お勉強と自宅警備
さて、言葉も覚えて、会話は問題無く成ってきたが、
困った事がもう1つ…
文字が読めない問題にぶち当たっている。
折角の〈鑑定〉スキルだが、全くもって鑑定結果が解らないのである。
〈ウォーター〉と〈念動魔法〉の訓練は正直飽きてしまった。
魔力も、乳幼児の時と比べて格段に上がったらしく、水玉飛ばしくらいでは魔力が無くならない程度に成っているので、朝から夜まで水の玉をペットの様につれ歩けるが、
お陰で飽きるのも早くなってしまった。
他のスキルを伸ばすにも、鑑定結果が解らないのでは、やる事がない…
ちなみに〈豊穣〉のスキルは既に実験済みで、物凄い効果が有った。
ドノバンさんが作ってくれた〈お砂場遊びセット〉で父ちゃんが畑仕事をしているのを横目に畑の端っこに1メートル四方の〈ビルの畑〉を〈豊穣〉のスキルを使い耕して、父ちゃんの蒔いている〈カブ〉の種を少し貰って蒔いてみた。
魔力を込めて耕した畑は、父ちゃんの畑と比べ物にならないくらい、早く、大きく、育っている。
魔力を込めれば込めるほど、効果は上がる様だが、あまりやり過ぎると父ちゃんが怪しむので、
内緒で果樹園の奥に魔力たっぷりで土を耕し、オヤツに出た父ちゃんが育ている葡萄の種を蒔いてみたら、一週間で苗木になっていた。
一年はかかりそうな成長を一週間である。
野菜なら毎週収穫が出来そうだ…
葡萄の苗木は、父ちゃんにアッサリ見つかってしまったが、
「ビルが見つけて植え替えたのか?
でかしたぞ、苗木一本得したよ。
鳥が食べて、たまに知らない所から苗木が生えることがあるからな…
コイツはビルの葡萄だから大事にしないとな。」
と喜んでいた。
〈セーフ!〉
なので、残されたスキルは、鑑定系スキルなのである。
一刻も早く文字の勉強を始めたいのだが、
開拓村に学校や寺小屋、家庭教師の類いはない…
しかし、
俺にはマンツーマン授業をしてくれる〈インテリじいさん〉のアーガスじいちゃんがついている。
じいちゃんに預けられた時に、
「じーじ。ご本読みたい。」
とせがむと、
「よーし、じーじが読んでやろう。」
とアーガスじいちゃんが乗ってくるのを見計らい、
「ちがう、僕が読みたいから、アーガスじーじ、字を教えて、お願い。」
と、上目遣いでおねだりしてみる。
すると、
「よし、元王国筆頭文官アーガスの全てをビル坊に教えてやろう、
将来は文官職にも成れる様に計算も一緒に教えてやるとするか。」
とやる気になったアーガスじいちゃんに習うこと一年、三才に成る頃にはアーガスじいちゃんは俺の事を〈神童〉と呼ぶようになっていた。
なぜなら、大体一年で並みの大人以上の読み・書き・計算ができたからだが…
文字には少し苦戦したが、カタカナで英語を表記する程度の難易度で、基本の五十音さえ記憶すれば問題無しだし、
計算に至っては、小学生レベルだったので、中身は日本のアラフォーのおっさんには楽勝だ。
アーガスじいちゃんは、父ちゃんと母ちゃんに、
「王都の学校に行かせないか?」
と薦めてくれたが、
俺が、
「父ちゃんと母ちゃんと離れたくないし、この村が好きだから、どこにも行きたくない!」
とキッパリ断ると、アーガスじいちゃんは、
「ビル坊は、既に文官職の試験もスラスラ解いてしまう神童だ。
今すぐ王様にお目通りが叶うのならば、正規の給料で採用されるぐらいだが、
ビル坊がこの村が好きなら無理は言わん。
だが、大人になって、お城で働きたくなったらワシに相談してくれよ、ビル坊。」
と半分残念そうだが、〈村が好き〉と言っていた言葉に半分満足そうだった。
字が読める様になり、〈植物鑑定〉が使える様になったが、
〈魔物鑑定〉は使うタイミングがない…
三才児では村の外に出ることもないし、村の中で魔物を見る事もほとんど無い。
アプルさんとパンプさんが狩ってきた魔物は、既に仕留められた後なので、〈魔物〉ではなくて、〈素材〉のカテゴリーらしく鑑定出来なかった。
村に入ってくる〈虫魔物〉や〈鳥魔物〉くらいしか対象が居ないが、
父ちゃんの畑や果樹園で虫魔物や鳥魔物を見つけた時点で、作物のピンチだ、
悠長に〈鑑定〉している場合ではない。
父ちゃんや母ちゃんが見ていない事を確認してから、見つけたバッタや芋虫型の虫魔物に、
〈ウォーター〉の魔法で作った水を〈念動魔法〉で動かして、
バッタや芋虫の胴体の〈空気穴〉を塞いで、暴れたり、飛んで逃げようとするのを〈念動魔法〉の射程いっぱい迄伸ばし追いかけて溺れさせる。
鳥魔物はもっと簡単で、水鳥でない限りは、頭を水で覆い、包んでいる念動魔法を絞りあげる様にすれば、虫同様に溺れ死ぬ、
肺があるぶん虫よりも溺死するのが早い気がする…
倒した魔物は、こっそりアイテムボックスにしまい証拠隠滅して終了となる。
少しずつアイテムボックスに貯まっていく虫の死骸にさえガマンすれば…ではあるが…
そして、数回魔物を倒して、あることに気がつく、
走ったり、飛んだりが急に楽になったのだ。
成長と云うよりも、もっと急な変化…
産まれて初めての〈レベルアップ〉に感心しながら、
庭先で独り遊びをしている風を装い、
我が家の警備員となり、畑と果樹園と薬草園のパトロールをする毎日を送っている。
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