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77.結界の基点

 アッシュはルキに手を引かれながら教会を通り、中庭に到達した。またシャロとカルナ、クロエはそれぞれアッシュとの距離が微妙に近くなっているが、それについて何を言っても意味がないのだろうな、とアッシュは心の中で諦めていた。


「アッシュ、あれが俺の見つけた結界の要じゃねぇかな、っていうやつだ」


 ルキはそう言いながら空を、というよりも浮かんでいる光を反射する何かを指差した。

 それに釣られてアッシュが空を見ると、ルキが見つけた時と変わらない様子でそこにそれは存在した。


「アッシュが視ればあれが何なのかわかるよな、ってことで確認してもらいたいんだけど、どうだ?」


 ルキの言葉を受けてアッシュは魔力を巡らせ、知識の瞳の加護の力で空に浮かんでいるそれが何なのか視てた。

 ルキたちにはただアッシュがそれを見上げているようにしか見えない。だがアッシュの瞳には数値としての情報が浮かび、その光を反射している物が強い魔力を秘めていることがわかった。

 そしてその魔力が別の何かへと向かってラインを結んでいることもアッシュには視えていた。


「……大聖堂、大聖堂の奥、左右の修道院、教会。全部で四ケ所とラインが繋がってるな」


「あれを中心として、ということでしたら……結界の基点として怪しいのはやはり大聖堂の奥、でしょうか?」


「やはり結界の基点は人の来ない場所に隠す、ということか」


「だよなー。大聖堂の奥とかどうやって行くんだよ、って感じだしさ」


「大聖堂の奥、ですか……えっと、確か聖女様がそこにいる、という話を聞いたことがあります。それと、特別な仕掛けが施してあるとか……」


 魔力のラインが何処に繋がっているのか。それを聞いて一番怪しいのは大聖堂の奥。ということでルキたちの意見はまとまっていた。


「それじゃ、まずは教会と大聖堂の結界の要を壊して、それから修道院で良いんだよな?」


「そういうことになる。修道院へはどうやって忍び込むか、少しばかり面倒だな」


「たぶんクロエさんなら修道院に入れますよね?」


「はい、可能だと思います。というよりも修道服を着ている。というだけで怪しまれることは少ないのではないでしょうか? ですから皆さんの分の修道服とかあれば……」


 それから修道院へと侵入する手段を考え始める。

 だがそんな四人の話に加わることなく、アッシュは魔力のラインの繋がり、その魔力の流れから結界の基点が何処にあるのか。それを視ようとしていた。

 結界の要というのは大規模な結界を張り続けるために必要な結界を安定させるための物であり、また結界の基点を守るためやその基点へと魔力を送り続ける役目がある。

 だからこそ、それぞれの魔力が何処に送られているのか、それがわかれば結界の基点はすぐに見つけることが出来る。

 そして、アッシュは結界の基点が何処にあるのか見つけた。


「いや……教会だ」


「教会、ですか?」


「待て。最も重要な結界の基点が教会にあるとは思えない。誰にでも出入りが出来る場所に仕掛けるわけがないだろう」


「そうですよ。そういうのは大聖堂の奥の……あれ? でも大聖堂の奥には聖女様がいるのであれば魔族とはいえ簡単には入り込めないような気もしますね……」


 シャロとカルナがそれはないのではないか、という意味の言葉を口にし、クロエもそれに賛同しようとしたがすぐにそういえば、と思いついたように疑問を口にした。


「あ……た、確かにそうですね……特別な仕掛けが施されているのにそこに入り込んで更に結界の基点を設置する。というのは難しい気がします」


「ですよね。まぁ、それを言うのであれば結界の要もそうなのですが……」


「だが他者が入り込めない場所だからこそ結界の基点を、と考えるのが普通だろう。いや、どのみち結界の要を破壊しなければならないのであればあまり変わらないか……?」


 クロエの言葉を聞いてシャロとカルナは同じように考え始めた。

 だがどちらの可能性も充分にあり、考えれば考えるほどにドツボに嵌まっていくような、そんな状況だった。

 なのだが、そうして延々とああでもないこうでもないと話し合うシャロたちへとルキはこう言った。


「何ぐだぐだ考えてんだよ。アッシュが結界の基点は教会にあるって言うならそうなんだろ。まぁ、どうしても考えたいって言うなら勝手にしたら良いんじゃないか? 俺はアッシュと一緒に確認しにいくけどな!」


 その言葉はアッシュが言っているのであればそうなのだろう。という信頼のような、盲信のような。どちらとも取れる言葉だった。

 とはいえ普段からルキはアッシュの言うことを信じ、アッシュの言う通りに動き、またアッシュのことを心の底から信用し、信頼している。だからこそきっとそれは盲信ではないのだろう。


「ってことで……アッシュ、行こうぜ!」


 そしてそう言いながらルキは魔力のライン以外にも何かないかと周囲を視ていたアッシュの腕に抱き着くようにして教会へと向かおうとした。


「あ、こら。まだ視てるんだからもうちょっと待てよ」


「あー、そうなのか? それならこうやって待っておくから視終わったら言ってくれよなー」


 こうやって、というのはアッシュの腕に抱き着いた状態のことを言っていて、ルキは一切離れようとはしなかった。

 またアッシュもそういうものなのだ、と振り払うこともなくルキの好きなようにさせながらもう一度空を見た。

 空に浮かぶ光を反射している物の正体は魔力の結晶であり、後であれは破壊しよう。とアッシュは考えていた。それと同時に他の場所にある結界の要もあれのような魔力の結晶なのだろうか、とも考えていた。


「え、えっと……そう、ですよね、主様が視て、そうだと判断したのでしたら実物を確認しないといけませんよね……」


「……そうだな、確認する程度の時間はある。まずは実物を見てからだ」


「でも教会にそれらしい物があれば誰かが気づくような気がします。もしかしたら何かに偽装してある、とかそういうことでしょうか?」


 ルキの言葉を聞いて実物を探して、それが本当に結界の基点なのかどうかアッシュに視てもらえば良い。という結論を出して三人はアッシュを見る。

 アッシュは三人の視線に気づいたのか空を見上げるのをやめてからこう言った。


「とりあえず教会と大聖堂を探してみるぞ。修道院と大聖堂の奥は後回しだ」


 そしてルキが腕に抱き着いていて動きにくいはずなのに、普段と変わらない様子で教会へと向けて歩き始めた。するとルキはアッシュに合わせて歩き、シャロたちもその後に続いた。



 五人が教会へと戻り、周囲の人間に怪しまれないように教会内を見て回ったがそれらしい物は見つからなかった。これに関しては元々ルキたちが三人で見ていたので仕方のないことだった。

 だが一人だけ。アッシュだけは魔力の基点となる物を見つけることが出来ていた。

 そして教会の隅へと移動すると、三人もそれについて動く。


「何も見つかりませんね……」


「あぁ、俺たちでは見つけることが出来ないようだな」


「特におかしなものはありませんでしたからね……」


 シャロたちはやはり見つからない。と言って、それでもアッシュには見つけることが出来たのではないか。とアッシュとその隣に立つルキを見た。

 尚、ルキは最初から探すような素振りは見せず、アッシュの隣から離れようとしなかった。

 それを見てシャロは流石に探す素振りくらいは見せるべきなのでは? と少し呆れ、カルナは自分ももっと積極的にいかなければダメかもしれない。と考え、クロエは純粋に良いなぁ、と羨ましく思っていた。

 アッシュはそんな三人には気づいていないのか、口を開いた。


「流石にこれだけ魔力が充満してると探すのだけでも厄介だったけど……まぁ、随分と大胆なことをしたもんだ」


「その言い方だと見つけたみたいだな。で、何処にあるんだ?」


「あれだ」


 そう言ってアッシュがスッと、とある場所を指差した。

 四人がその指差した先を見るとそこには教会の奥に設置されているイシュタリアの石像があった。


「は?」


「えっと、あの石像、ですか?」


「……本当に、あれが結界の基点なのか?」


「さ、流石にイシュタリア様の石像が結界の基点だとは思えません……それに、その……こ、壊さないといけないのですよね……?」


 四人とも本当にあれが? というように疑問符を浮かべながら口々にそう言っていた。

 クロエはもし本当にイシュタリアの石像が結界の基点だとして、最終的にはそれを破壊しなければならない。そのことが引っかかっているようで非常に戸惑っていた。


「え、あ、そ、そうですね、イシュタリア様の石像を壊す、というのは……」


 そんなクロエの言葉を聞いたシャロは、そういえばそうだった。というようにそんな言葉を零した。

 これはイシュタリアの石像を破壊することに何も思わない、ということではなく単純にイシュタリアと出会い、あの石像とは全く違うのだと知っているからだった。

 今のシャロにとっては作った人が考えたい理想のイシュタリアの姿。というものでしかない。だからこそそういえばあれはイシュタリア様の石像として認識されているのだった、と思い出したのだ。


「あー、そうか。アレの信徒なら壊せるわけもねぇし、壊そうと思ったら邪魔するのか。それなら確かにうってつけかもしれねぇな」


「なるほどな。イシュタリアの信徒にとっては石像を破壊するということはあり得ないことか」


「はい。イシュタリア様の信徒にとっては、イシュタリア様に関わりのある物は丁重に扱うべきものですから……それが、その……イシュタリア様の石像ともなれば猶更だと思います」


 そして三人はイシュタリアの石像だからこそ結界の基点として利用したのだと納得した様子を見せていた。だがクロエだけは納得していないようで、オロオロとしていた。

 そんな四人を見ながらアッシュはここを最後に片付けるとして、一番厄介なのは大聖堂の奥にある結界の要だな、と内心で非常に面倒だと考えていた。

 とはいえその前に、クロエを納得させておかないといけないな、と口を開く。


「クロエ」


「な、何でしょうか?」


「イシュタリアの石像が魔族によって利用されている。それをどうにかするためだってことで納得してくれないか?」


「え、えっと……そ、そういうことでしたら、確かに仕方のないことなのかもしれません……で、でも……」


「クロエ、わかってくれ。イシュタリアの信徒として苦渋の決断だとしてもあれを壊して魔族に対して手を打たないといけないんだ」


「イシュタリア様の信徒として……」


「あぁ、それに俺としてもクロエが納得出来てない状態でそんなことはしたくないんだ。だって、そんなことをするとクロエが後で後悔したり、傷ついたりするかもしれない。俺は、そんなことにはなってほしくない」


「あ、アッシュさん……」


 やりたくない、と思いながらも最も有効な手段だとしてクロエを誑し込み始めるアッシュ。

 そしてそれにまんまとひっかかり頬を赤くしてアッシュを見つめるクロエは、たったこれだけのことでそういうことなら、と考えるようになっていた。


「わ、わかりました! アッシュさんがそうして私のこと気遣ってくれるだけで充分です。それにイシュタリア様の石像を魔族に利用されるというのはあってはならないことですからね!」


 このように非常にちょろいクロエはイシュタリアの石像を破壊することを仕方がないのだと納得をした。


「そうか、ありがとう、クロエ」


 そう言って小さく微笑みを浮かべるアッシュにクロエはコクコクッと頷くことで返していた。

 そんなアッシュを見てルキはやっぱりアッシュなら誑し込むくらい簡単だよな、と内心で頷いていて、シャロとカルナはなるほど、これが演技派、ということか。と感心していた。

 また三人ともこれは流石にちょろ過ぎるのではないだろうか? と呆れていた。

そこなの? って思われるけど、そういう場所にこそ仕掛けた方が良いかも! と。

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