54.好感度上昇中
「あ、っていうかさっさと飯作らねぇといけなかったな」
「そうだけどそれをルキが言うんだな。完全にその流れをぶった切ったのはルキだからな?」
「知ってる。でも良い機会だからジャブでも撃っておこうかな、と」
「あれでジャブなのかよ……」
逃げ場を潰される告白をされたアッシュにとっては致命的な一撃を入れられたような気分だったのに、ルキにとっては軽いジャブだったらしい。そのことを聞いてアッシュは頭を抱えていた。
そんなアッシュを見てルキは悪戯が成功したように笑みを浮かべた。
「まぁ、何だな。これからは全力出そうかと思ってるからよろしくな!」
「はぁ……お手柔らかにな……」
やめてくれ、と言っても意味がないと理解しているアッシュは普段の様子からは想像もつかないような弱々しい声でそう言った。
だが一つため息をついてから軽く頭を振ってから口を開いた。
「よし、とりあえずさっさと終わらせるか」
そう言ってから普段通りの振る舞いで昼食の仕上げに掛かっていた。
その変わりようにシャロとクロエは感嘆の吐息を零してから口を開く。
「流石主様です……切り替えがすごく早いですね……」
「ミザリーさんより切り替えが早い……」
「んー……でも主様らしい、と言われればそうなのかもしれませんね」
そしてシャロは納得したように頷いてからアッシュの手伝いを始める。
「あ、わ、私もお手伝いします! というよりも、私がやらないといけないのにすいません……」
それを見て自分も手伝いを! と声を上げたクロエだったがすぐに元々は自分がやることになっていたのに結果としてほぼ全て任せてしまったことを申し訳なく思っているようで、その言葉は徐々に小さくなっていった。
だがそれを聞いたアッシュは気にした様子など見せずにこう返した。
「気にする必要はないぞ。俺たちが勝手に手伝いを申し出て、勝手にやっただけだからな。それにクロエはシルヴィアたちに飲み物を持って行ってたんだから仕方ないだろ」
「……お優しいのですね……」
「いや、別に優しくはないだろ。当たり前のことしか言ってないぞ」
「いえ、充分にお優しいかと。そうした言葉をかけることない方もいると聞きますから」
「まぁ、それはいるだろうけど……いや、否定するだけ意味がなさそうだから素直にその言葉を受け止めておくか」
「ふふ……はい、私のこの言葉、受け止めてくださいね」
クロエはそう言ってから嬉しそうに、もしくは楽しそうに微笑んだ。
そんなクロエを見て聖職者は人の話を聞かないところがあるよな、と思いながらアッシュはルキとシャロの様子を見る。
ルキはアッシュへと微笑むクロエを見て少しばかり険しい目つきで見ていた。またシャロはアッシュが優しいという言葉に同意するようにうんうん、と頷いていた。
そんな状況でありながらもアッシュたちの手は止まっておらず、ついには昼食を完成させていた。
そしてクロエは微笑みを浮かべたままその完成された昼食を見て、結果として自分が手をつけることはなく、三人だけで完成させたと気づいて微笑みを浮かべたままクロエはピタッと動きを止めてしまった。いや、固まってしまった。
「さて、完成したし後は皿に盛ってテーブルまで運ぶだけだな」
「そうですね。クロエさん、お皿とか、どれを使ったら良いですか?」
「あー……まぁ、今回は良しとするか。最後の盛り付けとかはやるだろ?」
「え、あ、は、はい!! むしろ残りは私がやらないといけない気がしますからお任せください!! いえ、本当に!!」
そんなクロエなどお構いなしに三人が声をかけると漸く動き始めたクロエは残りは自分にまかせて欲しいと言った。このままだと本当に全て三人が終わらせてしまい、自分は何もしなかった。となってしまうと思ったからだ。
アッシュとルキはそうした理由から焦るクロエを見て、それからお互いに視線を合わせてから一つ頷いた。そしてクロエの懇願とも取れる言葉を聞かなかったことにしてルキが素早く皿を選び、アッシュが盛り付けを開始した。
「あぁ! 待ってください!! 本当に私がやりますからぁ!!」
泣きそうな声で叫ぶようにクロエが言えば、クロエに見えないようにアッシュとルキは楽しそうな笑みを浮かべていた。
ただそれはシャロにははっきりと見えていたので二人がわざとやっていて、それも楽しんでいるとわかったので呆れたように小さく息を吐いていた。
「もう! 主様もルキさんもそういうのは良くないですよ! 今回はクロエさんがやると言っているんですから任せるべきです!!」
それからぷんぷんと擬音が聞こえてきそうな怒り方をしながらそう言うと、二人はそう来ると予想していたのかそれぞれ手に持っていた物を置いてクロエに場所を譲った。
「シャロに言われたら仕方ないな」
「だなー。チビがどうしてもって言うなら仕方ないから譲るしかねぇよな」
「そんなこと言ってお二人とも元々そのつもりでしたよね? クロエさんをからかうためにわざとやってましたよね? 私にはちゃーんとわかってるんですよ?」
「そんなわけないだろ?」
「そうそう! そんなことしねーっての!」
アッシュもルキもからかってなどいない。と言っているが楽しげな雰囲気のままであり、やっぱりからかって遊んでいたんだ、とシャロは確信した。
だがそれを言及したとしても二人とも認めないのはわかっているのでため息を零してからクロエを見る。
「はぁ……クロエさん。主様もルキさんも邪魔、とは違いますけどこれ以上は自主的に動かないと思いますから、後はお任せしても大丈夫ですよね?」
「え、あ、はい……うぅ……良かったぁ……本当に、本っ当にありがとうございます、シャロさん」
「いえ、気にしないでください。元はといえば私たちがお手伝いさせていただいたからなったことですし、更に言えば先ほどのは主様とルキさんが悪いですからね!」
アッシュとルキが悪い、と言いながらシャロが二人を見た。その視線は自覚ありますよね? と問いかけるようなものだった。
その視線を受けた二人はすぐさまアイコンタクトを一つするとルキが口を開いた。
「違うぞ、あれはあくまでも善意だったってことにしてあるからな!」
「そうそう。善意でやったことにしてる以上は悪いなんて言われるのは心外だ」
「自分たちで善意ということにしている、と言っている時点でダメです!! クロエさん、主様もルキさんもこういう方ですから気を付けないとからかわれますし、弄られっぱなしになるので気を付けてくださいね」
「え、あ、はい……気を付けます……?」
からかわれたり、弄られっぱなしになる。と言われてもいまいちピンと来ないクロエは微妙に疑問符を浮かべながらそう返した。
そんなクロエを見て、ルキはそろそろ遊ぶのも終わりにしても良いよな。と考えてアッシュに一度視線を投げかけると、それに気づいたアッシュはぽん、とルキの頭に手を置いた。
「よし、それじゃ後はクロエに任せて俺たちは配膳だけ手伝うか。流石にそれは協力した方が良いからな」
「だな。まぁ、それ以外は全部任せるから頑張れよー」
「は、はい! お任せください!!」
「あ、でもお片づけはどうしましょうか……?」
「それは臨機応変に、ってことで。もしかしたらミザリーがやるかもしれないし、今度はシルヴィアたちがやるかもしれない。とりあえずその時になったら考えれば良いんじゃないか?」
「確かに……それもそうですね。ちょっとだけ、問題の先送りのようにも思えますけど、そうしましょうか」
そうした言葉を交わしてから三人は先ほどまでわたわたしていたのが落ち着いたのか、てきぱきと料理を盛り付けるクロエへと視線を向けた。
最後の仕上げ、ともいる盛り付けなのだがクロエは何処となく楽しそうに盛り付けを行っていてその様子に疑問を抱いたのかルキが口を開いた。
「おい、目隠れ。やけに楽しそうだな」
「え、はい! お料理って、楽しいですよね」
「おー……料理楽しい勢か」
「何ですかその不思議な勢力は……いえ、料理するのが楽しい方々の集いのようにも聞こえますけど」
「あはは……私の作った料理を食べて美味しいって言ってくれる方がいる。そう考えると、心が温かくなりますから、私は料理が好きです。とはいえ今回はちょっと違いますけど……でも、料理に関することも好きですから盛り付けとか、最後の仕上げとか、そういうのも楽しいですよね」
本当に楽しそうにそう言ったクロエの口元は自然と緩んでいて、本心から楽しんでいることがわかった。
「でもその気持ち、私にもわかりますよ。前まではそうでもなかったんですけど、最近は私の作った料理を主様が食べて、美味しいって言っていただけるのがすごく嬉しいんです。だから作ってる最中も今日は美味しいって言ってくれるかなぁ、って考えながら料理すると楽しくて楽しくて……」
シャロは嬉しそうに言ってからアッシュを見上げた。
「ん、まぁ……シャロの料理の腕はどうなってるんだ、ってくらいに上達するからな……最近はいつも楽しみにさせてもらってる。ありがとうな、シャロ」
「えへへ……どういたしまして、主様!」
アッシュの言葉にシャロは頬をふにゃっと緩ませて、そして次に何処か幸せそうな笑顔を浮かべてそう返した。
それを見ていたクロエは、シャロがここまで懐いているというか、好かれていることと今までのルキのこともあって子供にこれだけ好かれているということは本当に優しい心を持った人なのだと考えてもいた。
そんなことを考えてアッシュとシャロの様子を温かい目で見ていたクロエだったが、ふとルキが静かになっている、と思ってルキへと視線を向けた。
するとルキは微妙な表情で二人のことを見ていて、クロエはどうかしたのだろうか、と首を傾げていた。
「……なぁ、アッシュ」
かと思えばルキは意を決したようにアッシュへと声をかけた。
「どうかしたのか?」
「えっと……お、俺も料理頑張ってみようかなって思うんだけど……俺が一人でもちゃんと料理出来るようになったらアッシュは嬉しかったりするか……?」
普段のガンガン押していくルキからは考えられないような、少しだけもじもじしながら頑張って喋る様子のルキ。
そんなルキの様子にアッシュは珍しいな、と思いながら。またこういうルキも可愛いよな、と思いながら言葉を返した。
「まぁ……ルキが料理を出来るようになったら任せたり出来るし、嬉しいよな」
「そう、だよな……ならちゃんと出来るようになった方が……」
アッシュの言葉を聞いて何処か寂しそうにルキは少し俯きながらそう言った。
その様子にどういうことなのか、とシャロとクロエが疑問符を浮かべていたがアッシュは何となく理由がわかっているので小さく苦笑を漏らしてから口を開いた。
「それに並んで料理が出来るってのは良いことだよな。今まではルキが手伝ってくれてたけど、俺が手伝う立場になって一緒に料理をするってのも普段と違って新鮮そうだ」
その言葉にルキはバッと顔を上げてアッシュの見た。
「ルキのことだから自分が料理出来るようになったら今までみたいな手伝い方とか出来なくなって一緒に料理出来ない、とか考えたんだろうけどこうして一緒に料理すれば良いだけだろ。だからそう寂しそうにするなって」
「…………アッシュ」
「ん、どうした?」
アッシュの言葉はルキの言葉を見事に当てていた。
だからこその苦笑だったが今は優しい目でルキを見ていて、ルキはそんなアッシュを真っ直ぐに見つめてから次の言葉を口にした。
「よくよく考えればそうだよな。俺が一人で料理出来るようになったからってずっと一人で料理しないといけないわけじゃないし、寧ろ料理を教えてもらう間とかずっと俺にかかりっきりだって考えると良いことだし……そういうのちゃんと考えてくれてるとかもう色々ひっくるめてアッシュのことが大好きで良かった!!」
そして自分の感情のままにそう言うとルキはアッシュに抱き着いて尻尾を左右にブンブンと振り回していた。
そんなルキを抱き留めながらアッシュはその頭を優しく撫で、やはりというべきか苦笑を浮かべていた。
誰の好感度が一番上がったのかと言えば間違いなくルキで、天元突破してもまだ上がるけど良いよね。




