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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.14 さそり座娘の解毒法
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恋人乞い

 十一月に入り、はや数日。今日もなんら変わらない日常を、この町は過ごしていた。ここは水戸駅、茨城県の中心駅である。今日も何千、何万という人々が行き交う場所だ。

 そんな水戸駅にまた一つ、一本の列車が到着した。同時に大勢の人々が、ホームへと足を踏み入ていく。初めて来た人、毎日通う人、久しぶりにやって来た人。人それぞれ、様々なドラマを生みながら、この場所で人生の一瞬を共にしていた。……その人混みの中に、不安げな表情を浮かべている少女が一人。


 ――着いたのは着いたけど……本当に、この駅で間違ってないよね? 大丈夫だよね?


 彼女もまた、久しぶりにこの地へと訪れた一人だった。ここが目的地で合っているか、何度も何度もスマホで確認しながら、エスカレーターの最後列に並んでいる。あまりの怯えように、すれ違う人々から異質な目線を向けられているとは知らずに。


 ――水戸駅……。合ってる、大丈夫。多分、この駅で大丈夫。となると、次はバスに乗るから、えっと……。


 スマホの画面に夢中になりながら、エスカレーターを降りて歩く。途端、目の前に女性がいることに気付かずに、背中にぶつかってしまった。


「あわわっ! す、すみませ……あぁ!」


 異常とも言える驚き様を見せた彼女はあろうことか、ぶつかった拍子にスマホを落としてしまっただけではなく、更にそれにビックリして掛けていた眼鏡さえも落としてしまったのだ。そんな彼女の情けない姿に、ぶつかられた女性も苦笑いを浮かべていた。


「あわ……あれ、眼鏡……?」


「はい、眼鏡とスマホ」


「……あ! ありがとうございます……」


 あまりにも情けなさすぎる自分に悪態をつきながらも、ありがたく眼鏡とスマホを受け取る。そんな彼女に怒る気すら起こらなかったのか、女性は一言「気を付けてね」とだけ言い残して、去っていった。


 ――うぅ……恥ずかしい。思い切って来ちゃったけど、やっぱりやめたほうがよかったかなぁ……。


 惨めな自分に後悔の念を抱きながらも、自動改札機に切符を入れて通る。今度はそんなことが起こらぬよう柱の前に立ち、改めてスマホで次のバス停を確認し出した。


 ――えっと、お兄ちゃんの家がここだから、このバス停に到着すればいいんだよね。だからえっと、駅からはここで……。


 下調べのときに散々行った逆算で、再びバスの目的地を探る。その様子はまさに、よく言えば超慎重派。悪く言えば、ネガティブ思考という言葉そのものである。


 ――……よし、これで大丈夫。行ってみよう。大丈夫、負けるな私。怖かったけど、ここまで来られたんだから。あともう少しだぞ……。


 自身に鼓舞をしながら、重い足取りでバス停へと向かい始める。彼女が本当に目的地まで辿り着けるのか、はたから見ているだけでも不安に駆られてしまいそうだが、果たしてどうなることやら。


 ――……待っててね、お兄ちゃん。


 そう胸の内で呟く彼女の中には、密かな想いを抱く彼の笑顔が一つあった。



 ◇ ◇ ◇



「や、やぁ本城さん」


 木曜日。いつもの如く俺は、いつもの場所で彼女と出会った。先に来て座っていた彼女に、いつものように呼び掛ける。……なんだかいつもとは違い、妙な気恥ずかしさもあった。


「どうも……」


 こちらをチラッとだけ見て呟くと、彼女はすぐに目を逸らしてしまった。その様子は、いつもの本城さんらしくない。


 ――うーん。月曜日からこんな感じだしなぁ……何かあったのかな。


 もしそうだとしたら、話を聞いてあげたい。この間日和ちゃんから言われたこともあるし、どうにかして彼女から聞き出してみたほうがいいかもしれない。


「ねぇ本城さん。この前からずっと暗い顔してるけど、何かあった?」


 そう俺が尋ねた途端、彼女はハッとしてみせた。どうやら、何かしらはあったらしい。


「どうしたの、聞くよ?」


「いや、えっと……。なんて言ったらいいんでしょうか……」


 歯切れの悪い様子で、ずっともじもじしてしまっている。よく分からないが、簡単に話せるようなものではないらしい。


「んー? まぁ無理にとは言わないよ。取り敢えず、飯買ってくるから。言えそうだったら教えて」


「あ、はい……」


 そんな不器用な彼女を置いて、俺はいつものカウンターへと向かった。もちろん買うのは、いつものハンバーガーである。それをレジで受け取ると、本城さんの元へと戻った。






「お待たせ」


「いえ……おかえりなさいです」


 椅子に座り、彼女と向かい合う。せっかく真正面にお互い座っているというのに、一向に彼女はこちらと目を合わせようとしない。ひと昔前ならこんなこと日常茶飯事だったが、最近ではそんなことなかったはずだ。


「で……。どうしたのさ?」


 紙袋の中からハンバーガーを取り出して、包紙を剥がす。最初の一口目を運ぼうとしたタイミングで、目の前の彼女がようやく口を開いた。


「村木先輩って……今は彼女、いないんですよね?」


「ぶっ!」


 唐突過ぎる変化球な質問に、思わず吹き出してしまった。口に入れるギリッギリ手前で、本当に良かったと思う。


「え……なに、突然?」


 一体全体、どうしたっていうんだ。そんなことを聞いてくるなんて、全く本城さんらしくない。


「あいや、その……。この間先輩の家で、茜ちゃんと話してた時に言ってたんです。彼女でもいたら、色々先輩も気が楽になれるのにねーって」


 少し焦った様子で、本城さんが説明してみせる。


「えぇ? なに、茜がそんなこと言ってたの?」


「まぁ……はい……」


「なんだよそれ、余計なお世話だなぁ。あいつは俺を心配し過ぎなんだよ。妹のくせにさぁ」


 本城さんの様子がおかしかったのは、やはり茜に余計なことを吹き込まれたことが原因だったのか。二人きりにした時点で多少懸念はあったが、まさにその通りだったみたいだ。反面、それを聞いてちょっとだけ安心した。


「その……凄く心配してるみたいでしたよ、先輩のこと。誰か一緒にいてくれたらいいんだけどなって」


「まぁ今は彼女いないけどさぁ。確かにいてくれたら、嬉しいとは思うよね」


「じゃあそれって……いわゆる“募集中”ってやつですか?」


「んー、そういうことになるのかな」


「そうですか……」


 そう小さく呟くと、本城さんはハンバーガーを一口あむっとかじった。

 心做しか、やはりまだ彼女の様子がおかしい。理由を聞き出せたと思っていたが、この話のことではないのだろうか。






「……先輩も陽キャなんだから、彼女欲しさに合コンとか行かないんですか?」


「またまた急だな……」


「いいじゃないですか。どうなんです?」


 表情は若干暗いままなのに、その押しの強さは相変わらずのようである。


「いやぁ、そういうのはなぁ……。そういう場の出会いじゃなくてさ。もっとこう運命的というか、自然な流れで付き合いたいなって思うんだよね」


「なにロマンチック語ってるんですか。全然カッコよくないんですけど」


 まるで気持ち悪いものを見るかの如く、彼女が眉を細める。


「お前のほうから話を振ったくせに何を言う……」


「らしくないって言ってるんですよ。先輩はもっと、泥臭い感じのほうがお似合いですよ」


「るっせ。泥臭い陽キャで悪ぅございましたね」


 そんな彼女の言葉を突っぱねて、ハンバーガーにかぶりつく。まったく、人の好き好みくらい自由にさせてほしいものだ。


「……で。先輩って、作る気あるんですか?」


 彼女が俺に問う。


「あ? 作るって、何を?」


「彼女」


 そう告げる彼女は、いつもの仏頂面だった。


「……彼女ねぇ」


 そう聞かれてみると、どうなのだろう。以前の彼女と別れて以来、全くそんなことは気にせずに生活していた。特に彼女がいなくて辛いことがあるわけでも無いし、正直今はいようがいまいが変わらない気がする。


 ――……それに。



『じゃあ、そういうことにしよ。()()、友達ってことで。……ね」



 ――あいつがホントに考えてたこと、まだ聞けてねぇし……。


 あの日以来、自分がこうして恋愛に前向きになれていないのは、その一言が原因だと思う。

 彼女が告げた、謎の含みのある発言。この言葉の意味が、果たしてどんなものだったのか。ただそれが知りたいとだけ考えていて、早くも二年になろうとしていた。


「……今はまぁ、無理に欲しいとは思わないな。そりゃあできたら嬉しいけど、気になる子がいるわけでもないし……」


「……そうですか」


 俺の答えをすんなり聞き受けると、納得したのかそれ以上の追求はしてこなかった。こういうときでも、なかなか掴めない子だと思う。






「因みに、そういう本城さんは?」


「……はい?」


 カフェオレのペットボトルを手に取ろうとしたタイミングで、何事だという顔で彼女がこちらを見る。


「だから、彼氏。欲しいとか思うの?」


「わっ、私ですか……? えっと……」


 またも妙にもじもじして、なかなか答えようとしてくれない。やはり茜と出会わせてから、何か言われたのだろうか。


 ――一応、後であいつにも聞いてみるか……。


 どうせはぐらかされてしまうのは百も承知だろうが、聞かないよりはマシだ。何かしら、彼女の悩みのヒントが分かるかもしれない。

 そんなことを考えている間に、ようやく彼女の口が開いた。


「……怖いんです、そういう大切な人を作るのが」


「怖い?」


「はい……」


「怖いっていうのはその……体目的でとか、そういう?」


「それもなくはないですけど……。今の私なんかに、大切な人を支えてあげられるのかなって」


「あぁー……」


 確かに本城さんは普段から、自分に自信がないところがある。原因はハッキリとは分からないが、きっと昔からイジメられていたこともあるのだろう。


「私って、弱々のチキン野郎じゃないですか。だから少しでも、強くならなきゃいけないとは思ってるんです。そうじゃなきゃ、私なんかに大切な人を作る権利なんてないから……」


「権利って……。そこまで考える必要はないと思うけど」


「いいんです。だからそういうのは、もう少し先かなとは思ってます。……今はまだ、そんな勇気ありませんから」


「……そう」


 いくら彼女がネガティブだとしても、それは流石に度が過ぎている気がする。もっと気楽に、前向きに考えたほうがいいだろうに。せっかく彼女は素敵な女性なはずなのに、そんな考え方を持っていたら、いつまで経っても前へ進むことはできないはずだ。

 そんなところの援助も含めて、俺は日和ちゃんに頼まれた通り彼女のサポートをしていきたい。彼女には少しでも明るく、人生を謳歌してもらいたいと願うばかりだ。


 日和ちゃんに話を聞いてから、身勝手なことばかり考えてしまっていたが、どうやらただの思い違いであった。変なことばかり考えてしまっていた、そんな自分が恥ずかしい。今すぐにでも殴りたいぐらいだ。






「……ま、まぁ、なんですか? その……」


「ん?」


「そもそも、その……好きな人も別に、いないんですけどね。こんな根暗で陰キャな私にも、ロマンチックで素敵な出会いがあればいいなー……なんて……思っては……うん……」


 半ば早口で、ボソボソと彼女が告げてみせる。そんな予想外のセリフがなんだか面白くて、思わず吹き出して笑ってしまった。


「ちょっと、そこまで笑いますか!?」


「いやぁ……ははっ。やっぱり俺、本城さん好きだわぁ」


「うー……うっさいうっさい!! 知りませんもう!!」


 顔を真っ赤にして叫ぶと、本城さんは体ごとこちらから背けてしまった。そんな彼女を見て、更に笑いがこみ上げてしまう。


 ――まぁ正直、本城さんが俺のことを好きだっていうパターンも、それはそれで面白そうだと思ってたけど……。やっぱりこっちのほうが、お互い楽しめるのかもしれないな。


 もしパラレルワールドがあるのなら、そんな世界も見てみたいと思う。だが今はこんな風に、安心して彼女と話ができる関係が好きだ。この関係が今後も、崩れることなく続けばいいと願うばかりだ。

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