっぱり海がいいなあ……」
私が呟いたら、見張りをしていたリザードマンが騒ぎ始めました。
「てきしゅー! てきしゅー!」
「ええっ!?」
こういうの、多摩川くんならフラグとか言うんでしょうか。
「皆さん! あれが先程行きあった商船から依頼を受けた、討伐対象です! その名も幽霊船!! 巨大な船そのものがアンデッドと化して海を彷徨い、接触した船を沈めてしまうのです!」
「ほうほう!」
オルカ船長が嬉しそうに笑いながら銃を抜きます。
なんで嬉しそうなんでしょうこの人。
「船を沈めるってことは……船に積まれた積荷はどうなってるんだ?」
「もちろん、幽霊船が回収し、その腹の中に溜め込んでいると言われていますよ。この積荷に関しては、我々に処理が一任されています。後は……分かりますね?」
「サイッコーじゃねえか! おいおめえら、起きろ起きろ! 獲物がやって来たぞ! 狩りの時間だ!」
オルカ船長の掛け声で、リザードマンさんたちが跳ね起きます。
私も渋々臨戦態勢です。
ポイント制の空手をやってた私が、何の因果か拳でモンスターをやっつける体術使いになってしまっているのです。
うう……戦わなくちゃなあ。
「やる気十分ですな、マキ殿」
ジェーダイさんが隣に来ました。
あなたの目は節穴ですか。全然やる気ありません。
「我もやる気満々!! さあ、我に掴まるのである! 行くぞー!」
「掴まるって、私の襟首掴んでるんじゃないの!? いやーーーっ! 幽霊船に乗り込むのいやーっ!!」
回りがあっという間に、濃い霧に包まれます。
その中から現れた幽霊船。
ジェーダイさんは何も考えず、そこに私ごと飛び乗って行きました。
「ジェーダイの奴め、張り切ってやがんな。俺も負けちゃいられねえ。行くぞグルムル!」
「了解ですキャプテン」
後から二人も乗り込んできます。
……というわけで、幽霊船探検が始まってしまったのでした……!!
「おっ、フタマタだ」
「わんわん!」
「あっちはどうだ? え? 元気にやってる? 海の仕事をこなしてる? ほうほう」
「わんわんはふはふ!」
俺がフタマタをぐりぐり撫で回していると、スーッと横からダミアンが近づいてきた。
『ホウ、ワンコデスカ……』
「ぐるるるる……」
『ナデサセナイツモリデスネ! ろぼっと差別デス!』
「お前が近づくと静電気がピリピリするんだそうだ。しかしあっちでは、日向も上手くやってるみたいだな。多分あいつなら陣形とかちょっとは使えそうな気がするから、この機会にあのアクの強いメンバーを使いこなして成長してもらいたい! あ、フタマタ。この陣形持っていって。四人陣形と五人陣形な」
「わんわん!」
俺は日向の今後の戦いを考えて、青龍陣、白虎陣、の五人陣形と、ランスフォーメーション、シールドフォーメーションの四人陣形をフタマタに託した。
ランスフォーメーションは、ジェーダイ一人を先頭にして攻撃を集中させ、後衛を守る陣形。
シールドフォーメーションは、前衛二名で後衛二名を守る陣形だ。
「まあ日向ならやれるだろ。え、なに? 自分が出てくる時に、船が濃い霧に突っ込んでいった? まあ大丈夫じゃないか? じゃあ任せたぞフタマタ!」
『今度会ウ時マデニ、静電気ヲオサエル術ヲミニツケテオキマス! ロボ三日会ワザレバ刮目シテミヨ……!』
「お前、本当に異世界のロボなのか……?」
比較的常識人のマキ視点のお話であります。
まあ全編つっこみです(
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