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51.新たな友人候補

 安堵した様子を見せて以降のミザリーの雰囲気は少しだけ柔らかい物へと変わり、シルヴィアとアルトリウスが感じていた自然と背筋が伸びてしまうようなものはなくなっていた。

 そのおかげか二人はこの部屋の中が沈黙に包まれたとしても居心地の悪さを感じることはなく、寧ろ先ほどまでの反動のおかげか非常に居心地が良いような気さえしていた。

 そんな中でそういえば、とシルヴィアが疑問を口にした。


「ミザリーは誰にでも声をかけていた訳じゃない、って言ってたよね」


「はい。こちらとしても信用することの出来る方にだけ声をかけるように、と考えていました」 


「それは……つまり、僕たちは信用出来る、と思ったということかな?」


「その通りです。ウルシュメルク王国第三王女、シルヴィア・シャルマス・リマト・ウルシュメルク様。それからアルトリウス・カレトヴルッフ様ともなれば信用することの出来る方だと判断しました」


 ミザリーが二人の名前を口にすると二人とも驚いてミザリーを見た。するとミザリーは先ほどと同じように深々と頭を下げて言葉を続ける。


「申し訳ありませんでした。本来であればこうして知らないフリをすべきではなかったのだとはわかっています。ですが軽々にお名前を口にするべきではないのではないか、と考えましたので」


 何も知らないような態度で振る舞っていたミザリーだったが、本当はシルヴィアとアルトリウスの素性を知っていた。

 しかしそれを最初に口にすると立場を利用するつもりで声をかけている。と警戒されては困る、とミザリーはそういった態度で接していたのだ。

 とはいえそれを口にするべきではないと理解しているミザリーは取ってつけたような、それでいて確かにその通りだ、と思えるような理由を口にしていた。

 もしこの場にアッシュがいたならばきっとその本音と建て前を見抜いた上で胡散臭そうにミザリーを見ていたことだろう。


「ば、ばれてたんだ……」


「最初に言ってくれれば良かったのに、とは思うけど……」


「とはいえアッシュさんは私がお二人に気づいていると察しているようでした。それなのに何も言わず、またこうしてお二人と話をする状況を作ったということは問題ないと判断した、ということなのでしょう」


「えぇ!? 嘘でしょ!?」


「アッシュはミザリーがシルヴィア様と僕に気づいてるとわかっていたのかい!?」


 アッシュは気づいていた。その言葉にシルヴィアとアルトリウスは驚愕の声を上げた。


「はい、そのような素振りを見せていました。そして私の話よりもクロエから何らかの話を聞きたいと考えてクロエの手伝いを申し出たのだと思います」


「な、なるほど……アッシュは色々と考えてるんだね……」


「でもそれならそうと言って欲しかった。と思うのは僕だけかな……?」


「大丈夫、シルヴィア様だけじゃなく僕もそう思いますから」


 そう言ったシルヴィアとアルトリウスの声には何処となく不満の色が浮かんでいて、それに気づいたミザリーはくすりと小さく笑った。


「アッシュさんはお二人にとって害がない、と判断してのことでしょうから、何を言っても流されてしまいそうですね」


「あー……確かに……」


「アッシュとは長い付き合いじゃないけど、そうしそうだなぁ……」


 そう言ってシルヴィアとアルトリウスの二人は苦笑を漏らし、その後の話題はアッシュのことへと変わっていった。

 とはいえアッシュについて詳しく知っているわけではないのであれこれと予想だったら印象だったりミザリーから見たアッシュはこういう人間なのでは? という予想を聞くような物だったが。

 だがそれでも三人は非常に和気藹々と話をしていて、これはこれでシルヴィアとアルトリウスにとっては得難き話し相手を得たような、友人を得たような、何とも不思議な状況になっていた。

 そして二人は自分たちを第三王女や王国騎士として扱いながらも決して媚びることはないミザリーと友人になれるのではないか、と考えていてどうすれば友人になれるだろうか、と内心で頭を悩ませていた。

 そんな二人がミザリーと友人になれるかどうか、というのはまた別の話としておこう。



 時間は少し戻ってアッシュたちがクロエに台所へと案内されてすぐ。

 教会の食事ということもあって非常にシンプルな物であり、本当のところはアッシュたちが手伝う必要性はあまりなかった。

 とはいえクロエとしては好意を無下にすることは出来ず、その好意に甘える形になっていた。

 これは結果としてそうなった、というよりもミザリーがシルヴィアとアルトリウスに話をしたようにクロエから話を聞きたいと考えたアッシュが必要のない手伝いを買って出た、というだけのことだ。


「えっと、食事はパンとスープになります。それで、えっと……四人も必要なかったかもしれませんね……」


「かもしれないな。まぁ、何もやることがないってのはどうにも落ち着かないんだ。手伝わせてくれ」


「は、はぁ……あ、でも何もやることがないのは落ち着かない、というのは私にも覚えがあります。私の場合はそうなった時にはお祈りをしているのですが……」


 クロエは自分は何もやることない、となればお祈りをしている、と口にした。


「お祈りなー。俺たちには無縁なことだな!」


「神に祈るだけ無意味なことの方が遥かに多いからな」


 そんなクロエの言葉にルキは自分とアッシュには縁のないことだと言い切り、アッシュもそれに賛同しながらイシュタリアのことを思い浮かべた。

 非常に縁深いあの女神に祈るくらいなら自分でどうにかする方が圧倒的に早いし、祈るよりも食事抜きとか好物を作るとかそういった方法に出た方がどうにでもなる。とアッシュは考えて小さく苦笑を漏らした。


「私もお祈りは最近しないようになりましたね……その、お祈りをしたところで意味はないと言われてしまったので……」


 そしてシャロは自分も過去はお祈りをしていたが今はしていないと言った。この意味がない、と言ったのはイシュタリアであり、その後には結局お祈りなんてのは自己満足がほとんどで、お祈りをしたからって神に届くことはない。と断言していたりする。

 そういった事情があってシャロはお祈りをしなくなったのだが、そうとは知らないクロエは不満そうな雰囲気を醸し出しながらこう言った。


「む……お祈りに意味がない、というのは聞き捨てなりませんね……良いですか、お祈りというのは」


「ルキ、野菜の皮むきを頼めるか?」


「おう! アッシュに頼まれたらやるしかねぇよな!」


 あれこれとお祈りについて話そうとするクロエの言葉を遮ってアッシュが適当にジャガイモをルキに投げて渡すと、ルキはそれを受け取ってからアッシュの頼みなら、と包丁を手に取ると皮むきを始めた。

 いきなりのことに呆気に取られたクロエだったがすぐに自分の言葉を遮られたことに気づき文句を言おうとし、だがジャガイモの皮むきを非常に手早く済ませるルキに感心しているようだった。


「ルキさんは随分と手慣れているんですね……」


「アッシュの手伝いならな」


「俺の手伝い以外だと基本的にやる気がないよな」


「当然だろ。アッシュの手伝いをして、アッシュの傍にいて、アッシュに褒めてもらうためにやってんだからな!」


「はいはい。まぁ、後で撫でるくらいならするさ」


「約束だからな?」


 手慣れているのはアッシュの手伝いをするからだ、と言ったルキだがその意味としてはアッシュの手伝いだけ。というものだった。

 つまり自分だけで料理をする場合やアッシュの手伝い以外ではやる気がないので今回のように手際よくは出来ない、ということだった。

 そのことを何となく理解してしまったクロエは何と言えば良いのかと頭を悩ませながら少し引き攣った苦笑を漏らしていた。


「ルキさんらしいですけど……ルキさんが料理して主様に食べてもらう、ということも良いのではありませんか?」


「俺の手料理か……あれか、ご飯にする? お風呂にする? それとも俺? って奴をやれってことか」


「誰もそんなこと言ってませんよ。というよりも……それって主様が外から帰ってきた時にやることですよね? ルキさんは主様とずっと一緒に行動しますから出来ないのでは……?」


「あ」


 新婚三択をやれば良いのか、と言ったルキだったがそれをするにはシャロの言うようにアッシュより先にルキが帰宅し、それからアッシュが帰って来るのを待たなければならない。

 だがルキはアッシュから離れたがらないのでそれをしろ。というのは難しい、もしくはルキ的には無理なことだった。


「い、いや! あれだ! 用意だけしておいてアッシュより先に家に入ってからなら! 出来る! はず!!」


「別にそんなことしなくて良いのに何でやろうとしてるんだよ……」


「いや、思いついたから? まぁ、アッシュなら普通に飯って言いそうだけどさ」


「用意してるのを放置ってのは出来ないからな……」


「ですよね……食事の用意が出来ているのに放っておくと冷めてしまいますし……」


 新婚三択をしたところでアッシュならば食事を選びそうだ、と言いながらもルキはいつかやろう! と心に決めていて、残念というか幸いにというかアッシュがそれに気づく前にシャロが口を開き、アッシュの意識はそちらに向いてしまった。

 そんな普段通りといえば普段通りの会話をする三人だったがそれぞれの手は止まることなく、ルキが皮むきを終えた野菜をアッシュが切り、シャロはスープの準備を進めていた。

 それを見てもしかすると自分は必要ないのでは? とクロエは考えていた。


「とりあえずこっちは俺たちで進めておくからクロエはシルヴィアたちに飲み物を持って行ったらどうだ?」


 クロエが何を考えていたのか察したのか。それとも単純にそうすべきだと思っただけなのか。

 何にしろアッシュのその言葉を聞いてクロエはそういえば、と思い出して急いで準備を始める。


「急ぎ過ぎて零したりするなよ?」


「は、はい! えっと、それでは今から持って行きますので、準備の方はよろしくお願いします!」


「おう、こけるなよー」


「お気をつけて、クロエさん」


 バタバタと準備を進めたクロエにそう声をかけた三人に頭を下げてからクロエはシルヴィアたちがいる部屋へと急ぎ足で向かって行った。

 そんなクロエを見送ってからアッシュは小さく息を吐いてこう言った。


「聖女候補って言ってもやっぱりただの人だな」


「それはそうだろ。っていうか俺にとってはアッシュが特殊過ぎてほとんどの奴がただの人って感じだな」


「あはは……確かにルキさんの言う通りですね」


「まぁ……自覚はあるさ」


 呆れたようなルキと苦笑を漏らすシャロにそう返してからアッシュはその特殊と言われる要因のイシュタリアのことを少しだけ思い浮かべて小さく笑った。

まだ村から出ない……もう少しテンポ良くしないと……

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