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60.寂しそうな理由

 アッシュは抱き締めていたシャロを解放し、ルキに掴まれていた腕をするりと抜くとシルヴィアたちはどうなったのかと視線を向けた。

 すると何やら落ち込んでいるような、寂しそうにしているような。そんなシルヴィアを心配そうに見ているアルトリウスとクロエの姿が目に入った。

 それを見てあれはきっと面倒事だな。と判断したアッシュは見なかったことにしようとした。だが残念ながらアルトリウスに見ていることに気づかれてしまった。

 するとアルトリウスはクロエに一言断りを入れてからアッシュへと歩み寄る。それを見てアッシュはため息を零していた。

 アルトリウスはそんなアッシュの様子に苦笑を浮かべながら口を開こうとした。だがそれよりも先にアッシュが少し嫌そうな顔でこう言った。


「面倒事は御免だぞ」


「面倒事、とは少し違うと思うんだけど……話を聞いてもらうことは出来るかな?」


「まぁ、聞くだけならな。それで、シルヴィアに何があったんだ?」


「えっと……アッシュたちが仲良くしているのを見て羨ましくなったみたいなんだ……」


「はぁ?」


 今更何を言っているんだ? と思いながらアッシュが声を漏らすとアルトリウスは気まずそうに言葉を続けた。


「その、シルヴィア様はアッシュが二人の兄のように見えて、それにとても仲が良いのが羨ましかったみたいなんだ」


「ますます意味が分からないな……仮に俺たちがそういうものに見えたとして、どうして羨ましく思うんだ? シルヴィアは兄も姉も両親もいて随分と仲の良い家族だって話じゃないか」


 そう言いながらアッシュは懐疑的な目をアルトリウスに向けていた。

 それともそれは対外的なものなのか? アッシュの目はそう語っていてアルトリウスはそれを否定するように首を振った。


「あぁ、殿下たちは王位継承に関しても争うことはなく、第一王子であるキリシュアガ様が王位を継ぎ、第二王子であるウルシャナビ様はその補佐をするとウルシャナビ様ご本人が決めたことだ。という話だよ」


「王位継承を争うことがないなら平和的だな。それなのにどうして羨ましく思うんだ?」


「それは、その……殿下たちは非常にお忙しい身だから、仲が良いとは言っても、えっと……アッシュたちみたいなスキンシップ? はほとんどないんだ。言葉を交わして褒める、ということはあってもね」


「褒めるにしても言葉だけってことか」


 その言葉にアルトリウスは頷いた。

 今日は何をしたのか。どんなことが出来たのか。シルヴィアが兄であるキリシュアガやウルシャナビに伝えれば二人は可愛い妹のことをちゃんと褒める。だがアッシュがルキやシャロにするように頭を撫でる、ということはしない。

 これは単純にキリシュアガとウルシャナビがそうして頭を撫でる、というのは子供扱いしているようでシルヴィアが快く思わないのではないか? と考えてのことだった。

 だがシルヴィアとしては頭を撫でて良くやった、凄いじゃないか。そう褒めて欲しいと思っていた。

 見事にすれ違いが起こっていて、そして互いに考えを相手に伝えることもなく自分の胸の内にしまっていた。似た者兄妹、ということになるのだがそれのせいでシルヴィアが寂しい思いをしているとはキリシュアガもウルシャナビも、そしてシルヴィアの姉たちや両親でさえ気づいていなかった。


「はぁ……随分とシルヴィアも子供っぽいな」


「仕方がないさ。幼少期から勉学や政治などは教師を付けて学ぶから褒めるにしても撫でる、なんて不敬だって恐れて出来ることじゃない。もし幼少期から触れ合うようなスキンシップをしていたならまた違ったかもしれないけど……僕たちがどうこう言えることじゃないんだ」


「王家から信頼の篤いカレトヴルッフとはいえ流石にそういったことに対しての進言は出来なかったか」


「信頼の篤い、とは言ってもそれは僕の先祖や父上の話だよ。僕自身はまだ何の功績もない、ただカレトヴルッフの人間っていうだけでしかないんだ。だから僕が進言できるような立場ではない上に下手なことを言ってしまえば父上に迷惑をかけてしまうからね」


「そうか……そうか。家名の七光りに頼るタイプじゃないってのは良いな。いや、今はそれは置いておくとして……それで、俺に何かしろって言うんじゃないだろうな。ああいうのは普通に考えれば他人が簡単にどうこう出来るものじゃないだろ」


 言いながらアッシュは何処か胡乱げにアルトリウスを見ていた。

 誰かが口を挟んだ程度でどうにかなるようなことではないのに、まさか自分に押し付ける気じゃないだろうな。と考えてのことだったが、その言葉にアルトリウスは非常に気まずそうに視線を逸らしながら言葉を返した。


「え、えっと……出来ることならシルヴィア様と少し話をして欲しいなぁ、って……だ、ダメかな?」


「はぁ……話をするのは良いけどそれで解決するとか思うなよ」


「うん、でも誰かと話をするのは大事なことだからね。それも王女や勇者という地位を気にしないような人なら尚のこと、だよ」


 アルトリウスの言葉に再度ため息を零してからアッシュはルキへと目を向けた。するとルキは軽く肩を竦めて返した。

 アッシュはシルヴィアと話をするから邪魔はしないでくれ、と目で語り、それを過不足なく理解したルキは仕方ねぇな、と肩を竦めて返したのだ。

 これを目を合わせるだけで行えるのだからこの二人の付き合いの長さと絆の深さが良くわかる。


 それはおいておくとして。シャロのことはルキに任せてアッシュはシルヴィアの下へと向かった。

 先ほどと少し変わって何かを考え込んでいるようなシルヴィアとそれを心配そうに見ているクロエ。そんな二人はアッシュが近づいて来たことに気づいてアッシュを見る。


「ちゃんと休憩は出来てるか?」


「え、あ、はい……大丈夫です」


「そうか……そうか。いや、随分と疲れてるみたいだったからな。休めてるなら良いんだ」


「あはは……あんなに歩き続けることはありませんでしたから……すいません……」


「あぁ、文句を言ってるわけじゃないんだ。ただ疲れてるなら疲れてるで無理はしないようにして欲しい、ってくらいは伝えておこうかと思ってな」


 申し訳なさそうに謝るクロエを制してアッシュは無理はするなよ、と釘を刺す。

 するとクロエは自分が思っていたよりも旅というのは厳しいものだと実感したからか神妙な顔で頷いて返した。


「はい。無理をして後々に動けなくなったりすると皆さんに迷惑をかけてしまいますから気を付けます」


「そうしてくれると助かる。それとシルヴィア」


「ん、何かな?」


「アルトリウスが随分と心配してるみたいだったぞ」


 わざわざ王家の内部事情とも取れる事柄をそのまま口にすることは出来ず、それでもシルヴィアにどういうことなのか伝わるような言葉を選んでアッシュが言えば、シルヴィアは少し困ったような表情を浮かべて口を開いた。


「あはは……うん、アルはすごく心配してくれてるよ。でも、気にしなくて良いんだけどなぁ……」


「シルヴィアはそうかもしれないけど目に見えて落ち込んだり寂しそうにしてれば気になるだろ」


「……そんなにわかりやすいかな?」


「自覚なしか。まぁ、とりあえず……その辺りの話を少し聞かせてもらおうか」


「え? いや、本当に気にしなくて良いんだけど……」


「シルヴィアが気にしなくて良いっていうよりも、話をしないと納得しそうにない騎士様がいるんだよ」


 言いながらアッシュが親指を立ててクイッと後方にいるアルトリウスを示すとシルヴィアは何とも言えない微妙な表情を浮かべて言葉を返す。


「あ、あー……確かにアルが気にしてるみたいだからね……でも、そういう理由で話をしろ、って言われても……」


「何だ、俺が心配して話を聞きたい。っていうスタンスじゃないと嫌か」


「うーん……そういうわけじゃないんだけど、話しにくいよね、って」


 真摯に話を聞こうとしているのではなく、他人に言われて仕方なく話を聞こうとしている。となれば話難いのは当然のことだ。

 だからこそ、そういうことであれば話にくい。とシルヴィアは言った。

 それを聞いたアッシュは呆れたように言葉を返した。


「そういうのもあるかもしれない。けど対して興味もないような相手に軽く愚痴を零すように話をするってのも良いんじゃないか?」


「うーん……愚痴、愚痴かぁ……」


「あぁ、もしくは……一応は聖職者がいるんだからそっちに話をするのでも良いかもな」


 そう言ってからアッシュはクロエを見た。少し違うが懺悔室で神父に話をするような、それだけで多少なりと心が軽くなるかもしれない。と考えてのことだった。

 ただアッシュとしてはシルヴィアの想いというか感情というか。それはそれだけで心が軽くなる程度の話ではないと考えていた。


「わ、私ですか?」


「何と言っても聖女候補だからな。話してみれば何かすっきりするかもしれないぞ?」


「そういうものなのかなぁ……」


「どうだろうな。物は試しだ。クロエに話してみれば良いだろ。勿論、言い難いようなことは言わなくても良いから、少しの愚痴を聞いてもらうつもりで話せば良いさ」


 こうしてみれば良いんじゃないのか。と言いながらも一人で話を進めてそうなるように仕向けているアッシュの悪辣さに気づかないシルヴィアはそういうことなら少しだけ話してみようかな? と考え始めていた。

 またクロエは懺悔室で話を聞く。ということをしたことはないので自分にそれに似た役割が果たせるかどうか不安を覚えていた。だが先ほどまでのシルヴィアのことを考えれば、自分で力になれるのであれば力にいた。とも考えていた。

 その結果としてアッシュの誘導通りにシルヴィアはクロエに話をすることに決めていた。


「えっと……それじゃ、クロエ。少しで良いから僕の話を聞いてくれるかな?」


「は、はい! 私で良ければ、聞かせてください」


「うん、ありがとう。それから……アッシュも話を聞いてくれるんだよね?」


「あぁ、あれこれ口を挟むつもりはないから、好きなだけ愚痴を零せば良いさ」


「んー……そこまでするつもりはないんだけどなぁ……」


 好きなだけ、と言われても本当に少し話をする。という程度で考えていたシルヴィアは苦笑を漏らしながらそう言った。

 それからこれから話をするために、もしくは覚悟を決めるように一つ深呼吸をした。

シルヴィアにはシルヴィアの事情があるので、その一端を少しだけ。

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