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67.特殊な結界

 カルナは宿のとある一室の前でアッシュたちを待っていたようで、アッシュたちがやって来ると扉を開けた。だが中には入ろうとせず、アッシュたちを見るだけだった。

 それがどういうことなのかと少し考えてからアッシュは答えに辿り着き、部屋の中へと進んだ。

 カルナの行動の意味は先に入れ、というものだった。アッシュはそれについて普通に言葉にしたら良いのに、と思って部屋に入ると誰かがいる。ということもなく宿の標準的なベッドや机などがある程度でカルナの私物は置いてないようだった。


「何もないな」


「赤チビがごちゃごちゃ物をたくさん持ってる方が違和感あるけどな」


「えっと……わ、私はとりあえず静かにしておきますね?」


 ざっと部屋の中を見渡して感想を口にするアッシュとルキ。そんな二人に自分はどうしたら良いのかわからず、とりあえず静かにして成り行きを見守るとシャロは困ったような表情で言った。

 そんな三人が部屋の中に入るのを確認してからカルナも部屋の中に入り、扉を閉じた。


「まさか聖都に来るとは思っていなかった。だが……まずは再会を喜ぶべきか」


「俺たちはお前に会っても嬉しくも何ともねぇよ」


「俺たちはそこまで縁の深い相手でもないからな。ルキの言うように嬉しいとか思うこともないし、喜ぶこともないだろ」


「そうか。だが俺はアッシュと再会出来たことを嬉しく思っている。柄にもなくこの再会が運命なのではないかと考えてしまうほどに」


 そう言ってカルナはアッシュをじっと見つめる。表情には一切変化はないが瞳の中に僅かに熱が籠っていることが見つめられているアッシュにはわかった。


「はぁ……まぁ、それは置いておくとして。何で聖都にいるのか聞いても?」


「任務のためだ」


「どんな任務か聞かねぇけど面倒事に巻き込むなよ?」


「巻き込むつもりはない。と言いたいが聖都に足を踏み入れた時点でそれは不可能だ」


「はぁ?」


 カルナの言葉にルキが何を言っているんだ。というように返すとカルナはアッシュたちの顔を順番に見てから口を開いた。


「現在聖都は特殊な結界に覆われている」


「特殊な結界、ですか?」


 静かにしている、と言ったシャロだったが特殊な結界と言われてそれがどういうものなのか気になってしまいどういうことなのかと尋ねた。


「一定以上の魔力を持った人間や神性を帯びた人間が結界の外に出られなくなる、空間閉鎖系の結界だ」


 カルナがどういった結界なのかを口にするとシャロは神性を秘めた人間という言葉に疑問符を浮かべ、アッシュは知識の瞳の加護を発動させカルナの言葉の真偽を確かめ、ルキは小さく舌打ちを一つしていた。

 アッシュにはカルナの言うように奇妙な結界が聖都を覆い、それがどういうものなのかが視えていた。


「……いや、待て。これは人間が張れるような結界か?」


 だがその視えていた結界の術式は人間が扱うには異様なもので、扱えるにしても非常に優秀な術者か加護がある人間でなければ不可能な結界だった。

 そのことをアッシュが疑問に思い口にするとカルナは一つ頷いてから言葉を返した。


「流石アッシュだな。これは帝国の人間が扱えるような結界ではなく、また聖都の人間が扱うには邪道が過ぎるとも言える結界だ」


「……帝国でも聖都の人間でもない第三者が張ったっていうのかよ」


「そういうことになる」


 ルキが疑わしそうに第三者の存在を口にするとカルナは短くそう返した。

 帝国でもこの聖都の人間でもなく、アッシュが人間の扱えるものか疑問視していた。


「俺が見て回った限りでは魔族の介入が最も疑わしいだろう」


「魔族!?」


「残留している魔力が人のそれよりも禍々しい」


「そういう人間がいる可能性もあるだろ」


「あぁ、その通りだ。だが……ここ数週間の間に聖都の浮浪者や孤児が減っている。と言えば何を考える?」


 カルナがこの情報を聞けば何か思い至ることがあるだろう、とアッシュを見る。

 それを受けてアッシュは思考を巡らせてどういったことなのかを考え、そして先ほどの魔族の介入と言う言葉から一つの可能性に辿り着いた。


「まさか、魂喰いか?」


 魂喰いとは生き物を殺し、その魂を喰らうことによって魔力を回復、補充する手段であり、この世界においてそれができるのは魔族のみとされている。

 アッシュは結界の維持に必要な魔力をそうした魂喰いによって賄っているのではないか、という考えに至り、それを口にするとカルナはこくりと頷いてから言った。


「そうだ。浮浪者や孤児が消えたところで誰も気にしない。むしろ煙たがっている人間がいつの間にか消えていることを嬉々として話す始末だ」


「そうか……そうか。俺たちにわざわざ話をしたのは気を付けろって警告か? それとも手を貸せってことか?」


 とりあえず魔族が原因だと仮定して、そのことを話した理由をアッシュが問えばカルナはこう答える。


「警告だ。魔力だけで選別しているのであれば問題はない。だが神性を帯びている人間も選別の対象となれば話は別だ」


「とりあえず俺とアッシュ、それと赤チビは引っかかるよな」


「俺とアッシュはわかる。だがお前もなのか、ルキ」


「アッシュからもらったからな」


「アッシュから?」


 どういうことなのかとカルナがアッシュを見るが、アッシュは余計なことを言うな。というようにルキの頭に手刀を落としていた。


「いてっ」


「俺とルキだけじゃない。シャロもだ」


「……そちらの少女か。なるほど、確かに酷く微弱なものだが神性を感じるな」


「え?」


 アッシュとカルナの言葉にどういうことなのか、とシャロが戸惑っているとルキがそういえば、というようにこう言った。


「神託受けただろ」


「え? あ、はい……」


「その時点で神が自分が神託を授けた存在だ。だから手を出すなよ。って他の神に牽制する意味を込めて僅かでも神性を与えるんだよ。まぁ、本当にその程度でしかないから普通はわからないけどな」


「な、なるほど……そういうことでしたか……」


 ルキの説明に納得したようにシャロは頷き、それと同時にそんなことを知っているルキに感心していた。

 またその説明を受けてカルナもなるほどな、と納得し、また神託を受けたというシャロに僅かなりと興味を抱いているようだった。

 そしてカルナがそれについて聞き出そうとするが、まるで先手を打つようにアッシュが口を開いた。


「つまりは俺たちは誰も聖都からは出られない、と」


「……あぁ、そういうことになる。聖都を出たければ結界を破壊するか、結界の術者を倒すか。そのどちらかだ」


「まぁ、そうなるな……そういえばこの結界は他に気付いた奴はいないのか?」


「いない。ある一定の魔力と言ったがそれは常人が持ち得る魔力ではなく、また神性を帯びた人間は非常に稀少だ。教会の人間であればそうした人間もいるかもしれないが、そういった人間は聖都の外に出ることはそうあることではないだろう」


「つまり、他の奴らは出入りは自由で、引っかかりそうな奴は聖都から出ない。だから誰も気づかない、か」


 そう結論を口にしてからアッシュは完全に厄介事に巻き込まれたな、とため息を零した。それからシャロに目を向ける。

 シャロは話の内容を聞いて不安になってしまい、どうしたら良いのかとアッシュのことを見上げていた。

 そんなシャロと目が合ったアッシュはふっとシャロを安心させるように小さく笑みを零すとその頭に手を乗せて優しく頭を撫でた。


「そう不安そうにするなって。大丈夫、俺がちゃんと守るって言っただろ?」


 その言葉にシャロは驚いたように目を見開き、それから徐々に頬を紅潮させてからコクコクッと何度も頷いて返した。

 そんなシャロをアッシュがよしよし、と撫で続けているとシャロはついに真っ赤になって俯いた。だが微妙に口元がにやけていて、両手で頬を覆うようにしていた。それから何かをごにょごにょと言っていた。


「どうやらシャロは随分とアッシュに愛されているようだな」


「えぇ!? あ、愛され……!?」


「そうでなければこうも真っ直ぐに守るなどとは言わないだろう」


「そ、そうですか……そう、ですか……!!」


 カルナの言葉にシャロは驚きながらも嬉しそうに口元を緩ませ、えへへ、と笑んでいた。


「カルナ、余計なことを言うな」


「俺はそう感じた、という事実を口にしただけにすぎない」


「それが余計なことなんだよ。それよりも……とりあえずは厄介事を片付けないとな」


「協力してもらえるのか」


「本当に魔族が関わってるなら手を組んだ方が早いだろ」


「アッシュが灰を降らせた方が絶対に早いと思うけどなー」


 アッシュとカルナが手を組む。ということを話しているとルキがそんなことを言いながらアッシュの手を取り、当たり前のように自分の頭の上に乗せていた。


「灰を降らせる方が面倒事だろ。結界の術者だけ片付ければ済む話が大事になるぞ」


「まぁ、そうだよなー」


 灰とは何なのか。と僅かに首を傾げるカルナであったがそれ以上に当たり前のようにアッシュの手を自身の頭の上に乗せたルキと、それを疑問に思うこともなく当然のようにルキの頭を撫でるアッシュにそれで良いのだろうか、と疑問に思っていた。

 それと同時にルキとシャロの二人はアッシュに撫でられているのが羨ましいとも考えていた。


「とにかく、魔族がいるなら俺が視ればある程度はわかるはずだからまずは索敵から始めないとな。魔力が残留していた場所からまずは回るか」


「食べ歩きしたかったけど仕方ねぇよなー」


「終わったら食べ歩き、ってことで。まぁ……満足するまで付き合うから我慢してくれ」


「お、言ったな? 約束だからな?」


「はいはい。約束だ」


 仕方ない、と言いながらもルキは不満そうで、アッシュが苦笑を浮かべながら満足するまで付き合うと言った。すると一転して機嫌が良くなり尻尾をふりふりと振り始めた。

 そんな二人を見てカルナはなるほど、と内心で納得していた。これが二人にとっては当たり前のことなのだ、と。それからアッシュに撫でられるにはどう立ち回れば良いのだろうか、とも考えていた。


「よし、それじゃ出るか。カルナ、案内を頼むぞ」


「あぁ、わかった。ついて来てくれ」


 そうして考え事をしていたカルナだったがアッシュに案内を頼まれるとすぐに考え事をやめて案内をするために扉を開けて外に出た。

 そしてアッシュはそれに続くために未だに真っ赤になっているシャロの背を押して進むように促し、ルキと共に三人でカルナを追った。

最初から不穏な感じで話が進むよー。

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