44・俺、遊牧民を護衛する
「カリナの婿か……」
「だが長老、カリナはまだ子供では」
「せめて十五になるまでは待ったほうがいい」
遊牧民の大人たちが集まってきて、わいわいと協議を始めた。
その前で、女子たちがひそひそ話だ。
「おやー? おやおやおやあ。お姉さん、十二歳はまだ子供なんだって聞こえたんだけど」
「あれあれー。カリナはもしかして遊牧民でもまだ未成年なんじゃないのー?」
「気持ちは分かるけど、子供を産むならちゃんと体を作らないといけないから、成人の年齢にはちゃんと理由があるものよ」
「成人って二十歳じゃないの……」
アミラとルリアがここぞとばかりに大人気ない反撃をし、ラムハがとても真面目な話をし、日向が戸惑っている。
イクサはもちろんこういう話題に興味がない。
「そ、そ、それはあ」
カリナが小さくなっている。
涙目で、助けを求めて俺を見た。
「諸君、そこまででいいじゃあないか。可愛い嘘というやつだ。あとあんまり反撃して人間関係ギスギスすると連携しづらいでしょ。やめてー」
「それもそうね……。お姉さん、危うく全力を出すところだったわ」
「命拾いしたね……!」
「ううっ、二人がこれほど恐ろしい人だったとは……!」
年上の女性はそれなりに怖いものだぞ。
まあ、ルリアは俺より一個下らしいけど。
俺たちのやり取りを、遊牧民も聞いていたようだ。
ホッとした顔をして、代表らしき壮年の男がやって来た。
「お前たちも我々と同じ価値観で良かった。やはり、安心して子を産める年齢になるまでは結婚すべきではないからな……。というわけでカリナ、今は婚約という形にしておけ」
「うう……仕方ありません」
どうして俺たちは、カリナの年齢と結婚についての話をこんな大人数でしているのだ?
「おい、遊牧民よ。さっきの王国兵はお前たちの敵か?」
空気を読まないイクサがぶっ込んできた。
こいつのこういうところは、とても助かる。
「うむ。救援に感謝しよう。普段であれば怪しむところだが、ここまでカリナを連れてきてくれたこと、そして彼女が無事であることがお前たちを信頼する一番の証となる。あのいつもの減らず口から、カリナはお前たちの中でとてもリラックスできていると分かるからな」
「なるほど、そういう信頼の仕方があるのかあ」
俺は感心した。
それに、遊牧民は直接の家族でなくても、一族全部が大きな家族みたいな意識になっているようだ。
この集落には、百人くらいがいた。
他に幾つかの集落があって、三ヶ月とかごとに場所を移動しているのだそうだ。
それだけの間を同じところにいるなら、いつも草原を旅してて見つからない、ということはなさそうだ。
「そして、お前たちの圧倒的な強さを知った。躊躇なく王国の兵士を叩きのめすあり方も好ましい」
「なに、人を困らせている者は見過ごせん」
イクサが当然、という風に言っているが、こいつ元第一王子だからな。
第一王子が自国の兵士をまとめて叩きのめしたわけだ。
「頼みがある。我々は、実はキシアの大森林へ避難しようと考えている。かの地に住まう森の民は我らの遠い親戚ゆえな」
ほうほう。
突然の話だったようで、カリナがびっくりしてる。
「初耳です」
「お前はまだ子供だからな。話していなかった。だが旅をしてきて、お前も成長したようだ。この話をしてもよかろう」
俺たちの仲間になる以前のカリナは、もっと子供だったらしい。
「旅路はそう長くはないが、王国の者たちが追ってくるかもしれない。それに、この辺りにヒルジャイアントが出現するようになった。我々では、あの巨人と戦うのが難しい。羊を何頭か囮にして、巨人がそれを食べている隙に逃げるしかない」
「分かった! つまり俺たちに護衛を頼みたいってわけだな」
ピンときた俺。
この言葉に、遊牧民の代表は頷いた。
「その通りだ。報酬として、当座の食料を提供しよう。希望があれば羊も少しやる。どうだ」
「いいぞ」
俺はすぐ引き受けた。
あまりにあっさり引き受けたので、遊牧民側が面食らったくらいだ。
「そもそも、俺たちはカリカリステップを抜けて、キシア大森林に行くつもりだったので旅の道のりが一緒なんだ」
「そうだったのか……! お前たちは何をしに森にいくつもりなのだ?」
「その先にある海を目指して、さらに先にある島に行って宝探しをですね」
「宝探し……?」
遊牧民が理解できない、という顔になった。
だが、とりあえず俺たちが護衛するということで、安心したらしい。
一族を引き連れて集落に戻っていった。
「カリナ、お前も来い」
「いやです」
「何っ……!? どういうことだ。お前も我が集落の一員だろう」
「わたしは、オクノさんのパーティなんです! だから行きません! オクノさんと一緒に行きます!」
「お前のような子供が一緒に行って何ができる!」
また揉めだしたぞ!!
めんどくせえな遊牧民!
「あのー、カリナは普通にうちの女子たちの中だとトップクラスに強いので、頼りにしてるのだ」
「そんなばかな!」
信用しない遊牧民代表。
ということで。
カリナの腕を見る、という話になってしまったのだった。
今の彼女のステータスは、こう。
名前:カリナ
レベル:30
職業:弓使い
力 :46
身の守り:58
素早さ :102
賢さ :31
運の良さ:28
HP259
MP53
弓16レベル
短剣3レベル
✩弓
・影縫い・サイドワインダー・アローレイン
・連ね射ち・バードハンティング
辺境伯のところにいた、アベレッジと比較してもだんだん遜色無くなってきているぞ。
そもそも俺たちとともに激戦をくぐり抜けてきたので、ステータス以上に実戦経験というものがある。
遊牧民の側も大人気なく、集落一番の狩人を自負する男が現れて、狩り対決となった。
馬に乗って走って、獣を狩るのだ。
その様子を見ていると、集落一番の狩人はすぐさま兎を仕留めた。
なかなかの弓の腕だ。
「どうだ? これが大人の実力だ。子供は大人しく集落にいろ。お前も訓練していけばいつかはこれだけできるように……」
集落一番の狩人が自慢げにそんな事を言う。
そんなビッグマウスを叩いて大丈夫か……?
カリナは彼を優しい目で見つめると、
「わたしの番ですね。子供子供と呼んでいる者の実力を見るのです。バードハンティング!」
そしてすぐさま、上空を飛んでいた猛禽型モンスターを一撃で撃ち落とした。
シーマにすら通用したバードハンティングだからな……!
並のモンスターなら一撃だ。
騒然とする遊牧民。
集落一番の狩人は口をぽかーんと開けて、カリナとモンスターを見比べている。
そして自分の弓を見た。
多分、彼でも一撃で倒すのは無理なんだろうなあ。
これ、カリナが俺から技を継承されているからできるんだよなあ。
それにしたって、使いこなせるようになっているのはカリナの鍛錬によるものだ。
「うちのカリナはなかなか強いでしょう」
「……参った。我らが知るカリナから、大きく成長している。オクノ。お前とともにあったからだろう。我々と一緒にいるよりも、カリナはお前と一緒の方が良いかも知れない。もしかすると、カリナには大いなる使命が課せられているのかも知れんからな」
「いきなり大げさな話になって来た!」
ということで、遊牧民からの公認を得て、カリナは再び俺たちのパーティへ。
「やりました、オクノさん! それから、わたしを必要だって言ってくれてとっても嬉しかったです! やっぱり愛ですよね……!」
カリナがすごく積極的にくっついてくる……!
「だめよカリナ! オクノくんはお姉さんのものなんだから!」
「だめです。わたしです!!」
いつもは冷静なカリナがむきになっている。
年齢相応な感じでこれはこれでとてもかわいい。
わいわいと騒ぎながら、俺たちは遊牧民を護衛する仕事を始めるのだ。
……もしかしてこれが、俺たち傭兵団の最初の仕事になるのでは?
傭兵団……。
今度名前も決めておかなくてはな。




