祝福と神様とスキル
ジャガイモ栽培は二期作をし、かなりの量を収穫する事が出来たので、それを販売し、村にまとまった現金収入が入った。
お陰で村にジャガイモ保管用の地下貯蔵庫付きのとても頑丈な倉庫を町の大工さんを呼び、建てる事が出来た。
父ちゃんはここ一年くらいは〈ジャガイモ農家〉と名乗れるほどにジャガイモ漬けの毎日を送り、
開拓中の〈ホープ村〉の〈ホープ種のジャガイモ〉は各地の開拓村で、
その作りやすさと、収穫量と、美味しさで、冬の食糧難をかなり助ける事が出来たらしい。
既に来年分の種芋の注文が、〈ジェムさん〉経由で殺到している。
それ程までに安定した食糧の備蓄は、周辺の開拓村で望まれていた様で、
冬を安心して越せる人が1人でも増える事は、何より喜ばしいことだ。
村の発展も嬉しいが、
両親が、もっと喜んでいるのは、俺の成長である。
俺自身も五歳になり、この世界に来て初めての開拓村以外の〈町〉に来ている。
そう、俺の成長を神様に報告して、〈祝福〉を受ける、この世界の〈七五三〉的な風習のためだ…
祝福を受けて、〈職能〉を授かれば俺の成長タイプが判る、
戦士系か?
魔法系か?、
はたまた生産系か?
今後を占う大イベントだが…
辺境も辺境、一番端の開拓地の〈町〉だから、ウチの開拓中の〈村〉よりはマシだが、〈二百人居るかな?〉程度…
今月生まれた五歳が、教会に集められたはずだが、
俺1人のみだった。
昼でも少し薄暗い教会の中で、両親と座って、〈祝福〉を待っている俺の前には四人の神様の石像が並んでいる。
三体の神様像の後ろの台座に一体の神様像がある。
手前の三柱が
農業と開拓の神、ピオニール様
学問と魔法の神、エスティーダ様
技術と商業の女神、カマラ様
そして、奥の一柱がこの世界の主神、
愛と命の女神、アモール様
アーガスじいちゃんの授業で名前は聞いていたが、ピオニール様以外は初めての姿を見る神様だ。
教会の石像は誰が作ったかは知らないが、
ピオニール様のクオリティから考えると、ほぼこの石像の姿のままなのだろう…
神様の像を眺めながらボンヤリしていると、
法衣の紐を結びながら、
「お待たせしました。
急患が運び込まれて、治療をしていたもので…
早速はじめましょう。」
と、バタバタと神父様が現れて、忙しない〈祝福〉がはじまった。
父ちゃんと母ちゃんに背中を押されて、神父様の前に歩み出ると、
受付記録を片手にした神父様が、
「えーっと、ビル君だね。
神様に〈五歳に成りました。〉ってお祈りをしようか?」
と優しく声をかけてくれたので、昨日父ちゃんと練習した正式な祈りの姿〈膝立ちになり、掌をスッっと何を捧げる様に差し出す〉で四柱の神像に祈を捧げた。
すると、
神像が微かに光りだしたかと思えば、
「ジロー君、久しぶり…あっ!、もうビル君か。」
と声が聞こえる。
あたりを見回すが、〈声〉が聞こえているのは俺だけの様で、神父様も、両親もリアクションしていない。
というよりか、
動いてすらいない?…
時が止まった様な空間で、ピオニール様の石像が光りを放っており、
声に聞き覚えのある俺は、
「ピオニール様?」
と呟くと、声の主が、
「そうだよビル君、元気にしてたみたいで何よりだ。
ビル君の苦し紛れの言い訳のお陰で、
冬の飢えをジャガイモで救われた人々が、
〈ピオニール様の使徒様が作ったジャガイモに助けられました。〉
と、感謝の祈りをくれるもんだから、他の神々から羨ましがられて、
〈自分達もビル君を使徒にする!〉
って、騒いでいるんだよ。」
と困った感じの声が聞こえてくる。
続いて〈エスティーダ様〉の石像が光り、
「はじめまして、学問と魔法等の神をやっている〈エスティーダ〉だ。
君の人生を賭けた最後の戦いと、壮絶な最後…そして家族を思いやっての決断…
笑っ…
いや、感動した。
だから、私も君に少しばかり力を授ける事にしました。」
と聞こえた。
〈あぁ、アレを観たんだね…〉
と、少し憂鬱な気分になるが、
「エスティーダ様、有り難うございます。」
と、感謝を伝えると、
続けて、〈カマラ様〉の石像が光り、
「はじめまして、〈ビルっち〉。
ウチは技術と商業の神さまをやってる〈カマラ〉だよ。
ウチも、ビルっちに力を授けちゃうからヨロシク!」
と、元気で陽気な声が聞こえた。
「カマラ様、こちらこそ宜しくお願いします。」
と、答える。
そして、最高神アモール様の石像が一際強く光り、
透き通るような優しい声で、
「私は、女神アモールです。
あなたのジャガイモで多くの人々が飢えから救われました。
まだまだ、その救いは広がるでしょう。
素晴らしい行いに私たち神々の力を合わせて、新たなる〈スキル〉を作り、
あなたに授けます…
ぷっ…
アノ様な悲惨な最後を迎えて…プフっ…
挫ける事無く、頑張っているご褒美だとでも思って下さい…」
と、笑いをこらえながら話す、この世界の最高神様に、
若干複雑な心境ではあるが、
「アモール様、有り難うございます。」
と頭を下げると、
俺の捧げた掌に一冊の〈本〉が現れた。
驚く俺に構う事なく、
〈アモール様〉の優しい声で、
「フゥー、ヨシ!
もう大丈夫…イケる、私は出来る子…」
と、聞いてはイケない独り言の後、
何事も無かった様に、
「ビル君、ソレは我々神々が作った、〈スキルカード〉を作り出す、
あなた専用の〈ポイント交換〉というスキルです。」
と説明されたが、全く解らない…
アモール様は続けて、
「その本には、あなたが今までに倒した魔物に対しての〈ポイント〉が蓄積されています。
先ずは表紙を開いて下さい。」
と指示を受けて、硬い革表紙を開くと、
表紙の裏に、
『愛は勝ち取る物、そして分け与える物!』
と書いてある…
益々〈何コレ?〉感に襲われる俺に、
アモール様が、
「うーん、そうですね…
〈ファイアボール〉ならイケるかな?
では、本に手を添えて、
〈炎魔法〉の〈ファイアボール〉をお願いしてみましょう。」
とチュートリアルを始めてくれるみたいだ…
俺は、言われるままに本に手を添えて、
〈炎魔法〉と考えると、
頭の中に、
『どの魔法にしますか?』
〈初級 ファイアボール〉
〈中級 ファイアランス〉
〈上級 ファイアストーム〉
〈その他〉
とリストが浮かぶ、
俺は、〈ファイアボール〉を指定すると、
『ファイアボールは30ポイントで交換可能です。
現在のポイント、32です。
交換されますか?』
とテキストが頭に浮かび
〈ハイ!〉
と答えると、
『本を閉じてお待ち下さい』
と指示されたので、本を閉じた瞬間に、
〈チーン。〉
と、レンジみたいなベルが鳴り、再び本を開けると、本の中に四角くくり貫かれた様な溝が有り、透明なカードが入っていた…
〈何か、こんなヘソクリを隠す本が有ったな…〉
とアホみたいな感想で、出来上がったカードを眺める俺であった…
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