100・俺、御前試合をする
「団長ー!」
イーサワがやって来た。
フタマタに案内され、バギーで爆走してくる。
我が傭兵団の主務が来たぞ。これで報酬の話や、武器などの購入もできる!
「やあ、遅くなりました。さすがにバギーと言えど、大陸を横断してくるのはきついですね。二日掛かりました」
「苦労させたなあ。だが待ってたぞ。早速仕事してもらっていい?」
「もちろんです! 僕はそのために来ましたからね」
というわけで。
イーサワは新帝国との報酬交渉に臨むのだった。
向かい合う、オクタマ戦団主務イーサワと、新帝国財務大臣。
「報酬は、これでいかがでしょう」
「高すぎる! そもそもうちは傭兵に頼らなくてもインペリアルガードの力で戦えるのだ。あくまで補助的に傭兵を運用するならこの値段が相場であろう」
「いやいや、それでは大損です。我々の食事代で足が出るではありませんか。別に我々はこちらから手を引いてもいいのです。ですが、聞けば皇帝陛下直々の依頼だそうじゃありませんか。ならばこのくらいは出すべきでは?」
「そうは言ってもだな。私にも新帝国の財務を預かる誇りがある。天空の大盆を倒すことは我が国の悲願だが、それがなされた後も国は続くのだ。ここまでしか出せん!」
「安全マージンを取りたいという気持ちはよく分かります。ですが、我々はキョードウ大陸最強の傭兵団なのですよ。それをこの価格では動かせません。その代わり、我らの力を借りることができれば、どれほどの強大な敵をも打ち倒すことを約束しましょう!」
「口先だけでは何とでも言える」
「実力を見ねばと?」
「いかにも」
「団長、少々お手間を掛けていただいてよろしいですか?」
「いいよ」
ということで。
俺達オクタマ戦団の実力を見せるデモンストレーションをすることになった。
こちらは、俺、ルリア、カリナ、ラムハ、アミラで、青龍陣。
相手は一般兵士が結構な数。
俺達と一般兵士がやりあい、どれだけ俺達が強いかを見せつけると。
普通なら、この数の差は話にならないだろうな。
五対たくさんとか。
「オクタマ戦団が、新帝国の兵士諸氏よりも個々の戦力において勝っていると証明しましょう。そうですね。十数える間にオクタマ戦団が勝利します。確約しましょう」
「ばかな!」
財務大臣が大げさに驚いた。
「ならば、その間に勝利できなかったらこちらの言い値で仕事を請けてもらうぞ」
「構いません。それはつまり、こちらが勝てば我が団の言い値ということでもありますが」
「それは困る」
「あれはダメ、コレはダメでは通りませんよ大臣」
「ぐぬぬ……。では互いに、第二の候補の報酬額ということでどうか」
「それで構いません。ああ、君、記録を取ってください。金額はこれと、これ……」
「な、何をしているのだ!」
「契約は書類を作らねばなりませんから」
イーサワが戦っているな。
十数える間に勝て、か。
なかなかハードルを上げてくれる。
しかもうちは、ハンデのつもりかイクサとフタマタを封印しているのである。
ダミアンGはいてもいなくても変わらんな。
この場にはファイナル皇帝もやって来ていた。
彼は楽しそうに笑うと、
「どれ、余がジャッジをしてやろう。皆の者、全力を尽くせよ。ただし、殺すことはならぬ。良いな? そなたらは皆、余の貴重な臣民であり、盾であり剣であり矛である」
「はっ!」
兵士達がよいお返事をした。
「まだかな」
ここで空気が読めないことをポロッと言うのがルリアだ。
兵士達がちょっとイラッとした。
「だって、あたし達準備して待ってるのに、いつまでも始まらないんだもん」
「さすが村娘ルリア。上への礼儀とかはよく知らないんだな。皇帝だから偉いんだぞあの人」
「偉いって言っても、あたし達のリーダーはオクノくんでしょ。それにあたし達まだ仕事請けてないから、皇帝さんが上にいるわけじゃないし」
「確かに道理だ」
俺は感心した。
明快な論理だなあ。
「ということで兵士の人達、遠慮はいらないからかかってきたまえ」
「無礼者めえ」
「そこそこ礼は尽くしてるんだけど。じゃあ皇帝、始めても?」
「わっはっは! いいぞいいぞ! 始め!」
ファイナル皇帝、大爆笑である。
そして発された始めの号令で、うちの団と帝国軍が同時に動いた。
「全体、構えー!! 十数える間、奴らに何もさせなければいい! 天空の大盆と戦い続けてきた我らの研鑽を見せつけてやれ!」
「影縫いです!」
「ウグワー! 体がー!」
いきなり相手の隊長格が麻痺したぞ。
ちなみに俺達、既に連携を始めている。
「闇の障壁!」
闇の壁が帝国軍を取り囲む。
「コールレイン!」
冷たい雨が帝国軍に叩きつけられる。
「スウィング!」
向こうに飛び込んでいったルリアが、片っ端から兵士達をスタンさせてぶっ倒す。
そして俺だ。
「とーう!! 火と雷と水を全身に纏い! 今必殺の! トライディザスタージャンピング土下座!」
高らかに跳躍し、全身に属性を纏って兵士達の只中に着地、そして土下座する!
この衝撃で、大地は揺れ、爆炎が吹き荒れ、稲光が走って雷鳴が轟き、激流が兵士達を押し流した。
土下座のポーズである必要は特にないが、絵的に面白いのでこの技を使った。
おっ、新たな呪法技の誕生かな?
最近、俺のステータスがバグってて、登録したはずの技が見当たらなかったりするのだ。
この世界のシステム、ちょこちょこバグるな。
『影闇のコールイングピング土下座』
「ウグワーッ」
兵士達がみんな丘の麓に流されていった。
俺達の勝利である。
ただでさえコールレインで足元がじゃぶじゃぶになっていたところに、俺の土下座が炸裂したのだ。
さらに、ラムハの障壁が水がよそに流れるのを許さなかった。
ルリアのスウィングでみんな動きを鈍らせていたのも効を成したな。
「な、な、なんじゃこりゃー!!」
財務大臣が頭を抱えた。
「はっはっは、では契約成立ですな。皇帝、ここにサインを」
「よしよし。契約が成立したのでは仕方ないな」
ファイナル皇帝が笑いながら、契約書にサインをした。
なかなかの高い報酬を得られることになったぞ。
「そなたらが強いことがよく分かった。この剣士を抜きにしてそれほどの力。間違いなく、天空の大盆攻略の助けとなるだろう! ……で、そなたは何をしているのだ」
ジャンピング土下座で泥を跳ね上げ、泥だらけになった俺。
アミラに水をかけてもらって、泥を落としているのである。
女子達がわいわい集まってきて、俺の体から泥をはたき落としている。
「オクノくんいっつも泥だらけになるんだからー」
「やはりわたし達がいないとオクノさんはだめですね」
「オクノくん、ちょっと手がかかるところが可愛いわよね」
「ほらオクノ、バンザイして。服の下にも泥が。もうー」
俺はされるがままになりながら、真面目な顔で皇帝に向き合った。
「大変お見苦しいところをお見せしています」
「よいよい。なんというか、そなたには緊張感というものがないな」
「よく言われます」
「だが、だからこそこの戦いにおいて、そなたのようなその場の空気を壊す……いわばどう動くか予想できない者が必要なのかも知れん。頼りにしているぞ」
「頼りにされますよ、雇い主の皇帝陛下」




