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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.9 風邪色花火は不器用に咲いた
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不器用な君

 次の日。ズシリと重たい頭を起き上がらせて、なんとか朝の九時に起きられた。

 なんとなく昨日よりは楽な気がするが、それでもまだ頭の痛みは現役らしい。


 ――あー……病院行かねぇと。どうせ午後に本城さん来るんだろうし、行かなくて下手に嘘吐いたら絶対バレるよな……。起きよ。


 昨日彼女より授かった、二枚目の新しいマスクを取り出して装着する。

 夏にマスクだなんて、これ以上無いほど口元が暑苦しいが仕方がない。誰かに風邪をうつしてしまわないように、我慢するしかないだろう。


 このまま治るまでずっと休んでいたい衝動を抑えて、なんとかベッドから立ち上がると、俺は病院へ向かうために支度を始めた。






「もしもし?」


 レジ袋を片手に、ポケットに入っていたスマホを取り出しては耳に当てる。

 予想しよう。次にスピーカーから聞こえてくる言葉は――“どこほっつき歩いてるんですか?”だ。


「もしもしー、じゃないですよ。先輩、どこほっつき歩いてるんですか?」


 ビンゴ。俺の想像していた通りのセリフが聞こえて、思わず吹き出して笑ってしまった。


「あの……なんですか? 私、何も変なこと言ってませんが」


 そんな俺に、ご機嫌斜めな様子のお姫様が文句を告げる。


「いや……本城さん、なんて言うんだろうなぁって予想したら、ホントにその通りだったから。思わず笑っちゃった」


「はぁ? あなた、私のこと考えてたんですか? やっぱりストーカー気質高めなんじゃないですか? 気持ち悪い」


「いやいや、そういうつもりは無いけど……。これも、俺が本城さんのことをよく分かってるって証拠だよ」


「意味が分かりません。そんなふざけたこと言ってないで、さっさと今どこをカメさんのような歩幅でのんびりとほっつき歩いてるのかを述べてください」


 焦っているのか、苛立っているのかは定かでは無いが、彼女が早口で喋ってみせる。何もそんなに急がなくたって、ちゃんとお話するっての。


「そんなことを聞くってことは、もしかしてもう俺の部屋の前にいる?」


「当たり前じゃないですか。もう一時過ぎたんですし。暑いんですから、早くしてくださいよ。私を熱中症にするつもりですか?」


「んなワケあるか」


「なら、早く質問に答えてください。面倒な人ですね」


 ――どっちがだ。


「あー、はいはい。病院行ってきたんだけどね、思ったより人が多くて、二時間くらい掛かっちゃったよ。今帰ってるとこ」


「そりゃあ、お盆明けですからね。病院もお休みだっただろうし、仕方ないでしょう」


「……分かってて怒ってる?」


「違いますよ。陽キャの先輩なら、終わってすぐに帰れるはずでしょう? 体力あるんだろうし」


「いやだから君は、陽キャをなんだと思ってるんだ……」


「陽キャは陽キャです。……そんなことより、どうだったんですか? 熱は下がったんです? 頭痛、大丈夫なんですか?」


「……質問は一つずつにしてくれ」


「どうでもいいです。早く答えてください」


「はぁ……」


 まったく、可愛げの無い奴め。心配なら素直にそう言えばいいのに。こんなところも相変わらず、本城さんだなと思う。






 横断歩道の信号が赤になる。仕方なくその場で立ち止まって、目の前を過ぎ去っていく車達を眺めていた。


「ただの夏風邪だったよ。頭はまだ痛いけど、熱は七度五分まで下がったし。あと一日二日休めば、大丈夫だって」


「そうですか……」


 すると、ホッとした様子で彼女が息を漏らした。やっぱりなんだかんだ言って、心配してくれていたらしい。


「まぁ、なんともないようで良かったです」


「んー? うん、そうね。……心配した?」


「別に。私はただ、約束を守っているだけですから」


「じゃあ、仮に俺が単位を落としてたら、昨日も今日も来てくれてなかった?」


「そうですね」


「俺が辛そうにしてても、来てくれなかったんだ?」


「……あの、何が言いたいんです?」


 俺の質問に違和感を感じたのか、質問に質問で返されてしまった。

 普段察しの良い彼女でも、偶に自分が理解できない話になると、途端にこうやって食い気味に聞き返してくる。こういうところがもしかすると、彼女が言う俺の“分かりやすくて考えが読めない”という部分なのかもしれない。


「んー? ……本城さんには、凄く感謝してるよって話。それだけ」


「っ……。別に私は、当たり前のことをしてるだけです。わざわざ改まって感謝されるようなことなんて、一つもしていませんから」


「その本城さんの当たり前が、俺にとってはありがたいことなんだよ。俺が嬉しいって言ってるんだから、君はそれをありがたく受け取っておけばいいの」


 信号の色が青に変わる。目が不自由な人のために流れる、かっこうの曲に背中を押されながら、横断歩道を渡った。


「……迷惑じゃ、ないんですか?」


 ふと、彼女がそんなことを問うた。


「迷惑? なんで?」


「だって、昨日と今日だって私、自分が勝手にした約束を守るために先輩の家に来てるんですよ? 先輩がそうしろって言ったわけじゃないのに、勝手に来てるだけじゃないですか」


「……じゃあ、君がそう思うならそうなのかもね」


 大通りを離れて脇道に入り、曲がり角を右に曲がる。狭い路地を進んで、住宅地へと入った。


「だったら……」


「でもね。……例えそうだったとしても、それでも俺がそうされて嬉しかったんだから、それでいいじゃん。君がどうこう思ったとしても、その行動の結果、助けられてる人がいるんだから」


「……先輩は、迷惑じゃなかったですか?」


 ドア横の壁に背を任せて話している、彼女が告げた。


「当たり前でしょ。……たくさん助けられてるよ。今回だけじゃなくて、いつもたくさんね」


 そう言って、通話を切った。突然切れた通話に彼女は戸惑いを見せたものの、すぐこちらに気付いては体を向けた。


「……ありがとう、来てくれて。感謝してるよ」


 右手を挙げながら、彼女に告ぐ。その一言に、不器用な笑みを浮かべて、彼女は会釈を返してくれた。



 ◇ ◇ ◇



 その後。彼女が昼ご飯に作ってくれたのは、醤油ベースの美味しいにゅうめんだった。

 それはどこか、先日食べたおばちゃんのそうめんに似た味で、それでもどこかまた違った味がする、俺好みの味だった。

 意外と見かけによらず、色んな料理ができるんだなと感心しながらも、食べ始めてからものの数分で、完食してしまった次第だ。






「ご馳走さま。いやぁ、美味しかった」


 箸をお椀の上に置いて、彼女に告げる。

 向かいの席に座る彼女は、照れ臭いのかそっぽを向きながら、「そうですか……」とボソッと呟いた。


「っていうか、本城さんも食べればいいのに。まだ残ってるんでしょ?」


 もうお昼の二時半を過ぎたというのに、一向に何も口に入れようとしない彼女に問う。


「別にいいです。私は後で食べますから」


「後でって、いつよ?」


「……夜とか」


「いやいや、絶対お腹減るでしょ。あくまでも食いしん坊なのに」


「誰が食いしん坊ですって?」


 その瞬間、ギラリと睨まれてしまった。マズい、余計なことを口にしてしまったらしい。


「あいや、だってほら、食べること大好きでしょ? ね!?」


「……それ、フォローになっていませんが?」


「え。……ごめん」


 やってしまった。またこっぴどく怒られてしまう……そう思ったのもつかの間。今の今まで強張らせていた顔を緩めて、彼女がクスッと笑ってみせた。


「ほ、本城さん?」


「いえ……。先輩ってそういうところ、不器用だなぁって思って」


「俺が? 不器用?」


「だって、心配してくれてるのは分かるけど、それにしては理由が下手くそなんですもん。相手を敬うなら、もう少し上手くおだてられるようになったほうがいいですよ」


「なっ……。別に、本城さんに言われなくたっていいだろ?」


「私が言わなかったら、誰か言ってくれますか? どうせ周りは同類の陽キャ達ばっかりで、先輩にあれこれ言う人なんていないでしょ」


「いや、そうだとしてもさぁ……」


 例えそうだったとしても、そんなことを彼女の口から言われる筋合いは無いはずだ。君のほうこそ不器用なくせに、不器用だ不器用だと見下してバカにするのはどうかと思う。


「ま、いい加減自分がどれだけヤバいのか、自覚したほうがいいですよ。後々後悔しないためにもね」


 そうすまし顔で告げると、いつもの如く面倒くさそうに大欠伸だ。……どうやらこの子は、その言葉がそっくりそのまま自分のことを言っていることに気付いていないらしい。


「はいはい、分かりましたよ。どうも……」


 ――いやぁ……それ、まんま自分のことも言ってるんだよなぁ。気付いてんのか、気付いてないのかは分からないけど。


 どうせ、ここで何を言っても四の五の言われるだけなんだ。ここは適当に受け流して、スルーしておこう。






「……で。なんで食べないわけ? お腹空いてないの?」


 だいぶ話題が遠回りしてしまったところで、再び先程の道へと舞い戻ってきた。改めて彼女に、その理由を問いただす。


「え。いや……」


 何かを言いづらそうにしながら、口をもごもごとしている。なんだなんだ、何か恥ずかしいことでもあるのだろうか。


「……だって、自分が作った料理を誰かと食べるって、恥ずかしくないですか?」


「え? そう?」


「そうですよ。なんか、こう……この味、相手は気に入ってくれたのかなとか、美味しいって思ってくれたのかなって考えると、なんかそれが嫌で」


「……既に俺もう食べ終わっちゃったんだけど?」


「違うんですよ。実際に振る舞った料理の味を、改めて自分で確認するから恥ずかしいんです。自分一人なら『あぁ、ちょっと醤油多かったかな』とか、『なんか薄味だな』とかだけで済みますけど、いざ他の人と同じものを食べると、それって恥ずかしくないですか?」


「……ごめん。全然分かんない」


 申し訳ないが、それに至っては俺には全く理解できなかった。

 別に、自分が作った料理を誰かと食べることなんて特別珍しいことでも無いし、自分の料理を美味しそうに食べてくれるだけで嬉しい、それだけで済むからだ。

 どうしてそのような思考にたどり着いてしまうのか、陰キャの子が考えることは、改めてやっぱり陽キャの俺には理解し難い思考回路だと思う。


「あー、あー、でしょうね。先輩は陽キャですもんね。どうせ陰キャの私の考えてることなんて、これっぽっちも理解なんてできないんですよ。あーあ」


 そんなことをブツブツと呟きながら、突然彼女が椅子から立ち上がると、そのままキッチンへと向かっていった。一体どうしたのだろうとその場で待っていると、次に戻ってきた彼女の手には、お椀とお箸の姿があった。


「なんだ、結局食べるんじゃん」


 ツンとした顔のまま目の前に座る彼女に告げる。


「うっさいですね。せっかく作ったのに、残しちゃうのが勿体無いから食べるだけですよ」


「……本音は?」


「……まぁ、ちょっと食べたいなとは思ってたり」


「思ってるじゃん」


「いいんですよ、もう! いただきます!」


 やけくそにそう叫ぶと、口いっぱいににゅうめんをすすっては、ぱぁっと幸せそうな顔をしてモグモグしていた。

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