95.終わった後の穏やかさ
アッシュたちは厄介事は終えたとばかりに聖都の街並みを食べ歩きをしながら進むことにした。
というよりも元々その予定だったということもあり、漸く食べ歩きが出来る。と言った方が正しいのかもしれない。
「まずは肉! それから肉! んでもって肉! って感じで探さねぇとな!!」
そう言ってルキはアッシュの手を引き、非常に上機嫌そうに尻尾を左右に振っていた。
見事に肉料理しか食べる気のないルキに対してアッシュはいつも通りだな、と苦笑を漏らしつつ自身の隣を歩くシャロに声をかける。
「ルキはこんなこと言ってるけどシャロもそれで良いのか?」
「お肉ばかりというのはちょっと……それに私としては甘い物が欲しい気分です」
「甘い物? ってことは甘辛い味付けの肉だな!」
「ルキさんはちょっとお肉から離れませんか?」
シャロは何がなんでも肉料理、となっているルキへと少しばかり呆れながら言葉を返してから言葉を続ける。
「えっと……カルナさんはどういった物が食べたいですか?」
利用云々でショックを受けていたが、結局のところそれはアッシュと仲良くなるための建前だと理解したシャロはカルナへと勇気を持って歩み寄ることにしていた。
だからこそこうシャロは自分から意図してカルナへと言葉をかけるに至った。
アッシュはそんなシャロの想いを察して微笑ましく思いながら、カルナがどんな言葉を返すのかと思いながらもカルナを見た。
余談だがこの時アッシュは、これでもしシャロを邪険に扱うようなら軽く叱る必要があるな、と考えていた。
「そうだな、ルキのようにはっきりと何が食べたいというものはない。それに何を食べたとしても同じことだ」
「そ、そうですか……」
こうした場合に一番困る特にない、という返答をされてしまいシャロは僅かに怯んでしまった。
「何よりも俺にとってはアッシュと共に食事が出来るだけで充分だ」
だがそう言って何処となく幸せそうな雰囲気を纏うカルナを見て、その言葉が本心だと悟ると同時になるほど、と納得していた。
そういうことであれば何を食べても同じ、という言葉の意味も変わってくる。
「だったらルキの要望通りに肉料理を幾つかと、シャロが食べたいって言うから甘い物だな」
「別に甘い物とか必要ねぇだろ。っていうか太るぞ」
「太りません!! というかそれを言うならお肉ばっかり食べても太ると思います!!
「太らねぇっての。俺はどっかのチビと違ってちゃんと動いてるしな」
「それを言うなら私の場合は食べた分成長するために必要な栄養になるから問題ありません! これから身長だって伸びてルキさんよりも大きくなりますからね!!」
「チビが俺よりでかくなるとか無理だろ。流石に夢見すぎだと思うんだけどなぁ」
「大きくなれます!! アナスタシアさんくらいは無理だとしても最低でもルキさんよりは大きくなります!!」
アッシュは非常に微笑ましい気持ちになりながら自分の両隣でキャンキャン吠え合う二人のことを見ていてた。
そんなアッシュに気づいているのか、気づいていないのか。どちらであろうと関係なく、シャロはアッシュへと同意を求め始める。
「主様! 主様も私は大きくなると思いますよね?」
「そうだな……シャロはまだまだ子供だからな。これから大きくなるさ」
「ですよね!! でもまだまだ子供っていう言葉はちょっといらないと思います!!」
「アッシュの言う通りチビはまだまだガキだよな。そうかそうか、そう考えるとでかくなれるのか」
うんうん、と納得したようにルキはそう言ってからカルナへと視線を向けた。
「ってことは赤チビもでかくなるんだよな」
「俺は子供と呼ばれる年齢だからな。今後成長し身長が伸びる可能性の方が大きいだろう」
「まぁ、だよな……」
シャロとカルナは今後身長が伸びる。という話をしてからルキは少しだけ何かを考えるように黙り込むと一つ頷いてから口を開いた。
「俺はこれ以上でかくなる予定はないからそうなると抜かれることになるのか……そうなるとチビとか赤チビって呼び方を変える必要があるな……」
そんなことを言い出したルキにアッシュたちは疑問符を浮かべた。
人のことをチビと呼ぶのであれば自分の方が身長が高いことに優越感を抱いていることが多い。だがルキにそうした様子はなく、むしろどちらかと言えば身長が低いままで良いと言っている。
「えっと……どうして大きくなる予定はない、と言えるのですか?」
「本来であれば体格が大きくなることによって戦いにおいても有利になることが多い。だというのに、何故だ?」
「んなもん決まってんだろ」
素直に疑問を口にするシャロとカルナに対してそう言ってからルキはニッと笑うとアッシュにピタッと引っ付くとアッシュの腕を自身の体に回し、まるでアッシュに抱き締められているような状態を作るとこう言った。
「これくらいの身長が一番アッシュが抱き締めやすいんだよ! な、そうだろ?」
ルキは得意げにそう言ってからアッシュを見上げた。
「まぁ……一番かどうかはわからないけど抱き締めやすくはあるよな」
アッシュはアッシュでそう言葉を返しながら片腕でルキを抱き締め、その抱き心地と抱き絞めやすさを確認していた。
「だよな! ってことでこれ以上でかくなるのはなぁ……」
「なるほど、と言えば良いのかそれはそれでどうかと思います、と言えば良いのか……」
「だが、そういう考え方もあるのか、と感心する。そうか、ルキくらいが丁度いい、ということか……」
ルキとしてはこうした状況であればアッシュは確認のために抱き絞めてくるはず、と考えていたのでアッシュがその通りに動いてくれたことで非常に気分が良かった。
またシャロは感心半分、呆れ半分、といった様子で困ったような苦笑を零していた。
そしてカルナは純粋に感心しているようで、ルキの言葉にふむ、と一つ頷いていた。
そんな三人の様子を見ながらアッシュは感心するようなところがあったのだろうか、と首を傾げていた。
「まぁ、お子様三人の身長事情は置いておくとして。食べ歩き、するんだろ?」
「おう!」
「あ、はい! わかりました!」
「そうだな。身長に関しては自分で止めることは出来ない。考えるだけ意味のないことか」
アッシュが三人の話を切り上げて食べ歩きのために三人を促すとルキは嬉しそうに返事をして、シャロは少しだけ慌てたように返事をする。カルナに関しては考えるだけ意味のないこととして、それ以上考えるのをやめたようだった。
そうして四人は食べ歩きのために聖都の街並みへと姿を消していった。
▽
食べ歩きは特に問題などはなく、ルキが食べたいと言っていた肉料理をメインにシャロが気になった甘い物をたまに、という具合に進んだ。
そして時間は経過して現在、太陽は沈み、夜がやってきていた。
聖都の夜は王都のものとは違って通りに人の姿は少なく、とても静かなものだった。
王都には良く言えば賑やかな、悪く言えばひたすらに騒がしい冒険者が多いこともあってそうなるのだが、聖都では夜が訪れれば一日を無事に過ごせたことをイシュタリアに感謝し、祈りを捧げ、そして静かに過ごすものとなっている。
だからこそ聖都の夜はこんなにも静かに過ぎていく。
そんな静かな聖都だが、外からやってくる人間の多い宿や、宿兼酒場となれば少しばかり事情が変わる。
そう広くない建物の中は活気に溢れ、それでもマナーとしてあまり騒がしくならないように気を付ける。といった状態になっていた。
そんな宿の、アッシュたちが取った部屋に四人は集まっていた。
「聖都って教会の人間が多いし、肉料理は少ないんじゃねぇかって思ってたけどそうでもなかったな」
「はい、もっとこう……節制する、と言いますか……禁欲的なものも考えていたのですがそういうわけでもありませんでしたね」
「教会の人間が多いとはいえ、それ以上に外から来る人間が多いからな。それに商売してる人間の過半数以上は教会と関係のない商人だ。当然と言えば当然だな」
「って言ってもやっぱり王都の方が色々あったけどなー」
「でも、王都では見たいなような物もありましたよ?」
「訪れる人や商人が変わればその辺りも変わるだろ」
アッシュとルキとシャロの三人でそうして会話をしている横でカルナは自身の手の平の上に炎を灯してした。
「で、カルナは何をしてるんだ?」
その行動の理由がわからず、かといって放っておくのもどうかと考えたアッシュが問えばカルナは言葉を返した。
「取引のことを覚えているか」
「あぁ……カルナからは太陽神の武具を、俺からは何かカルナの要求するものを、って話だったな」
「そうだ。そして……これがアッシュに渡す太陽神の武具になる」
その言葉と共にカルナの手の平の上の炎が激しく燃えた。だがそれは一瞬のことで炎が姿を消すとカルナの手には揺らめく炎を象ったような弓が握られていた。
「太陽神がかつて用いたとされる弓だ。この弓を引けば雷の矢を射ることが出来るだろう」
そう言いながらカルナはその弓をアッシュへと手渡した。
「本当に太陽神の武具を渡してくるのか……」
戸惑いながらもアッシュはその弓を手に取る。
一目見た時点でわかっていたことだったが、それに込められた、というよりも纏う神性は非常に強いものでありカルナの言葉に嘘はないと理解していた。
「これは取引だ。俺はこうして太陽神の武具を確かに手渡した。であるならば、次はアッシュだ」
「まぁ、取引ってのはそういうものだからな……それで、俺に何を渡せって?」
弓を受け取ったアッシュはそう言いながら玩具箱に入るだろうか? と考えながら見ていると突如としてその弓が燃え上がった。
それと同時に弓はその姿を消す。
「カルナ、これは?」
内心では戸惑いながら外面は冷静にアッシュが問えばカルナは感心したようにアッシュを見ながら答えた。
「流石だ、とでも言えば良いのだろうか。太陽神の力の一端。それがアッシュを認めた。念じることによって顕現させることが出来るだろう」
アッシュはカルナの言葉を受けて先程の弓の姿を思い浮かべる。するとカルナと同じように手の平の上で炎が燃え上がり、それが消えると姿を消したはずの弓が握られていた。
「……まぁ、持ち運びは便利か」
本来ならばもっと何らかの反応を返すべきかもしれない。
だがアッシュはそれだけで終わらせると再度弓を消すと神に関わる物は深く考えない方が良いな、と考えていた。
アッシュがそんなことを考えていると、何処となく不機嫌そうにルキが口を開いた。
「それで、太陽神の武具と釣り合うものって何があるんだよ」
「問題はそれだよな。まぁ、確かにものはあるけど手放すわけにはいかないからな……」
「お二人の反応が薄いです……それに太陽神の武具と釣り合うような物を持っている、と言える時点でびっくりですよ……いえ、確かに主様ならそれもあり得る話ですけどね」
そうして太陽神の武具と釣り合うものは? と三人であれこれと話しているとカルナは少しばかり考えるようにして黙り込み、そしてカルナは自身が太陽神の武具と釣り合うと判断出来るものは何か、と考えていた。
太陽神の武具とかいうゲームとかなら終盤で手に入りそうな物をぽんと渡してくる天然無表情系ショタがいるらしいですよ。




