05-イヴってやっぱりぶっ飛んでる。
幼少期編もここまででしょうか!
辺鄙な町での生活にも慣れ、イヴが無事に小学校へと通い出してから数か月。私と彼の通う小学校ではもはや名物と化した光景が今日もまた広がっている。
ドドドドドド…!!!!
「キャーっ!!!イヴ様~!!」
「お待ちになって~!」
「今日もとっても素敵だわ~!」
ドドドドドド…!!!!!!
「イヴ様こちらをお向きになって~!」
「いやぁん冷たいイヴさまも好き~!」
「今日こそはご一緒にお昼を食べましょう~っ!」
肉//食/女/子///
憐れ私の弟は、小学校に通いだしてからずっとこの調子で女の子たちに追いかけられている。朝休みも中休みも昼休みも放課後も、関係ない。授業の合間にだって彼女たちは押し寄せる…らしい。本人が言っていた。
私がよく目にするのは、お昼ご飯を誰がイヴと一緒に食べるか揉めているところだ。イヴ自身はすっかり辟易し、勘弁してくれと言いたげに肩を落としている。それでも強く拒否できないのは、よく言えばどこまでも紳士だからであり、悪く言えば断る勇気がない意気地なしだからである。私はイヴによく、嫌なことは嫌と言えばいいと教えるのだが、どうも彼はそこらへん不器用なようだ。
「あ、姉さん!…お昼これから?一緒に食べようよっ。」
中庭で友達とお弁当箱を囲む私を見つけたイヴは足早に寄ってくると、自分も混ぜてくれと頼み込んできた。事情を知っている私の友人たちは快くそれを受け入れる。
「イヴくん今日も絶好調だね~!さすがぁ。」
「絶好調じゃないですよ!僕困ってるんですからぁ!」
私の友達、クレアと会話するイヴは、もはや半泣きになりながら弁当箱を開ける。若いのに苦労しちゃって大変だねほんと!
イヴがここまで人気者になってしまったのは、ひとえにその美貌と能力、家柄によるものだった。容姿が端整なのは昔からだが、最近は子供のくせに妙な色気というかフェロモンを出し始めている。私でさえ見つめられるとうっかりときめいてしまうときがあるくらいだ。そのうえ、勉学に関しては常に学年トップ。運動神経も申し分ないし、手先も器用で芸術的な感性も十分に備わっている。同じ家に住んで姉弟と名乗ってすみませんと言いたくなるレベルだ。彼の生家、アシュテアンという名も世の子女たちにとってはこの上ない憧れであり、その位の高さから男子児童からも一目置かれている。こう見ると、改めて自分の弟のスペックの高さに閉口してしまう。
「4年生の勉強にはついていけてるの?」
「物足りないくらいだよ。姉さんに貸してもらった教科書分は頭に入ってるし。早く卒業したいなぁ。」
イヴは飛び級した。先日の学期終わりの際、イヴの飛びぬけた素質を顧みて教師陣が飛び級を妥当だと判断した故、第3学年をすっ飛ばして彼は4年へと進んだ。私は飛び級なんか出来ないので必死に6年生をやっている。中学を選ぶ大事な時期なので、気が抜けない。
「イヴくん6年生の範囲まで終わっちゃってるの?」
「いえ、6年生の1学期までです。姉さんが持ってる教科書がそこまでだったので。」
「そっか、なんだかイヴくん大物になりそうだね!将来の夢は?」
う~んと考え込むイヴ。私の方をチラと見て、答えた。
「姉さんを守れればそれでいいです。姉さんを幸せにしたい。」
うっ!
「な、な、な、何…一流文官とか魔術師とか、もっと他にあるでしょう!?」
「あはは、ミーク真っ赤だよぉ~!照れちゃってか~わい~~!」
もしかして、いや、もしかしなくても、イヴはシスコンに育ちつつある!?いかん、それはいかん、なんだかわからないけどなんとなくいかん!誰だこんな風にしたのは……私か!?
「姉さんの夢は?」
「私?」
この国の子供たちの多くは、公務員に就くことを望んでいる。私もお父さんの背を見て育った影響か、公務員のひとつである文官になることが目標だ。文官とは大まかに言えばこの国の政治・経済・産業・教育・医療などに携わる人のことを言う。お父さんは経済省の貿易部門で管理職についているらしい。私が興味あるのは経済でなく教育なのだが。
公務員に該当するのは、文官・武術士・魔術士・技術士の4つの役職である。文官は上に述べたとおりであるが、武術士はいわば軍隊に属する騎士のことを、魔術士は国防・医療・産業など多岐に渡る分野にて魔法の力を駆使し国に貢献する者のことを、技術士は物理学や工学に精通しこの国のテクノロジーの発展を背負う者のことを言う。子供たちの中で最も人気なのが魔術士だ。だが、国家試験が非常に難しいことと、そもそも相当の才能がなければ話にならないという点から、現在活躍している魔術士は圧倒的に少ない。
「私は文官だなぁ。明日の魔力測定も丸っきり自信ないし。クレアは?」
「んー私も文官かな。ホントそれくらいしかなれそうなものないしね、はは。」
がむしゃらに勉強すれば文官にはなれる。それ以外となると才能や体格、センスが問われてくる。こう考えるとぶっちゃけイヴならなんにだってなれそう。
そうして次の日、魔力レベル6という可もなく不可もない結果を出した私は帰宅後ゴロゴロしながら両親に報告する。
「と、いうわけで、魔術士の道はないからぁ、文官目指しますっ!」
「あらまあ。でもレベル6なら見込みはある方よ、ねえアレン。」
「あぁ。1や2なら諦めるのが妥当だが、6は平均以上だ。簡単に諦めるのはよくないぞ?」
あれ?お父さんもお母さんも私には魔術士目指してほしいの?そりゃたしかに魔法使いってかっこいいし、お給料も高いし、威厳も名誉も欲しいままだ。でもなぁ。
「魔力レベル6ってどのくらいなの?何か魔法使ってみて!」
イヴの無垢な質問に、私はしばし考えてから返答する。
「小学生の魔力測定だと最高レベルは10だけど、みんなそんなん出せなくて、多いのは4か5かな。だから私は普通よりちょっと上ってだけ。あと魔法なんて使えないよー!やり方わからないし、中等学校にあがって授業で習わない限り出来る子なんて数十年にひとりだよ!」
「え?僕できるけど?」
ウェンストン家に衝撃が走った。
次回は中等学校に入学させます!




