楽しい日常と滅びの足音
ポイ活も順調だし、
薬草も元気に育っているし、
種芋販売も問題なく進んでいる。
この調子ならば、来年の春には〈開拓期間〉が終了して、〈村〉になる予定だが、
まずは、この冬を越すための食糧を備蓄せねばならない。
父ちゃんの畑や果樹園の収穫を手伝い村の倉庫に運ぶ日々が続く、
狩りには行けないが仕方ない、
ジャガイモは勿論、人参に玉ねぎ、ミカン等を収穫する。
果物類は町にジェムさんが売りに行き、代わりに、小麦や調味料を買い付けてくれる。
保存食の為に〈塩〉が多めに要るのだが、
秋だというのに、獲物が少ないとアプルさんとパンプさんがボヤいているし、
加工する肉が無いので、プリシラさんも暇そうにしている…
デカイ芋虫で釣れるデカイ魚は獲れるが、獲り尽くすとマズいので、冬の〈たんぱく質〉を魚のみに頼る訳にもいかない、
本来ならば、〈ダッシュボア〉に〈跳ね鹿〉が沢山獲れる時期なのだが…
収穫も終わり、父ちゃんと一緒に村の近場で、〈牙ネズミ〉や〈角ウサギ〉を狙い狩りをして、何とか冬の〈たんぱく質〉が確保出来たが、村人全員分には少し心もとない。
今年は野菜中心の我慢の冬になりそうだ…
ー 冬のある日 ー
アプルさんが家に駆け込んできた。
酷く焦った様子で、
「すまねぇ、森の様子がおかしかったのに、気づくのが遅れちまった。
俺たちのミスだ!
森から魔物が溢れて、こちらに向かったらいる。
一番頑丈な倉庫に全員で移動してくれ!」
と、指示を受け、
母ちゃんは俺の手を引き、エレオノーラ師匠の家に寄って師匠と合流した後で、倉庫に向かった。
母ちゃんの笑顔の消えた横顔を眺めながら、平和ボケしたオツムの俺には、今の状態を理解することが出来なかった…
倉庫には、村の皆が集まっており、
ジェムさんがボウガンを握りしめているし、
ドノバンさんは大きなハンマーを担いでいる。
アルフさんは盾と片手剣を装備している…
アーガスじいちゃんまで、魔法の杖を握って倉庫の前に立っている。
〈これは、ただ事ではない!〉
と理解した俺だが、
アプルさんとパンプさんと一緒に倉庫に駆けつけた、生まれて初めて見る〈冒険者姿〉のデカイ斧を持った父ちゃんに、
〈ヒョイ〉と抱き上げられて倉庫の中に運ばれる。
「父ちゃん?」と聞こうとしてが、
父ちゃんは、皆に
「スタンピードだ。女性陣は倉庫の中に隠れてくれ、既に村の入り口は閉じて来たが、軽く数千の群れだ。
どれだけ持つか解らない!」
と皆に説明している。
〈ヤバいじゃないか!〉
ようやく全てを理解した俺は、
「父ちゃん、僕も戦う!」
というが、
「バカ野郎!」
と怒鳴られた…しかし、父ちゃんの顔は怒っている訳では無くて、悲しさと嬉しさと色々混ざりながらも〈決意〉した漢の顔だった。
父ちゃんに地下倉庫に運ばれて、ジャガイモ達の箱の真ん中の通路に降ろされた。
父ちゃんは、
「ビル、ここで隠れていろ…」
と、俺の頭を撫でてくれた。
「父ちゃん…父ちゃん、怪我しないでね。」
と抱きつくと、父ちゃんはポケットから軟膏壺を出して、
「お守りが有るから大丈夫だ。」
と言い残して地下倉庫から出ていく。
母ちゃんが、地下倉庫の蓋を閉めながら、
「ビル、生きてね、愛してるわ。」
と、不吉な別れの言葉を放つ、
俺は、
「母ちゃん!」
と叫び地下倉庫から出ようと階段に近づこうとすると、
エレオノーラ師匠が、
「有り難うビル坊、私の可愛い弟子…」
と言って何かの小瓶を地下倉庫に投げ入れた。
母ちゃんが、扉を閉めたが、
扉の向こうから母ちゃんのすすり泣きが聞こえる…
「母ちゃん!」
と叫んだが、師匠の小瓶から立ち上る煙を吸い込んだとたんに、〈ヒドイ眠気〉に襲われた…
俺は、沈みゆく意識の中で後悔していた。
魔物ひしめく異世界で、魔物が攻めて来る事を今の今まで考えて無かった…
アイテムボックスを使えば、山から岩を運んで壁を強くする事も、
なんなら〈防御系魔法〉という選択肢も有った筈だ…
〈クソ!…俺は…クソ野郎だ…〉
と、自分を呪いながら、深い闇に完全に沈みこんだ…
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