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87.魔族との対峙

「さて……それでは、別れとは悲しいものではありますが、皆様にはご退場願いましょうか」


 シュヴァーハはそう言いながら手を差し出し、そこに魔力を収束させていく。

 魔族の魔力ということもあってか、たったそれだけのことでアルトリウスたちの間に緊張が走る。

 あれをどうにかしなければならない。あれを放っておくと不味いことになる。そう直感で理解したファルシュは障壁に込める魔力を増やし、アルトリウスは剣を抜いて構える。

 そんな二人に遅れてシルヴィアも聖剣を抜き放ち、しかし湧き上がる恐怖にシュヴァーハへと斬りかかることはなく、ただ構えるだけとなっていた。


 そうした手に汗握る展開、とでも言えばいいような状況になっているのだがここで非常に残念なお知らせというか。現実というか。

 シュヴァーハと対峙するアルトリウスたちは真剣そのものだがアッシュとルキ、カルナの三人はシュヴァーハの様子を眺め、そして三人はそれぞれこう考えていた。

 アッシュは知識の瞳の加護によってシュヴァーハがどれほどの強さなのか、どのような攻撃手段を持っているのか、どういった立場なのか、その他諸々。その全てを見透かした上でその程度の存在だと認識した。

 ルキはアッシュのような加護はないが野生の勘というのか、もしくはフェンリスというイシュタリア曰くとんでもない狼を始祖に持つからか。何にしても少し観察するだけでシュヴァーハの強さを理解し、そんなもんか。と納得していた。

 そしてカルナはシュヴァーハの変貌した姿を見てあぁ、こいつか。と納得するのと同時に、何だ、こいつか。と失望ではないがそれに近い感情を抱いていた。

 そんな三人が出した結論は同じで、シュヴァーハは自分たちの敵になるには圧倒的なまでに力不足だ。ということだった。


 アッシュたちがそう考えているとは露知らず、シュヴァーハは勝利を確信しているようにこう言った。


「それでは皆様、さようなら」


 そして魔力をファルシュたちへ向けて放つ。それは魔法として完成しているものではなくただ魔力の奔流を放つという豪快な、もしくは酷く雑な攻撃だった。

 だが魔族の内包する魔力は常人の比ではなくただそれだけのことでもファルシュの障壁を軋ませるには充分だった。


「くぅ……! 流石に、魔族の攻撃は、重たいですね……!!」


 しかしファルシュは自身の後ろに守るべき人がいるからと決して屈することはなく、どうにか押し返そうと自身の障壁へと更に魔力を込めていく。

 だがシュヴァーハはただ魔力を放っただけであり、その気になればファルシュの障壁を呑み込むことも出来るだろう。それはファルシュにもわかっていることで、その表情には焦りが浮かんでいた。

 このままではいずれシュヴァーハが更なる魔力を持ってファルシュたちを蹂躙する。そんな状況を守られているアルトリウスたちは理解していてどうにかしなければならないと剣を持つ手に力が入る。


「……隙を見て飛び出て、それから斬りかかればどうにかなるかな……」


「いや、そうするなら先に僕がシュヴァーハの魔力を斬り捨ててからだよ」


「そっか……そっか。ならお願い。その後は僕がどうにか活路を開くから」


「はい……よろしくお願いします」


 ファルシュが耐えてくれている間にどう動くかを決め、シュヴァーハの魔力を言葉通りに斬り捨てるためにアルトリウスは剣に魔力を込めていく。

 そして赤い燐光が剣から漏れてくるほどに魔力を込め、飛び出して魔力を斬り捨てる。そうしようと思った瞬間。


「カルナ」


「承知した」


 アッシュがカルナの名を口にすると、カルナは腕を真っ直ぐと横に伸ばした。

 するとその手元に何処からともなく炎が集まり、一際大きな炎が爆ぜるとカルナの手には以前アッシュたちと対峙した際に手にしていた槍が握られていた。


「フッ……!」


 カルナがその槍を軽く振るう。たったそれだけの動作でシュヴァーハをその魔力の奔流ごと焼き尽くさんと燃え盛る炎が奔った。


「なっ……!?」


 驚愕の声を上げたシュヴァーハだったが気づいた時にはもう遅く、眼前にカルナの炎が迫っていた。

 完全な不意打ちとなったそれをシュヴァーハは咄嗟に障壁を張ることで防ごうとした。だがカルナの炎がそれで止まるようなことはなく、シュヴァーハを呑み込んだ。


「え、あ、えぇ……?」


「こ、れは……?」


 アルトリウスとシルヴィアは何が起こったのかわからないようで呆然とし、ファルシュは戸惑いながらも障壁を展開し続け、イスタトアは完全に腰を抜かしてしまったのかへたり込んでいた。


「……この程度では無理か」


 カルナがそう呟いて炎が晴れた先を見ると身体のあちらこちらが僅かに焦げ、黒い煙を上げているが未だ健在、といった様子のシュヴァーハが立っていた。


「不意打ちとはやってくれますね……少しばかり焦ってしまいましたよ」


「そうか、あの程度で焦るのか。どうやら俺が思っていたよりもお前は遥かに脆弱なようだ」


 そう言って納得したように一人で頷くカルナ。シュヴァーハはそんなカルナの言葉と様子に挑発されている、と感じていた。

 そしてそれは自分から冷静さを奪い、つけ入る隙をどうにか作り出そうとしているからだ。そう考えてシュヴァーハは嘲るように笑ってからこう言った。


「脆弱、ですか。いやはや、それは人間である貴方たちのことでしょう? とはいえ、私たち魔族の恐ろしさを知らないからこそ、そのような世迷言をほざけるのでしょうか?」


「別にお前は恐ろしくなどないだろう。だいたい、何処に恐ろしさを覚えれば良いのか、わからないな」


「……随分と、ふざけた方ですね……!」


 カルナの言葉にシュヴァーハは額に青筋を浮かべていたがカルナはどうしてシュヴァーハがそこまで怒っているのか理解が出来ていなかった。

 カルナは挑発するつもりなど一切なく、純粋に自分の考えていたよりもシュヴァーハが弱いことを確認するように口にしていただけだった。

 しかしあの状況であれば誰でも挑発されていると判断するだろう。それもカルナと一切交流のない者であれば尚更だ。


「ふざけてはいない。だが……お前とこうして言葉を交わす必要もないか」


 どうにもすれ違いが起こっている、とカルナは思いながらもシュヴァーハとの会話に意味がないと槍の穂先を真っ直ぐにシュヴァーハへと向けた。それと同時にカルナの周囲に炎が舞った。

 その瞬間、シュヴァーハは心臓に氷の杭を打ち込まれたような、骨の髄まで凍り付くような感覚に襲われた。


「この槍はお前の心臓を貫く。この炎はお前の魂を焼き尽くす」


 カルナが言葉を重ねるとその感覚はより強くなり、シュヴァーハの頬を汗が伝う。

 今までに感じたことのないその感覚にシュヴァーハは本人には自覚なく、しかし助けを求めるように声を上げた。


「ゴーレム!!」


 その声と同時に周囲に幾つもの魔法陣が現れ、その中から岩石で作られた魔物―――ゴーレムが十体ほど姿を見せた。

 そしてゴーレムたちはシュヴァーハが指示を出さずともそれぞれが大広間の人間を殺すべく動き始めた。


「シルヴィア、アルトリウス」


 それを見たアッシュは二人へと声をかける。


「その魔族は無理でもゴーレムくらいは倒せるだろ」


 断定するようにアッシュが言えば、シルヴィアとアルトリウスの二人は一瞬だけ何を言われたのかわからなかったようだったがすぐに言葉を返した。


「う、うん! ゴーレムの相手だね! 任せて!」


「わかった! その、申し訳ないけどシュヴァーハのことは任せても大丈夫なんだね?」


「あぁ、あれはこっちでどうにかするから気にしなくて良いぞ。それからファルシュだったか? そこで腰を抜かしてるイスタトアはお前が守れ」


「はい、お任せください。ですが……クロエさんとそちらのお嬢さんは大丈夫なのですか?」


「こっちのことは気にしなくて良いぞ。二人は俺が守るから、かすり傷の一つだってつけさせない」


 断言するアッシュにファルシュは随分と自信満々ですね、と思いながらもそれだけの実力があるのだろうと自身を納得させ、コクリと一つ頷いて返した。

 ついでに言えば、アッシュの背に守られているシャロとクロエは自分たちを守ると宣言したアッシュに対して胸の高鳴りを感じていたりする。

 シャロは僅かに頬を赤くし、クロエはわかりやすいほどに真っ赤になり、アッシュの背を見つめていた。


 ファルシュからはその様子が見えていたので微笑ましく思いながらも、シャロとクロエに不安そうな様子がないことからこれ以上自分が気を割く必要はないと判断した。

 そして迫りくるゴーレムに立ち向かうべく剣を構えるシルヴィアとアルトリウスの二人を見た。


どうか御無事で(スクリロ・アミナ)


 ファルシュが呪文を唱えるとシルヴィアとアルトリウスの周りに淡い光が二人を包み込むように集まった。

 これは視界に入る対象に障壁を与える魔法であり、ファルシュのそれは一般的な魔法使いの扱うものよりも強固なものだった。


「シルヴィア様、アルトリウス様、お二人が怪我をすることはないように私が障壁を展開致します」


「ありがとうございます、ファルシュ様!」


「感謝いたします、ファルシュ様!」


 ファルシュの言葉を受けて二人は感謝の言葉を口にし、ゴーレムたちを睨みつける。


龍の爪は全てを断つ(ドラーグ・ウィズドル)!!


 アルトリウスの剣には先ほど込めた魔力があり、地面を蹴りゴーレムへと肉薄したアルトリウスがその剣を振るえば赤い軌跡と共にゴーレムを、まるで熱したナイフでバターを切るように斬り裂いた。

 本来ゴーレムと言う存在は岩石によって構築された体を更に魔力によって強固なものへと変貌させている。それをこうも容易く斬り裂くことが出来る人間は冒険者や騎士の中でも珍しい。

 その点を見ればアルトリウスは非常に優秀な騎士と言えるだろう。


「……龍の因子か」


 そんなアルトリウスを見てアッシュは小さくそう呟いた。

 またアルトリウスの手から腕にかけて伸びる赤い稲妻のような罅割れを見ると僅かに眉を顰め、それから僅かにため息を零す。


「随分と、無理をするな……」


 アッシュの呟きは誰にも届くことはなく、ゴーレムの足音やシルヴィアとアルトリウスの振るう剣戟の音などに紛れて消えて行った。

 それからアッシュはそちらから目を離し、シュヴァーハとそれを守るように立ちはだかるゴーレムへと目を向けた。

シルヴィアとアルトリウスの方が正統派な主人公してる……

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