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78・俺、ホリデー号で潜水艦を追う

「ということで潜水艦を見かけたので格闘戦を挑んでみたのだが逃げられたのだ」


 俺が事後報告をすると、うちの団の連中全員が呆然とした。


 すぐさま、ラムハとオルカが血相を変えて詰め寄ってくる。


「オクノ! さすがにあなたでも無茶し過ぎでしょ! 水中で自由に動けないって、ロマがいなかったらやられてたじゃない! 計算無しで動くのはダメ! あなたがいなくなったら私はどうしたらいいの!」


「オクノてめえ、海を舐めるんじゃねえぞ!? ってか、お前が団長なんだからいなくなったらダメだろう……!! リザードマン31人を路頭に迷わす気か!?」


「お、おう」


 俺、気圧される。

 めちゃめちゃ心配してくれているなあ。

 ありがたやありがたや。


 さすがにここまで心配を掛けると悪いので、今後の俺はなにかする時、仲間を呼ぶことにした。

 とりあえず、イクサを見るとうなずき返してくるではないか。


「うむ、俺を呼べ。お前が何か決断する時は必ず戦いの臭いがする。俺は必ず駆けつけるぞ」


「わんわん!」


 フタマタが自己主張してきた。

 普通、においはフタマタのほうが専門みたいなものだが、こと戦いの臭いになるとイクサの方が敏感だ。


「じゃあそういう方向で。それでだな、潜水艦はあっちに向かっていった」


 俺は、潜水艦が逃げていった方向を指差す。

 そちら側には、水平線しかない。

 見渡す限り、島影の一つもないのだ。

 この辺は群島地帯とは違うな。


「なるほど、では、ここは地元民に聞いてみましょう」


 ここで提案してきたのはイーサワだ。


「我々オクタマ戦団も人数が増えました。動く際には、きちんと準備をして動かねばならなくなってきているということです。ですが、そういった根回しは僕の仕事ですからね。実は話を聞く地元民の方はこちらに用意してあります」


 イーサワが呼ぶと、3人くらいの村人がやって来た。

 さすが家の主務だ。3分間クッキングくらい手際がいいぞ。


「あっちの方角が理想の地だって言われてますな。船でもあそこまでは行きません」


「一度、あの方角を目指していった奴がいるんですが、何も見つからずに帰ってきたことが」


「帰ってこない時はだいたい海の上で野垂れ死んでいるんじゃないかと思っとります」


「ふむふむ」


 3人から聞けた話は、想像とはちょい違う。

 理想の地があることはあるんだろうが、船ではたどり着けない……?


「招かれねば入れない場所。そういうものは我の知る古代文明によくあるものだ」


「むむっ、お前は古代文明に詳しい古代人のジェーダイ!」


 スキンヘッドのおっさんが隣にやって来たので、驚いておく。


「説明的なセリフだ……。ともかく、我のいた頃には、重要な土地を守るために人を使うことはなくなっていた。呪力を使った力場を用いるのである。作成のためには、魔法を使う必要がある。奴隷を百人ばかり使い潰し、儀式によって場を整え、そこを呪法で制御した」


「実に邪悪っぽいな」


「魔法はそういうものだからな。だが、だからこそその効果は絶大で、呪力とその源さえ供給されればいつまでも持つ。センスイカンとやらが人をさらって理想の地に連れて行くのは……」


「呪力を維持するための生贄ってわけか」


 俺、納得。

 ろくでもねえ奴じゃねえか潜水艦。

 なーにが理想の地だ。


 ジェーダイの話を聞いて、村人たちも震え上がった。


「ひええ、センスイカンが連れてった人は、みんな永遠に年を取らなくて面白おかしく暮らすのかと思ってた……!」


「だってだーれも帰ってこねえもんなあ」


 そういう言い伝えから、理想の地と呼ばれたのか。

 だが、これは村人たちの希望的観測より、古代文明に詳しい古代人本人の言葉が正しいだろう。


「うむ。つまり、潜水艦はぶっ潰さなければならないわけだ。で、潜水艦はそこまでして、どうして理想の地を維持してるんだろうな? それに俺のクラスの連中が関わってるとなると、絶対ろくでもないことになってるぞ」


 俺は考えた。

 そして考えるのをやめた。


「よし、行こう」


「またオクノが考えてない……!」


 ラムハに突っ込まれた。

 だが、俺の即断即決をきちんと理解してくれる者もいるのだ!


「団長ならそう仰ると思い、船員たちとともに出港準備を完了しています」


 リザードマン筆頭のグルムルだ。

 とてもよくできた人である。


「さっすが……。じゃあ、すぐさま行こう」


「行きましょう」


 そういうことになった。




 さすがに、夜間に出港するのは危ないよね、という話になり、朝まで待った。

 みんな酒も入っていたので爆睡だ。

 俺は酒は入っていないが爆睡した。


「ふっふっふ、酒の勢いということにしちゃえば、オクノくんの貞操をもらっても……」


「ルリア! 抜け駆けはだめよ! 一番はお姉さんがもらうんだから……」


「ここは若い順がいいのでは? わたしが先に……どうやればいいんでしょうか」


「あなたたちーっ!! 協定違反よーっ!」


「ひえーっ!!」


 目覚めると、ルリアとアミラとカリナが縛られて転がっていた。

 何があったのだ。


 こうして船は再び海へ。

 一見して、漫然と理想の地っぽい方角へ突き進んでいるように見える。


 だが、こちらには古代文明に詳しいジェーダイと、戦いの臭いを敏感に察する人間センサーのイクサがいる。

 それに、人魚のロマが横を泳ぎながら水中に目を配っている。

 さらには船の見張り台には、リザードマンと日向を設置している。


「な、なんで私が高いところにーっ!?」


「高いところに攻撃が来るかも知れないだろう。戦闘要員だぞ」


「私、格闘戦しかできないんだけどー!!」


「カリナはまだ縛られてるから仕方ないんだぞ」


 人員を上手く運用するのも団長の仕事だ。

 ルリアたちは、ラムハがオーケーを出すまでは縛られたままなので、少しの間戦力外だ。


「オクノー!」


 海からロマが呼ぶ声が聞こえる。

 俺は船べりまでやって来た。


「どうしたの」


「あのさー、ここから先はあたいら人魚も避けてる場所なんだよね。つまり、この辺りからがセンスイカンのテリトリーってことになるの。あいつら、あたいら人魚に対してはこの間みたいなエビを差し向けて攻撃してくるんだよね」


「ほうほう」


「あたいの水の呪法、一人にしか掛けられないんだけど……。水中戦は大丈夫?」


「うむ。俺にいい考えがある」


 まだ試してないけどな。

 戦闘要員を集めて、相談をする。

 その内訳は……。


 俺。

 イクサ。

 オルカ。

 ジェーダイ。

 フタマタ。


 ほぼ全員が遠距離攻撃や、それに対抗する手段を持っている。

 そして全く色気のないパーティになってしまった。


「マリーナスタンス5でやってみようと思うのだ」


「おお、俺が教えたやつだな。まだ試してなかったよな」


「マリーナスタンス3だと、水上に立てた。5なら水中に行けるかもしれない。今試してみよう」


 俺の提案に、仲間たちはうなずいた。


「よし、行くぞ。マリーナスタンス5!」


 特殊な陣形を発動する。

 そして、俺達はみんな海に飛び込むのだ。


 おや、水には浮かない……?

 そして、水中だというのに地上のように動き回れるではないか。


「やっぱりだ。この陣形を維持していれば、水中でも自由に動けるぞ。みんな集合ー」


 俺が呼ぶと、仲間たちが集まってきた。

 ついでに、水棲のモンスターも集まってきた。

 腕の生えためっちゃくちゃでかい魚とか、血の色をした鋭い牙をした魚とか、でかいタコとか。


「威力を試してみまーす!」


 俺が宣言すると、早速イクサが仕掛ける。


「よし。裂空斬!!」


 続いてオルカ。


「曲射!」


「わんわん!(ヘルファイア)」


「ヨーヨー!」


 俺も斧を取り出してぶん投げた。

 何故かジェーダイは攻撃に加わらず、じーっと見ている。


『裂空曲わんヨー』


「ウグワーッ!!」


 モンスターたちは蹴散らされた。

 よし、水中でも威力は全く問題ない。

 あとは、ジェーダイだが。


「どうして連携に入らなかったの?」


「我、反射技しかないので」


「そう言えばそうだった……!!」


 こいつ、防御力がめっちゃ高い人だったのだ。

 このパーティ、いつもの攻め攻めではなさそうだぞ。

昨夜危ないことをしたので、叱られる団長。

そして、行こう、行こうということでそういうことになるのだ。


お読みいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 反射技ばっかとか、サミュエルに継承してやれYO! ライトセイバーとか普通に切るだけでも必殺だよな~
[一言] > わたしが先に……どうやればいいんでしょうか ちょくちょく子どもっぽさを露呈するカリナ。 可愛いですね。
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