迎え撃つ為の準備と開戦

帝国側の街の西側外壁はあえてあまりの直さずに、所々何かしらの兵器で打ち抜かれたままにし、門も開いたままにした。

そして、街の中央広場を綺麗にして、

ギルドの建物や、宿屋に既に売り物を根こそぎ奪われた商会の建物なども綺麗に掃除して、細工を施したり、

あえて瓦礫を並べて迷路にしたり、落とし穴等を準備して、

帝国軍の援軍が到着するのを待った…

準備を整えて敵を待つ間はずっと、

街の西側入り口の馬車馬の牧場の隅に積み上げられた住人の亡骸を荼毘に付す作業に追われた…

街の瓦礫の下や民家の中…帝国軍に隠れていた所を襲撃されたであろう民間人の遺体…

少し街を綺麗にしようとする度に見つかる被害者達…

それに中央広場で処刑されたであろう街の有力者達と、

晒されていたギャベッジ辺境伯の首…

この光景をターニャお嬢様は見てしまったのだろうか？

〈出来る事ならば、脱出後に処刑されたのであれば…まだ…〉

と、思いながら、街を取り返して以来、

見つかれば一旦集められ、

〈悔しさからアンデットになる前に…〉

と、燃やして埋葬する気分の滅入る作業が続いたある日の夕方、

東から〈ガシャガシャ〉と鎧の擦れる音をあげながら、

何かのフェスの会場に向かう様な人の波がこちらに向かって来ている…

捕虜として領主館の地下に閉じ込めてある兵士から剥ぎ取った鎧を身に纏ったウチの村人が、

「お待ちしておりました。」

と、中央広場に軍の先頭集団を案内する。

先頭集団は広場周辺にテントを設営しはじめ、

偉そうな貴族が、宿屋に入って行く

ギルドの建物や商会の建物を使い、炊き出しを作り始める敵軍、

物資が運びこまれた頃合いで、

案内役に化けたウチの村人が内壁の中に戻って来た。

俺が、

「大丈夫だった？」

と聞けば、

「最後まで住民がたて籠った領主館の片付けの最中です。

腐りはじめた死体の処理をしておりますので…良かったらご覧に？

と言ったら、

〈匂いが移る！あとは此方で勝手にするから作業の続きに戻れ〉

と言われました。

今、第一皇太子とやらが屈強な護衛と宿に入っております。」

と報告してくれた…

さぁ、作戦開始だ

穴空け魔法の〈ピットホール〉をポイント交換スキルで、大工組と魔法部隊に渡して、

領都の下に地下道を整備してある。

横向きに〈ピットホール〉を放てば、

直径三メートル、奥行き三メートルのトンネルになり、

下に放てば、同じサイズの落とし穴になる…

トンネルは、大工組にポイント交換を使い取得してもらった〈硬化〉で固めてあるので、ちょっとやそっとでは崩れない。

地下道を通り親方達は一斉に罠のストッパーを外しに向かった。

と言っても、建物基礎を石レンガで補強してから建物の床だけをストンと落とすために壁と床を親方達が切り離したのちに建物の床下に大穴をピットホールで空けていたのだ。

宿屋は基礎を〈石レンガ生成〉で一部分を崩せば崩壊する作りだ。

ギルドの建物と、商会にも似たような罠が仕掛けてある。

そして

ポイント交換で

〈隠密〉〈気配消し〉〈潜伏〉

という、〈索敵〉スキルからも察知されにくくなるスキルを持った、

テイマー部隊と騎獣部隊が、

東門の外に待機しており、

壁の上潜んだ魔法部隊に取得して貰った上級魔法を合図に、

テイマーと騎獣部隊は、

取得して貰った〈従魔召喚〉で従魔を呼び出して、

数合わせで最後尾を渋々行軍する歩兵達を街へと追いたてる役目だ。

馬車や馬で先に街に入り、既に飯を食い、風呂に入るお貴族様と違い、

歩いて移動させられまだ飯も食べていない鎧もヨレヨレの革鎧の集団には悪い気もするが…

騎士部隊は内壁内部に待機して、

弓部隊はバリスタを内壁の上から街の内部の帝国軍に射かける為にスタンバイしている…

地下道を通り親方達全員が内壁の中に戻って来たら、

魔法部隊のリーダーに合図を送る予定だ…

〈皇太子さまとやら…死なないでね…〉

と、俺は心の中で軽く祈り、

帝国軍二万 対 ウチの村人三千

の戦がはじまった。

魔法部隊の上級炎魔法が中央広場のテントに命中したのを開戦の合図に、

あちら此方の壁の上部から撃ち込まれる上級魔法…

彼らにはダンジョン産ハイマジックポーションやフルマジックポーションを渡してあるので、しばらくは魔法の雨は止まないだろう。

「敵襲！敵襲ぅぅぅぅ！！」

と蜘蛛の子を散らす様に逃げ回る帝国軍、

東門から逃げ出そうとするが、

狼等の魔物や小型地竜で走り回る騎士に追いたてられ雪崩れ込む歩兵達に押し戻される。

東門周辺はパニック状態になり、魔法の雨を逃れる為に路地に逃げ込む帝国兵士達…

〈でも、そっちは落とし穴トラップと瓦礫迷路エリアだよ…〉

広場の異変を聞きつけた護衛が宿屋で皇太子を守る為に何かしているらしいが…

宿屋の窓や扉から土埃が舞い上がった…

罠が発動した様だ。

頑丈なギルドの建物や商会の建物に逃げ込んだ帝国軍も同じく穴に落とされた模様…

バリスタはその間も帝国軍の馬車を破壊し盾を構えた騎士すらも串刺しにする…

また暫く死体処理に明け暮れる事に成りそうだ…