最終回、〈ナニクソ〉と頑張った結果
俺も、この世界に来て19年になる。
駅のホームから落ちて、
〈お漏ら死〉して…
神様に一芸採用みたいな理由で〈転生チャンス〉を貰い、
特に何か使命があるわけでは無くて、楽しく過ごせと、こちらに送り出され、
とても優しい人々に囲まれて、幸せな幼少期を送り、
一夜にしてその全てを失いドン底に落ちて…
すったもんだ有ったが、父ちゃんと母ちゃんと、村の皆の夢〈村の開拓〉は十分出来たと思う…
少し予定外に大きく成ってしまった感はあるが…
現在はビルドもホープもベンチャーも境目がよく分からないデッカい街状態に成ってしまい、
周辺の森も開拓されて、高い壁で囲われた小さな区画では野菜の品種改良を〈豊穣〉のスキル無しで、〈植物鑑定〉と〈豊作〉のスキルで時間をかけて出来るか?の実験中だ。
ビルド地区の近くの村でも独自の作物の品種改良と、家畜魔物の品種改良も試されて品質を上げる努力をしているし、
最近では、他国から実習生がやってきたりして更に人口が増加している。
ダンジョンから持ち帰えられる大量の鉱物資源と、ドロップアイテムのお陰で、それらを使った武器や防具で街は潤っている…
一見〈死の商人〉の様ではあるが、この世界、人と戦うのは希で、まだまだ魔物と戦わなければ生きて行けない厳しい世界だ。
誰かの生存率を上げる為の産業である。
それに最近では戦争なんかしたら、〈俺が、街ごと焼き払う神罰〉を下すと、もっぱらの噂らしい…
丸腰で追い返した帝国軍七千人からの噂みたいだが…まるっきりウソではないから否定しにくいし、
何だか厄介な人物扱いは嫌だが、戦争の抑止力になるなら我慢だ…
学校も順調に成果をだしていて、
ナンディ商会に丸ごと管理して貰っている村には、表向きは商会として運営しているが、…職員全員がスキルモリモリの改造商人部隊で、諜報活動もしてくれているし、新人も学校からドンドンと優秀な人材が育っている。
俺の領地の北の端にある岩だらけの山の麓に有った村にはウチの村から〈開拓集団〉として、一人立ちした職人さんに、街の運営方法を学んだリーダーに、新たな土地を耕す事に楽しみを覚えてしまった農家数組を送りだした。
多分数年も有れば立派な村になるだろう…
しかし、困った事に、
ホープ村をはじめとして、〈開拓〉自体に楽しさを感じた住人は多く、
ウチの領内では飽き足らず、
「ビル様の領地を広げてきます!」
と、未開の地に乗り出して行くチームが何組も有る…
スタンピードで一旦は放棄した開拓村や更に奥の未開の地に村を開く住人達…
村人が一見減った様に見えるが、ポイントが1日で三万ポイント程入る様になった…各地でまた飢饉の難民を助けているのだろう…
もう、手当たり次第村人を改造しても、お釣りが来てしまう…
ウチの領民はスキルモリモリなのも浸透したのか、大概の荒くれ者も、
「〈聖都ホープ〉の住人です。」
と言えば大人しくなるらしいので、
ウチの周辺では盗賊も少ないので助かっている。
農民であれなら〈騎士団はさぞかし…〉と武力でどうこう言ってくるヤツも居ないし安心だ…
ただ、各地の腕自慢が、
「一手御指南を!」
と絡んで来るのが鬱陶しいらしいが、
〈そんな時はコテンパンにして良い〉と住人には言ってある。
見物客がまた噂を広めてくれて、どの村人が〈ホープの村人〉か解らなければ、他国で盗賊に襲われる村人が減るかもしれない…
住人達は、難民としてここに集まったけど、今は自由に自分のやりたい事をしている…
街に残る者、新たな村を作る者、
新たな世代に繋ぐ者…己の技を磨く者…
もう、自分の足で歩ける人ばかりだ…
そして、
「ビル様、ウチの料理科の生徒が作ったカップケーキですわ。
一緒にお茶にしませんか?」
と、事ある毎に押し掛けてくるターニャお嬢様が復活している…
なんだかんだで、この感じは…落ち着く…
やっぱり母さんの血かな?
足しげく通い、グイグイアピールした父さんに決めた母さんの…
いつしか俺も、彼女を探す様になっていた…
俺は、心を決めて、
「ターニャさん…」
と話しかけると、
「ふぁい?」
と、口一杯にカップケーキを頬張ったターニャお嬢様が返事をした。
タイミングとしては最悪だったが、
一度決めて勇気を出したのだ…止められない…
俺は、ターニャさんを見つめて、
「お嫁さんになってくれませんか?」
と告白した。
すると、ターニャさんは思考が停止したように数秒固まり、
二度ほどモグモグと口の中のカップケーキを噛みしめた後、
真っ赤な顔で椅子から立ち上がり、
…走って部屋を出て行ってしまった…
部屋に残された俺と、ターニャさんのところのメイドさん…
俺は、メイドさんに、
「フラれました?」
と聞くと、「まさかぁ~」と笑っているが…この状況はなに?
すると廊下の向こうから、
「お父様、お母様…私、やりました!」
と叫ぶターニャお嬢様の声が聞こえ、
今度は、走って戻ってきて、そのスピードのまま抱きついてくるターニャさん…
そして、
〈プロポーズの返事と共に〉
散々タイミングの悪さを注意された…
「カップケーキを飲み込みたいが、
胸がキュッとなり喉を通らず、あわや窒息しそうになった!」
と頬を膨らませていた…
涙を流し、俺の胸でニコニコしながら文句をいう、忙しないレディを見つめて、
俺も、心の中で、〈父さん、母さん…村の皆…ありがとう…〉
と言って、ターニャさんをそっと抱き締めた…
そして、
神様…俺にチャンスをくれてありがとうございました。
途中で、心が折れてしまい放置しており大変ご迷惑をおかけしました。
少し急ぎ足になりましたが、予定していたラストにはたどり着けました。
ありがとうございました。




