71・俺、遺跡に潜れないか画策する
ドパーンッ! と、波をぶち破って飛び出した我らがホリデー号。
オルカの風の呪法が無理やり帆を押して、船を進ませる。
群島の地下にあった遺跡が、まるまる一つ水没するというのは凄いことだ。
船が、地下へ流れ込む水に引きずり込まれそうになる。
「ウワーッ、船がーっ!!」
叫びながら、海賊船が吸い込まれていった。
後ろでは、でかい渦潮みたいなものが出現している。
地下の古代遺跡はかなりでかかったようだ。
まだまだ、中身が水で満たされない。
「ちょっともったいなかったなあ。まだ宝探しもしてないのになあ」
「ひええ、わたしはあの中に入るなんて無理です! やっと船酔いを克服できたくらいなのに……」
カリナが俺にしがみついて、ぶるぶる震えた。
本当に顔が真っ青なので、めちゃくちゃ怖いらしい。
「足元にしがみつかれているととても動きづらいので、俺の肩に乗るのはどうだろう」
「どういうことですか?」
「こういうことだ」
「ひゃーっ」
ということで、カリナを抱えあげて肩の上に座らせた。
出会った頃は俺もそこまで体格が良くなかったので、こんな芸当はできなかった。
だが、今の俺はこの世界に来たばかりよりも二周りくらい大きくなっているので可能だぞ。
……なんで体が大きくなってるんだ?
身長、もうそろそろ190くらいあるんじゃないのか?
やっぱり、並み居る化け物たちと最前線で肉弾戦やってたのが効いてるらしい。
我ながら正気の沙汰じゃないもんな。
「おお……。オクノさんの上、安定感があって落ち着きます……」
「ずーるーいー! カリナばっかりー! あたしも乗せてー!!」
「ルリアはお尻が大きいので肩に乗り切らないと思う」
「むきー!!」
俺の指摘に、ルリアが抗議の奇声をあげてぴょんぴょん跳ねた。
「わんわん」
そこにフォローに入ってくるフタマタなのだ。
「わん、わおん」
「えっ、フタマタちゃんの上に乗っていいの?」
「わん」
「やったー! ヤッフー! もふもふのふわふわー!」
「フタマタ、フォローありがとうなー」
「わんわん」
どういたしまして、という感じのフタマタ。
空気を読めるわんこなのだ。
ありがたい。
実務のイーサワ、最強の鉄砲玉イクサ、戦闘隊長のオルカ、そして俺の実質的な副官のフタマタ。
我が団もかなり人材が豊富になって来た。
「おお……遺跡が……。海賊王国が……。我はこれからどうしたらいいのだ……」
ジェーダイが頭を抱えている。
「うちに来ればいいじゃん。ずーっとそう言う話してたでしょ」
「なし崩し的にそうせざるを得ない状況に追い込まれた気がしたが!? いや、だがシン・コイーワ殿がまさか、邪神の神官であったとは。あのようなモンスターに仕えていたとは、無知とは恐ろしい……」
俺はカリナを肩に載せたまま、ジェーダイの隣に立った。
二人(+カリナ)で、沈みゆく遺跡を眺める。
「あいつ、ジェーダイのことを古代人だって言ってたけどどうなのよ」
「その通りだ。我はあの遺跡で眠りについていた、古代文明の民なのだ。我は武人であったがゆえ、文化や魔法、技術には疎い。だが、遺跡の構造や使い方をシン・コイーワ殿に伝え、拾われて食事と寝床をもらった恩義として海賊王国に加わっていたのだ」
「海賊王国が悪いやつだということはご存知だったので?」
「何年も仕えていれば、そのような一団であろうことは薄々見当もつく。だが、この世界にたった一人の星戦の民であった我に行き場所などない」
星戦の民というのが、ジェーダイが属していた古代文明の人々を呼ぶ名らしい。
「だからうちに来ればいいじゃん」
「うう……! 理不尽なり……! だが、こうして船に乗せてもらっている以上はお主に恩を受けたことになる……! それにお主らは悪い奴らっぽくはない。そもそも、邪神の神官を倒してしまうなど、我らの文明でも容易には成し得なかったこと。星戦の民なら、そうさな。高位の戦士を百名は使わねばならなかったか」
その後聞いたところでは、高位の戦士というのはビームサーベルとか、銃とか大砲とかを使いこなす強い奴らのことらしい。
「昔もああいうのは倒されてるの?」
「そうだ。だが、奴らは邪神の使い魔。倒されたとしても、また数百年もすれば復活する。大本となる邪神メイオーを打ち倒さねば終わらぬのだ」
なるほど。
「お主、どこまでやるつもりだ? これほどの少人数で邪神の神官を倒したことは驚嘆に値する。それほどの力を持って、何を成そうとする? シン・コイーワ殿……いや、あやつはお主をひどく憎んでいたようだが……」
「そらもう、邪神メイオーをやっつけるのよ」
「な……なんと……!! 神に挑もうというのか! 古来、神殺しには特別な武器が必要だったと言われている。我ら星戦の民は、ツインセイバーという武器を作り上げたが、それでも邪神の神官を倒すので精一杯だった……! 一体何を以て、神と戦うのか……!」
俺は空いている方の肩をぐるぐる回してから、力こぶを作ってみせた。
「プロレス技」
「はぁ────!?」
ジェーダイが目を丸くした。
「正気か、お主!? 通常の武器は神や、その眷属には通用せぬ! ……いや、普通にお主、身一つで神官を倒していた……?」
「気絶したかと思ったら見てたの」
「うむ」
「ある意味、身一つで戦うオクノだからこそ神に迫れるとも言えるわ」
ここで、ラムハが話に加わってきた。
なるほど、ラムハはその辺、ちょっと記憶が戻ってるか、あるいは記憶があるなら詳しいよな。
「神やその眷属に、只人の武器が通じないのは簡単よ。威力が弱いから。それ以上でもそれ以下でもないわ。例え六欲天だって、威力が足りたら素手でだって倒せる」
「まさか……」
俺はジェーダイに、アイテムボックスから泥団子を取り出してみせた。
ダグ・ダムドとの契約の証である祭具だ。
ジェーダイが言葉を失った。
「六欲天をも下しておるのか。この時代の、文明もまだ発達しておらぬ民が……! いや、お主の戦い方はそれ以前だ! 極めて原始的だとも言える。拳闘は神々の時代からある原初の技。だからこそ、お主が神に通じるのか……!」
「失敬な。プロレス技は割と最近の凄い技術なんだぞ」
だが、これで最終目標とか色々確認ができた。
俺たちの目標は、邪神をぶっ倒すこと。
これは再確認。
次に、神官はまた数百年とかすると復活すること。
これは邪神とあいつらが繋がってるなら当然かな。
俺の予想だと、三神官ぶっ倒したら邪神の前で全員復活して同時に襲いかかってくるね。
ゲームとかだと大体そうなんだ。
あとは七勇者とかいう頭がおかしいものになったクラスの連中。
……出会ったらやっつけるくらいでいいな、あれは。
まだ脅威度が低い。
で、まあ、多分一番身近な脅威があるんだが。
ちらっとラムハを見たら、彼女と目が合った。
「どう?」
「……気付いていたの?」
「うん、割と序盤から。具体的には会った日辺りから」
「人が悪いわね」
ラムハは笑った。
「どうやらこれ、混沌の裁定者と繋がっているみたい。多分……ハームラを狂気に落としたのは、外の世界から来たあいつよ。だから、遺跡が一つ壊れたことであいつは焦っているみたい。ちょっときつくなってきた」
「いつくらいになりそう?」
「もう一つ遺跡が壊れたら、多分。あいつも直接手を出してくると思う」
「おっしゃ。それまでに神様をぶっ倒す技を編み出しておくわ」
「うん、頼りにしてるわ。ほんと……妙に頼もしいのよねあなたは」
ジェーダイが首を傾げて、「?」って顔をしている。
カリナは寝ていた。
充分に生き急いだので、ここからしばらくはまったりモードですぞ。
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