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49.聖女候補

 ミザリーに先導されて村の中を歩く五人を村人たちは怪訝そうに見つめていた。

 基本的には無関心、もしくは何か仕出かさないかと監視するように見ることはあっても今回のように村の誰かに先導されている。という状況はそう多い物ではないからだ。


 そんな視線に気づいているのはアッシュとルキ、それからアルトリウスの三人だけで女性陣は一切気づいている様子はなかった。

 とはいえ害のあるものではないということで男性陣は気づいていないフリをして大人しくミザリーの後をついて歩く。

 そして少し歩くと教会が見えてきた。王都にあるような物とは違い、こじんまりとしたささやかなものではあるがこうした小さな村の中にある建物としては充分に大きな物だった。


「もうすぐ教会に着きます」


「あれが、教会……?」


「王都や聖都にある物に比べるとどうしても小さくなるな……いや、小さな村の教会だから、って言った方が良いのか?」


「そうですね、こうした村の教会には神父様か、もしくは私のようなシスターが一人か二人。というのが常のようなものですから大きな建物になると管理するのは非常に大変になりますね」


「そっか……そっかぁ……確かに建物の管理って大変だって言うからね……」


 シルヴィアが失礼なことを言う、とは思っていないが何か余計なことを口にしないようにとアッシュは口を挟んだ。

 するとミザリーはこうした村ではこの大きさが適しているのだと説明した。それを聞いてシルヴィアは納得した様子でうんうん、と頷いていた。


「と、いうわけで……ようこそ、教会へ。大したおもてなしは出来ませんが、どうぞごゆっくりしていってください」


 そして気づけば件の教会へと辿り着いていて、くるりと反転したミザリーは歓迎の言葉を口にした。

 ミザリーの言葉を受けて五人が教会へともう一度目を向ける。小さな教会とはいえ村人が複数集まり礼拝を行うことが出来るよう大きさがあり、建物の中はこの場にいる全員が入ったとしても一切問題のない広さになっている。

 そんな教会の扉が開き、ミザリーのような修道服を身に纏った明るい茶色の髪をしていて、何か特徴を挙げるのであれば前髪で両目が隠れた小柄な人物が姿を表した。


「あ、ミザリーさん! もうお昼の時間になるのに何処に行ってたんですか!」


「ごめんなさい、クロエ。少しお客様をご招待してきたところなのです」


「お客様……?」


 クロエと呼ばれたその人物は不思議そうに首を傾げてからアッシュたちを見た。そしてミザリーの口にしたお客様がこの五人であることを察して姿勢を正すと一礼をしてからこう言った。


「初めまして、クロエ・クローネ、と言います。どうぞ、お見知りおきを」


「僕はシルヴィア。それから僕はアルって呼んでるんだけど、本名はアルトリウスだよ。それとアッシュ、ルキとシャロ。よろしくね」


 クロエの自己紹介を聞いてシルヴィアは自分の名前を名乗り、それから順番にそれぞれの名前を口にしながら手で示した。

 アルとシャロはその紹介の際に軽く会釈をし、アッシュとルキは訝しむようにクロエを見ていた。

 しかしすぐにアッシュは何かに気づいたように、呆れたと言いたげに息を吐いた。


「聖女候補か」


 そしてそんな言葉を零した。


「聖女候補?」


 すると聞きなれない単語にシルヴィアがオウム返しにそう訊ねる。

 そしてアルトリウスとシャロは口にしないまでも疑問符を浮かべていて、ルキはあまり興味はなさそうではあったがどういうことなのかとアッシュを見ていた。


「聖女に選ばれる可能性のある聖職者のことだ」


「よくご存じでしたね。アッシュさんの言うようにクロエは聖女候補なのです」


「でも王都にいないってのはおかしな話だな。聖女に選ばれる可能性がある以上は、言い方は悪いが聖都で管理されてるはずなのにな」


「えぇ、本来であればそうですが………少し、問題がありまして……」


 アッシュの言葉を受けて気まずそうにミザリーはそう口にしてからクロエを見た。


「その、聖女候補とは言っても聖都の教会本部でそうであると認定されるまではあくまでも自称、ということでしかないのです」


「へぇ……そうなのか……あれ、ということはもしかすると……」


「聖都に向かうのが丁度良いっていうのは、クロエさんを連れて行って欲しい、ということでしょうか?」


 聖女候補として正式に認められるには教会本部に行かなければならない、という話を聞いてアルトリウスがもしかして、と思い至ったことを口にしようとするとそれを引きついでシャロがそれを口にした。

 するとどういうことなのか、とクロエがミザリーを見ると、ミザリーは苦笑を漏らしながらこう言った。


「えぇ、そういうことです。図々しい、厚かましい、と思われるかもしれませんが聖都までの道のりは遠く、クロエが安全に辿り着くのは難しいと思いまして……」


「だからああやって旅人に行き先を聞いて聖都だった場合は一緒に連れて行ってもらおう、って考えてたわけか。そういうの、金さえ払えば冒険者が護衛してくれるんじゃねぇのか?」


「それはそうなのですが……その、小さな村の教会ということもあって報酬金の用意をすることが出来なくて……」


「えっと……この村から聖都までの護衛と考えると……」


「最低でも五万オース。身の回りの世話まで込みなら十万オースまでなら吊り上げられそうだな。まぁ、冒険者の大半は金が欲しいからやってるようなものだから仕方ないと思うけど」


 護衛の依頼と言うのは距離や護衛対象の数、その内容によって報酬の金額が変わってくる。

 現在いる村から聖都までの護衛であれば少人数であれば五万オース、人数が増えたり護衛の内容として身の回りの世話まで追加するのならば倍近くにまで上がり、場合によっては冒険者側から報酬金額の吊り上げが行われる。

 だからこそミザリーは報酬金の用意が出来ない、ということを口にしていた。


「昼食に招待して一飯の恩でも売ろうとしてたのか……まぁ、詳しい話を聞いてからシルヴィアが判断してくれ」


「僕に丸投げするの!?」


「当然だろ。というか俺なら話を聞く前に断る。聖女候補を聖都まで連れて行く、ってのは言葉としては単純だけど聖都側からするとそうでもない」


「それって、どういうことなの? 普通に聖女候補の人を護衛した、ってことで感謝されるとか、感謝されなくても少しくらいは労ってもらえるとか、そういうのじゃないの?」


 アッシュの言葉が理解出来なかったのかシルヴィアはどういうことなのかと尋ねる。

 シルヴィアにしてみれば聖女候補というのは聖都でも貴重な、もしくは重要な存在のように思えていた。だからこそ感謝されたり労われたり、そういうことがあるのではないのかと考えていた。

 だからこそ断る理由は特にない、とそういった結論を持っての言葉だった。


「そうかもな。でももしそのまま聖女になった場合は旅の最中に友好的な関係を築いていたとして教会関係者から目を付けられる可能性がある。何処の貴族も、教会の幹部も、往々にして野心を抱えてるんだ」


「あー……利用出来るなら利用しようって考える奴が多そうだもんな。確かに断るのが良いと俺も思うけど……まぁ、アッシュが壁女に判断を任せるっていうならそれに従うぞ。面倒事を押し付けるつもりなら断るけど」


「私も主様の判断に従いますよ。でも……人が増えるとそれだけ大変なことも増えますからちゃんとご自身で考えて、それからどうするか決めてくださいね」


 シルヴィアの言葉にアッシュは非常に否定的な言葉を返し、ルキはアッシュの考えに賛同しつつも面倒は御免だ、としていた。またシャロはシャロでアッシュの考えに従いつつ、シルヴィアには自分でしっかりと考えるようにと口にしていた。


「う、うん……確かにアッシュの言う通りかもしれないね……えっと、ミザリー、詳しい話を聞かせてもらえないかな? それを聞いてからどうするか考えて判断するからさ。それと……アルも一緒に考えてもらっても良い、かな……?」


「そうだね……アッシュ、それくらいは大丈夫だよね?」


「まぁ……そうだな、今後の為にも二人で考えるのが良いかもしれないな」


「良かった……よし、ミザリー、話を聞かせてもらえるかな?」


 一人で考えて判断する、というのは難しいというかまだ自分では厳しいかな、と考えたシルヴィアだったが最終的にはアルトリウスと二人で判断するように、ということになった。

 するとシルヴィアは安心したように一つ息を吐いてからミザリーに話を聞こうとした。


「わかりました。とはいえそこまで長い話ではありませんから……クロエ、お昼の準備はどうなっていますか?」


「えっと……掃除に手間取ってしまって今から準備しようかな、と。でも、シルヴィアさんたちもご一緒するということでしたら量が増えるのでいつもより時間がかかると思います」


「そうですか……私は今から皆さんにお話がありますから手伝えませんが、大丈夫ですか?」


「あ、はい……わかりました。一人でも大丈夫ですから、お任せください」


「ありがとうございます。では、皆さんはこちらに……」


 ミザリーが話をするために五人を教会の中へと案内しようとした。するとアッシュが口を開いた。


「あぁ、俺は何となく察しは付いてるから……まぁ、昼食の準備の手伝いでもするさ。一人でやらせても時間がかかるだけだろうしな」


「あ、そういうことでしたら私もお手伝いしますよ」


「アッシュが手伝うっていうなら俺も手伝わないとな! っていうかアッシュから離れてそっちの話聞くとかあり得ねぇからな!」


 アッシュはミザリーが何を話そうとしているのか大体察しがついている、とクロエの手伝いを申し出た。シャロもそれに続き、ルキはルキでアッシュから離れるのは嫌だと手伝うと言った。

 それを聞いてシルヴィアとアルトリウスは本当に自分たちに丸投げするのかとアッシュを見、クロエは突然の申し出に戸惑いながらアッシュを見ていた。

 しかし当のアッシュはミザリーへと目を向けてから口を開いた。


「そういうことだからそっちはそっちで話をしておいてくれ。まぁ、結果はわかってるけど」


「そうですか……わかりました。ではクロエの手伝いをよろしくお願いします」


 そんな言葉を交わしてからミザリーは深々とお辞儀をした。

 その様子に何か違和感を覚えたシルヴィアとアルトリウスだったが頭を上げたミザリーがすぐに二人を案内し始めたのでそれに従うしかなかった。


「ではシルヴィアさん、アルトリウスさん、こちらへどうぞ」


「あ、うん……行こっか、アル」


「はい、わかりました」


 そんな三人を見送ってからクロエが口を開く。


「えっと……それではアッシュさんたちはこちらへ」


 昼食の準備のためにクロエは台所へとアッシュたちを案内しようと歩き始めた。

 それに続きながらシャロがそういえば、とルキに小さな声でこう言った。


「そういえばルキさんって料理は出来るんですか?」


「出来る出来る。アッシュとチビほどじゃないけどそれなりに、だけどな」


「そうだったんですか……あ、そういえば初めて会った日はルキさんが主様のお手伝いをしていましたね……」


「あー、確かにそうだったな。まぁ、手伝えるようになったのは料理中にアッシュの傍に居られるように、ってだけだから一人で作れって言われるとすげぇ手際とか悪いけど」


「それは……うーん、ルキさんらしいですね」


 ひそひそとそんな会話をする二人だったがアッシュには全て聞こえていて、その内容に小さく苦笑を漏らしていた。

まだ中盤に差し掛かっていないので話の進みが悪いなぁ、と。

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