ホープ村と村人の進化

さて、町は軌道に乗りつつあるが、

村は兵士団もないし、防衛に不安がある…

町の兵士では、村までカバー出来ないし、

兵士を養うには村は小さすぎるし、現金収入が、ナンディ商会へのお野菜の委託販売しかない、

しかも、鉄や布、新たな作物の種や苗の購入で現金はそんなに残らない。

何か村の特産を作らなければ…

とりあえず、品種改良に集中したいが、村のお肉担当が居ないと野菜ばかりのお寺みたいな食生活になる。

せめて、卵でも何とかなればと思い、

ポイント交換の本を出す。

ポイントがガンガン貯まるように成ったので少々の無理はスキルで何とかなりそうだが…

俺は、

〈野生の魔物を家畜化出来るスキル〉

と念じると、

〈テイマー〉２００ポイント

所有者のレベル以下の魔物を契約し、三体従えることが出来る

〈酪農〉１００ポイント

卵や、子供の頃から飼育した魔物を従える事ができる。

ただし、一種類に限られる。

〈生き物好き〉５０ポイント

飼育している生物の環境整備能力が上がり、病気やストレスのリスクを下げることが出来る。

〈あぁ、有るねぇ。

歩き鳥だけではなくて色々出来そうだ。〉

とりあえず村の馬車馬を管理してくれている親子に〈酪農〉と〈生き物好き〉をプレゼントしてみた。

数日後、特に大きな変化はないが、馬がツヤツヤしている様だった。

まぁ、プラス効果は有ったのだろう…

村は今のままでもギリ、何とかなるが、

たとえ、卵が生産出来たとしても、

問題は、森に狩りにいくメンバーだ。

俺とジールさんだけでは、いずれ問題が出る。

そこで、

〈もう、村の男衆はスキルモリモリの前衛職ぐらいにして、

女性陣は弓や魔法で後衛職にしてしまおうか？！〉

と思い付く

勝手に進める訳にも行かないので、

〈村全体会議〉の開催をして皆の意見を聞く事にした。

７０人の村人で農家や職人がメイン職だが、

副業として、戦闘職や回復職などに成っても良いとの意見だったので、

〈剣術〉や〈回避〉、〈盾術〉を持った戦士や

〈弓術〉や〈気配消し〉、〈ターゲット〉を持った弓兵、

攻撃魔法チームに回復魔法チーム

そして、避難組から

〈前の村の側の草原には狼の魔物がいた〉

との情報から〈テイマー〉部隊も作って各地から有益な魔物の収集も行う事にした。

配備が終了すると、ホープ村は農村の皮を被った戦闘民族並みにスキルモリモリの集団に成ってしまった。

ー 一年後の夏 ー

村は格段に広くなり、

狼を牧羊犬代わりに使う酪農家や

狼と共に森に入り、〈レッドベアー〉さえも仕留めてくる葡萄農家に、

大剣の一振で木を斬り倒す木こり…

よく解らない村に成ってしまった。

歩き鳥の飼育にも成功したし、

葡萄の品種改良で、上質のワインの製作を目指している。

当面はオリーブオイルや他より美味しいオレンジやリンゴの出荷で外貨を稼いでいる。

かなり潤っているので良いのだが、

脳筋な村人ばかりでは問題だから、〈読み書き〉と〈計算〉の授業を皆に受けて貰う事になる。

〈ミミちゃん〉のお勉強がスタートだったのだが、

ミミちゃんに勉強を教えていたら、

「パパもママも、計算できないよ。」

と暴露されて、パパとママもお勉強に参加し、

なんやかんやで村人総出のお勉強大会に成ったのが理由だが…

文字が読めない村人がこんなに居たとは、ビックリだった。

文字を読めるようになった村人は、知識を求める様になり、

ナンディ商会に、専門書や物語、童話等の本の買い付けもお願いした。

本は高価だが、基本的な衣食住が整った村には娯楽や新しい刺激が必要だ。

村の鍛治師のアルドのおっさんと共同で作った共同浴場もはじめは人気アトラクションだったが、

生活に完全に溶け込み〈日常〉に成ってしまった。

新しい知識で活力ある生活を送って欲しいものだ…

村の図書館はあっという間に完成し、スカスカの本棚に毎週本が増えていき…

皆が知識を吸収するにつれて、村に新しい物が産まれる。

新たな料理に

新たな娯楽、

そして…

〈なぜ、そうなった…？！〉

魔物狩りに遠征し、１ヶ月ぶりに村に戻ったが、

唖然とする俺の目の前には、

頑丈な村の壁の上にバリスタが並び、試し射ちで大木をへし折り、

馬より早くて強い〈小型地竜〉に股がり、走り回る弓兵士、

フルプレートメイルを身に纏い、見たこともない〈剣技〉を繰り出す騎士…

〈信じられるかい、農民なんだぜ…コレ…〉

新たな知識で、新たな技術や新たな技を手に入れた農民が、覚醒してしまった様だ…