新しい世界と新しい両親
〈お漏ら死〉をして異世界に転生させてもらった俺だが、
現在、〈絶賛お漏らし中〉だ…
だって、しょうがないじゃないか、赤子なのだから…
そう、俺は転生して、
寝て、起きて、おっぱい、ゲップ、寝て、漏らして、起きて、泣く…
そんな毎日を過ごしている。
あまり長く考える事も出来ずに、すぐに眠りの世界に誘われてしまうので、
日にち感覚は勿論、
朝と夜の感覚も曖昧なまま、
かなりの時間を過ごし…
そして、
ー やっと、自分の状態や周りの状況が解ってきた ー
今回の〈父ちゃん〉は農家さんっぽいムキムキの土の香りがする〈漢〉で、
〈奥さん大好き〉な働き者だ。
ベビーベッドから見えるキッチンで、〈母ちゃん〉のお尻をペロンと触っている姿をよく見る。
〈ラブラブだな…〉
そして、〈母ちゃん〉なのだが…
父ちゃんが、ゾッコンなのも解るよ。
美人なんだよ…
どうやって〈父ちゃん〉が、あの〈母ちゃん〉を射止めたかが、今、一番知りたい事の1つだ…
しかし、あの美人からミルクを直で頂けるのは、嬉しいやら恥ずかしいやら、邪な心が芽生えそうだが、
乳幼児の体に思考が引っ張られるのか、
〈ご飯だ!〉〈美味しそう!〉
としか感じない。
授乳の最中も〈安心感〉に包まれるだけで幸せを感じる。
母ちゃんの胸を邪な目で見ているのは、
むしろ父ちゃんなのかもしれない…
まぁ、そんな感じで、
見事に〈美女と野獣〉夫婦なのだが、
夜、俺を寝かしつけた後、
〈美女が野獣〉に変わるらしく、
週に何度か、朝方死にそうな〈父ちゃん〉を見かける、
〈弟か妹が出来る前に、父ちゃんが渇れ果てないか?〉と心配する乳幼児に
「父ちゃん頑張るぜぇ」
と、俺の頭を〈ポン〉と触って、早朝の畑作業に向かう〈漢〉の背中に、
俺は心の中で、
〈どの点を頑張るんだい?父ちゃん…〉
と思いながらも、〈狸寝入り〉で見送る。
〈母ちゃん〉は昨晩遅くまで起きていたから、まだ起きる気配がない、
なので俺は、起こさない様に〈1人遊び〉を始める。
神様からもらった〈スキル〉の〈ウォーター〉の魔法と〈念動魔法〉をこっそり練習するのだ。
〈ウォーター〉の魔法を初めて使った時は、どれくらいの水が出るかも分からずに床をビシャビシャにしてしまい、
翌日、〈母ちゃん〉の指示で〈父ちゃん〉が屋根のチェックをさせられていた。
〈ゴメンね、父ちゃん…〉
その後も何度か〈ウォーター〉をコッソリと練習し、
今では、魔力を制御してパチンコ玉ぐらいの水の玉を作り、
〈念動魔法〉でその水の玉を包み、意のままに飛ばしている。
手の平を天井に向けて、天井スレスレを縦横無尽に水の玉を走らせ、
母ちゃんが起きる前に、ベッド近くの花瓶や水差し等にシュートする。
今の俺に出来る最大の娯楽だ…
今では、目を瞑ったままでも、キッチン側の水瓶にまで水を移動出来る。
〈念動魔法〉は距離が離れれば離れる程、多くの魔力と繊細な操作が必要となるので、やりがいがあるが、
調子に乗ってやりすぎて、水を作り出した瞬間に〈魔力〉が無くなったらしく、
生成した水をそのまま頭からかぶり、
ビシャビシャのまま、気を失った状態で母ちゃんに発見されて、大騒ぎに成った事がある。
此方に来るときにピオニール様に大体の〈スキル〉や〈魔法〉についての注意事項を聞いていたが、魔力やスキルは使えば使うほど、強く成ったり、便利に成ったりと〈育つ〉らしい。
スキルが無くても繰り返し努力する事で〈生える〉スキルもあるし、
〈魔力〉はギリギリまで使って、回復する瞬間に総量が増えることが在るが、ゼロまで使うと、緊急魔力回復モード…〈白目を剥いて、完全に気絶する〉状態になる。
知ってはいたのだが、
つい、ウッカリ、
白目を剥いて気絶している我が子を母ちゃんに発見させるという、
何とも言えない親不孝をしてしまった。
翌日、父ちゃんは長雨の中、また屋根に昇る羽目になるし、
方々に迷惑をかけながら手にした〈念動魔法〉の上達もよいのだが、
それよりも、
今、もっと頑張らなければ成らないのが、
『異世界の言葉』問題だ。
乳幼児に話し掛ける程度の〈単語〉と、両親がよく使うセリフから、
〈父ちゃん〉〈母ちゃん〉〈いってらっしゃい〉〈頑張ってきてね〉
みたいな単語は解る様になった。
はじめの頃、ずっと〈いってらっしい〉だと思っていた単語が、
〈頑張る〉だったと知った時は驚いた、
ある日の夜、母ちゃんの待つベッドに、〈いってらっしい〉と言って潜り込む父ちゃんをみて、
〈いってらっしゃい?〉としばらく考えて、
初めて、〈いってきます〉の返しが〈いってらっしゃい〉ではなく〈頑張って~〉だったと気がつく。
では、〈いってらっしゃい〉は?
と考えていたが、数日後に雨の中、屋根の確認を渋る父ちゃんに、母ちゃんが、
早く〈いってらっしゃい〉と言っていたので理解した。
知らない国の知らない言語を覚える苦労は、並大抵ではないが、
教えてくれる講師陣が〈赤ちゃんにでも解る〉を方針にした大変解りやすい授業を年中無休で行ってくれているので、
日々異世界語を理解している実感がある。
しかし、喋ったり、読み書きはまだお預けだ…
流石に乳幼児が受け答えするのは不味かろう。
しかし、結婚が出来なかった男が、育児などしたことが無く、
どのくらいで喋っていいかも解らない…
難しいぜ、異世界…
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