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15・俺、ダンジョンをショートカットする

「潜ってみたらなんか地下室って感じなのな」


 俺は率先して、地下への道を歩いていた。

 すぐ後ろには、アミラがランタンを掲げながらついてくる。

 このパーティの中で、唯一手がふさがっていても問題ないメンバーだったからだ。


「イクサくんが加わるなら、お姉さんは回復魔法担当になるわね」


 イクサをもくん付けである。

 というか、アミラ、イクサよりも年下だよな?


「俺の両手が空くならばどうでもいい。許さんぞ、悪逆なる伯爵め。貴様こそが反逆者だ……!」


「こいつはこいつで、怒りに燃えてて話を聞いていない」


 俺と並んで、どんどん先へと急いでいくイクサである。 

 だが、明かりが届かないところまでやって来ると、立ち止まってアミラの到着を待つ。


「暗いと本気を出して戦えんからな」


「慎重なやつめ」


「俺は常に本気を出さねばならんのだ……!」


「その辺りは俺も同意だ。この先、何があるか分からんし、後ろにいる女子たちを死なせるのは夢見が悪いからな」


「ほう、貴様にも守るものがあるのか。そういう男は信用できる」


「なんだとぉ……」


 俺、男にそういうこと言われたの初めてだぞぉ……。

 何せ、ずっと変なやつだということでハブられて来たからな。


 ……そうか!

 イクサも変人だから、変人同士分かりあえるのか!


「イクサ、マイ・フレンド……!」


「なにっ」


 イクサが身構えたところで、アミラが到着した。


「さあさ、早く行きましょ、二人とも!」


 急かされ、先を急ぐ俺たちなのだった。





 さて、地下室とは言ったが、正確には地下迷宮かも知れない。

 二人並んでも余裕があるくらいの広さで、足元は四方は石で囲まれている。

 そして、進むほどに罠がある。



「オクノさん! 吊り天井です!! 降ってきます!」


「上昇ドロップキック!」


 空に向かって蹴り上げた俺は、落ちてくる天井を蹴り割った。

 罠の発動は、どうやらカリナが感知できるようだ。


「イクサさん! 今何か踏みました! 横合いに注意を! 槍衾です!!」


「ええと」


「イクサ、円月斬……えんげつざん、な」


「円月斬!!」


 イクサの斬撃が縦の円を描いた。

 突き出された槍衾がまとめて斬り飛ばされ、床に落ちる。


「そう、そうだ! この技だ。円月斬!」


「見たところ、カウンター技だな。対空、対突進性能が高そうだ。今後はそれ連発で、罠は発動させて踏み潰す方向で!」


「おう! 技を思い出させてくれて感謝するぞ、オクノ!」


 ということで。


「毒ガスです!!」


「円月斬!」


「スライムが降ってきます!」


「円月斬!」


「落とし穴です!」


「えんげつざ……」


「それじゃ無理だろフライングクロスチョーップ!!」


 イクサを弾き飛ばしながら回避する俺。

 基本はイクサの円月斬で罠を撃破する。

 円月斬で対応できないものは、俺が力づくで突破する。


 これでおおよそ、十を数える罠を突破した。


「完全に全ての罠を発動させて正面突破したわね……」


 ラムハが呆れている。

 それに対して、カリナが応じる。


「罠は私が全部分かるようです。この地下通路の中は単調な光景ですから、変化があるとすぐに察知できます。ただ、わたしは専門ではないので解除ができないから……」


「今みたいな、強引な突破しかないというわけね」


 納得するラムハ。

 ちなみに、後衛に対して発動する罠もあった。

 だが、こんなこともあろうかと後ろにはルリアを置いてあるのだ。


「ひゃーっ、転んだら頭の上に槍が突き出したよー!」


 とか、


「あれ? 今まで来た道が落とし穴になってる? あはは、なんとなく速歩きしてなかったら落ちてたー」


 とか。

 運の良さ炸裂!

 前衛に置いておいて万一死なれたら寝覚めが悪いが、後衛で俺たちが取りこぼした罠なら運の良さでいけるだろう。

 たぶん。


 罠を突破した先は、地下通路ではなくなっていた。

 そこは、自然の洞窟だ。

 伯爵の屋敷の下には、天然の迷宮が広がっていたのだなあ。



「気をつけて。ここからはモンスターの気配がする」


 カリナが弓を構えた。

 ラムハも黒曜石の杖を携え、いつでも呪法を使える体勢だ。


「二人とも、先行をお願い。ここからは罠は仕掛けられていないと思うのだけれど……」


 真剣そのものなラムハの言葉を聴きながら、俺は考えた。

 そもそも、あんな罠だらけの通路、伯爵はどうやって通過した?


 何か通過できるための手段があるというならば分かるんだけど、あれって通路全体に効果を及ぼすような罠ばかりだったし……。

 伯爵、よほど運動神経が良くなければこんな通路使えないだろ。


「イクサ、威力が一番でかい技はどれ?」


「うむ、読めない技の中に、どれか強力な一撃を浴びせるものがあった……気がする」


「よーし、じゃあ、(イチ)(バチ)かだ。連携で壁をぶち抜くぞ!」


 俺はイクサに合図をした。


「その技はな、十六夜……いざよいって読むんだ」


「よし……!! 行くぞ、十六夜(いざよい)!!」


 イクサが剣を振りかぶる。

 そして過剰とも言えるほどの力を込めて、振り下ろす。

 衝撃波が巻き起こった。


 イクサの斬撃が壁に突き刺さる。

 そして、剣が伴った衝撃波が壁を粉砕する。

 そこに、光る線が俺に向かって繋がる。


「連携で行くぞぉ! おらあっ、ドロップキックッ!!」


 対面の壁を蹴り、勢いをつけてからのステップ。

 壁面寸前でジャンプした俺は、両足の裏を崩壊しかけた壁目掛けて叩き込む。


 連携は、勇者の力を持った豊田の盾をもぶち抜いた。

 俺の予想が正しければ……。


 まるで、壁に一切の強度がないかのように、そこは粉々になった。

 俺のドロップキックが突き抜けて、壁の向こうへ到達する。


 やっぱりだ。

 連携は、相手の防御力を無視してダメージを与えることができるんだ。


「通路がある!!」


 ルリアが叫んだ。

 彼女が指差す先には、確かに下っていく通路がある。

 階段になっているから、明らかに人工的に作られているな。


「伯爵はこいつを使ったな? よーし、ここから俺たちはショートカットに入るぞ!」


 俺は宣言した。

 洞窟の中を、モンスターと戦いながら伯爵を追っていたのでは逃げられてしまうかも知れない。

 だが、この道を使えれば、伯爵を追うことだけに集中できる。


「ええ、もちろん賛成。隊列はどうするの?」


 ラムハからの質問。


「一応同じで。罠があるかも知れないし、何より俺とイクサのツートップなら、何が来ても大体対応できる」


「分かったわ。じゃあ、ルリアは今まで通りのしんがりね」


「ええーっ! あたしまた最後なのー!?」


 ルリアがぶうぶう不満を述べたが、この状況で前に出す気は無いぞ!

 イクサと全然レベル違うんだから。


「決まったか」


 イクサはすでに、ショートカットを駆け抜けていく体勢だ。

 この道は、今までの地下通路とは違う。

 魔法の明かりなのか、ぼんやりと通路全体が明るくなっているのだ。


「よし、行っていいぞ!」


「では行く」


 宣言と同時に、イクサが駆け出した。

 猛烈な速度だ。

 あいつ、さっき初めて会ったときも屋内の梁を跳び回って俺と戦ってたからな。めちゃめちゃ身軽なんだろう。


「じゃあみんな、足を踏み外さないくらいのペースでついてきてくれ! 俺も行くので!」


 というわけで、俺もイクサを追って突っ走るのだ。

 ジョイップ伯爵、待ってろよ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] イクサくん、どうぐから使うと特殊攻撃する装備みたい…
[気になる点] 今回の連携名はー? 十六夜キック?
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