62・俺、船主に渡りをつける
あと二隻の海賊船も沈めたよ!
俺たちとイクサたちが協力した結果、瞬殺であった。
「おぉ、おぉ! いけるじゃねえか!! 人力でここまでスムーズに船を沈められるんだなあ! ……だけど、船を沈めるのはもったいないからな? 利用できるものは利用する方向で行こうや……」
オルカがちょっとシリアスな顔で言った。
確かに、人魚ならぬ俺たちは海の中では生きていけない。
船が必要だもんな。
「よし分かった。やっぱり直接乗り込んで無力化が一番船に優しいな」
「手間はかかるがな。船は海の財産だ。海賊船も、乗ってる奴らが腐ってるだけで船自体は悪くねえ」
「なるほど確かに。いいこと言うなあ」
さすがはオルカおじさんだ。
人生の年季が違う。
いつも通り、イクサは理解してない顔をしていたが、それを除けばみんな納得したようだ。
イクサは戦場で俺がコントロールする。
俺が一番うまくイクサを操縦できるからな……!
「オクノくーん。あなたに会いたいってお客さんよー」
アミラが向こうで手を振っている。
傍らには、油断できなさそうな目の光を浮かべた男が立っていた。
都市国家の商人、大体みんな油断できなさそうな顔してるけどな。
「やあやあ、はじめまして! オクタマ戦団の団長オクノ殿ですな? ワタクシは古代遺跡を調査する仕事をしております、ダインスです。一応、この都市国家アーテヌの国家運営議員を務めております」
「こりゃご丁寧に」
俺は彼と握手した。
政治家さんか。
こういうキャラは初めてだなあ。
すでに傭兵団と俺の名前を把握してるし。
「先程の、海賊船を次々に沈める腕前、感服いたしました。つきましてはこちらから、オクタマ戦団に依頼をしたく」
「おっ、海賊全滅ですかね」
「話が早い……!! 我が国からお出しできる報酬はそれなりですが、他の都市国家にも渡りをつけましょう。我ら都市国家群があなたを雇う。それでどうでしょうか」
「いいですよ!」
「決断も早い……! ノータイムですな! ではこれで契約成立です。海賊王国を滅ぼして下さい! あなたがたならできると信じています!」
トントン拍子でお話が進んだ。
やっぱり、実力を見せつけると結果がついてくるものだな。
「どう? いい話だったでしょう? お姉さん、儲け話も見逃さないようにしてるんだから!」
アミラが胸を張る。
「イーサワに対抗意識燃やしてる?」
「そ、そんなことないわ。男の人に嫉妬するわけないでしょ。最近オクノくんを独り占めされて悔しいなんてことないんだからね」
そうか、男も女子に嫉妬されるのかー。
ちなみにこれは、アミラ特有の感情のようだ。
年が離れているカリナにとって、イーサワは気のいいおじさんくらいのポジションらしいし、ルリアがそんな難しいことを考えているはずがない。
ルリアの思考の単純明快さはイクサに近いぞ。
「いやー、あのー、いきなり話を纏められると困るんですがー」
話題のイーサワがひょこひょことやって来た。
隣でラムハが苦笑している。
「金銭面のお話は、オクタマ戦団の主務であるイーサワが担当するわ。議員さん、細かな話は彼と詰めてちょうだい」
「ええ、もちろんです。あー、そういう手慣れた方がいた? あー、商人株まで持ってる……」
ちょっとダインス氏がガックリしている。
あれっ、もしかして俺、カモられかけてた?
「気をつけなさいよ、オクノ。あなた、私たちみんなの命を預かっているようなものなんだから。こういう交渉事はプロに任せるのよ。そのために、あなたがイーサワを仲間にしたんでしょう?」
「そうだった!」
「ええ……。お姉さん、余計なことをしちゃった……?」
あっ!
アミラがすごくしょんぼりしてる!
大変お姉さんぶっている未亡人ではあるが、まだギリギリ十代なのでかなり若いのだ。
勢い任せに先走っても仕方ない。
「ちょっとフォローしてくる!」
「行ってらっしゃい」
ラムハが余裕の表情で送り出してきた。
この記憶喪失、ハートが強い。
「アミラ、人間誰しも失敗はある! あと、ラムハとイーサワが速攻でフォローしてくれたから結果的にいい感じになるから大丈夫」
アミラの両手を包みながら伝えるのだ。
じーっと彼女の目を見てると、アミラが瞳をうるませた。
「うえーん、ごめんなさーい! オクノくん優しいー」
おっ!
アミラがもたれかかってきた。
これ、手を包み込んでなければ抱きしめられていたな。
惜しいことをした……。
そして視界の端で、ルリアとカリナがギリギリと歯ぎしりをしている。
ここに割って入ってこないくらいの自制心はあるようだ。
「……オクノくん、傷ついた心の女を癒やすために、一晩を一緒にしちゃってもいいとお姉さんは思うんだけどっ」
アミラの鼻息が荒くなってきた。
すると、突如彼女の背後にラムハが出現した。
無言でアミラを羽交い締めにして、「うぐわっ!? いたいいたいいたい!? ラムハ、冗談、冗談だから! ひええ、許してえー!」どこかに連れて行ってしまった。
恐ろしい……。
ルリアもカリナも、ゾッとした顔をしてる。
淑女の掟を破ろうとしたものには、恐ろしい罰が待ち受けているかも知れない。
「ほえー。多摩川くん本当にモテモテなんだ。異世界の人の趣味は変わってるなあ」
日向は普通にシツレイだな?
翌日。
ダインス議員が用意したのは、俺たち用の船だった。
この船そのものが仕事の報酬の先払いなのだとか。
「中古の船ですから、かなり先払いを上乗せさせてやりました」
胸を張るイーサワ。
当分の水と食料、それから武器の類を手に入れてくれたようだ。
ここで、ルリアとカリナの武器が新しくなった。
品質のいい槍と、性能のよさそうな弓だ。
これまで、帝国兵を倒したりしたものを回収して、壊すたびに取り替えていたからな。
それよりも高性能な武器が手に入るのはありがたい。
「私の杖も新調したわ。使われている黒曜石は私の呪力を吸って、かなり強力になっているみたい。だからこれだけ流用して、杖本体を変えてみたの。呪法を使う時、より強い助けになってくれると思うわね」
「ほうほう、ラムハもパワーアップかー」
「お姉さんは新しい服をもらったのよ! 見て見て!」
「あたしももらったんだよー! 見てーオクノくーん!」
「わたしもです!! 見られるのはわたしです! みてください!」
女子たちから引っ張られていく俺。
ハハハ、みんな可愛い可愛い。
ラムハがこれを菩薩のような顔で見送っている。
何気に、彼女も新しい服になってるんだな……!
さて、出港準備をすることになる。
荷物の類は充分。
乗り物酔いに効くという薬なども仕入れて、カリナの船酔い対策もバッチリだ。
ちなみにアミラの呪法、毒消しの水で船酔いはかなり軽くなるらしい。
これ、バッドステータス扱いだったのか……。
甲板には、見慣れない大箱が設置されている。
舳先側に大きな穴が空いてて、中には藁が敷き詰められていて……。
「あっ! これ、フタマタの家か!」
「わおん!」
フタマタが元気に返事をすると、家の中に潜り込んでいった。
犬小屋だ……!
自分専用の部屋を得たフタマタ、ご機嫌なのだ。
準備が進む中、日向はイクサに戦いの手ほどきを受けている。
「お前は与えられた才能だけに頼って戦う傾向が見える。勇者としての力で初期は戦えるが、才能任せは伸び悩むことになるぞ」
天才剣士が何か言ってら。
「才能……。こっちに召喚された時に身についた力、だよね? 多摩川くんにも技を継承してもらってるし」
「それだ。オクノからもらう技も己で得たものではない。技は磨けば、新しい自分だけの技が派生する。それを目指せ。まずは実戦だ」
イクサが剣を収め、拳を構える。
「来い」
「ええっ!? だって、イクサさんは剣士でしょ? 私は格闘家だから、それじゃあイクサさんが不利なんじゃ」
「来い」
「う、うん!! 行きます……! とあーっ!」
日向が仕掛ける。
ちょっと遠慮気味の一撃?
これをイクサが、普通にカウンターで迎え撃った。
「ぎゃー!」
日向が吹っ飛んで甲板をゴロゴロ転がっていく。
うーむ、男女平等パンチ!!
「手加減をするな」
「ええっ……! パンチ、全然見えなかったんだけど!? イクサさん、剣が専門で体術は素人じゃないの?」
「説明しよう。イクサは剣のスキルレベルが53あってとても強い剣士だ。だが、なぜか体術も46レベルあるので日向よりも遥かに格上だぞ」
日向の疑問に、俺が丁寧に答えてあげる。
「つ、強すぎるう」
「何をしているマキ。仕掛けてこないならこちらから行くぞ」
「しかもスパルター!」
日向の悲鳴が響く。
訓練などしつつ、まもなく船は出港だ。
あ、船名を決めてないな。
えーと……。かりにホリデー号としておこう。
海賊をやっつけたら、この船でホリデイと洒落込む予定だからな!




