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47.他愛のない言葉の応酬

 あれから五人はざっくりと今後の予定を立てた。

 とりあえず王都を出立し南下、昼頃までに地図上で確認した村を訪れて昼食を含めた休憩。その後更に南下し聖都に向けて突き進み、可能なら更に別の村に到着を目指しながら厳しいようであれば明るいうちに野営の準備を行う。という何かあれば臨機応変に対応しろとでも言いたげな予定だった。

 いや、言いたげというよりもアッシュにしてみれば対応してみせろ、という想いが込められていたりする。

 またそんなスッカスカの予定で本当に大丈夫なのかとルキとシャロがアッシュに目で語り掛けていたがアッシュは問題ない、としていた。


 そんなこんなで王都を出立した五人は街道を真っ直ぐに南下していた。

 当然と言えば当然のことなのだが魔物の類の姿は一切なく、また朝も早いということで人とすれ違うこともなかった。


「そういえば勇者様は顔を隠すとか変装するとか、そういうことはしなくても良いんですか?」


「あー……大丈夫だと思うよ? ほとんど王城から出なかったから僕の顔を知ってる人は王都の人くらいだから……」


「まぁ、今後は旅をしながら第三王女が勇者になった。ってことを国内に広めるんだ。その時に顔だって知られるようになるだろ。いや、それも目的に一つになるんだろうけどさ」


「アッシュの言う通りだよ。シルヴィア様は旅をする中で勇者としての存在を王国領内に知らしめないといけないんだ。今回は聖都で儀式を受ける、っていうことが目的だからまた違うんだけどね」


「つまり、今はほぼ無名だから気にする必要はねぇってことか」


「第三王女で勇者なのに無名って言い方もどうかと思うけど、あながち間違いじゃないな」


 どう考えても有名なはずの存在なのに無名と言えば無名である。という微妙な矛盾したことを口にしながらも間違いではない。と断じたアッシュにルキはだよな! と頷き、シャロは言っていることが何かおかしいような? と首を傾げ、シルヴィアとアルトリウスは苦笑を漏らしていた。


「あはは……あ、そうだ。僕のことを勇者様って呼ぶのはやめてもらっても良いかな?」


 そんなシルヴィアだったがふと思いついたようにシャロに向けてそう言った。

 するとシャロはいきなりのことに首を傾げた。


「え?」


「僕にはシルヴィアって名前があるからね。そっちで呼んで欲しいんだ。ダメ、かな?」


 少しだけ不安そうに言うシルヴィア。それには第三王女や勇者という地位や肩書ではなくただ一人の人間として接して欲しい。という切実な想いが込められていた。

 勿論その想いはシャロに対してだけではなくアッシュとルキに対しても向けられていたのだが、もとより地位にも肩書にも興味を示していない二人のことだから問題ないと考えていた。


「はぁ……私は構いませんけど……えっと……」


 構わない、と言いながらシャロは不安そうにアッシュを見上げた。

 その行動の意図は本当にシルヴィアのことを名前で呼んでも良いのか、とアッシュに問うものであり、それを過不足なく理解したアッシュは微かに頷いて返した。

 するとアッシュは安心したように小さく息を吐いてからシルヴィアの要望通りにその名前を口にした。


「わかりました、では今後はシルヴィアさん、と呼ばせていただきますね。それと……」


 そこで一度言葉を切ってからシャロはアルトリウスを見た。

 アルトリウスは安心したような、何かを期待しているような、そんな何とも言えない雰囲気を醸し出しながらシャロを見ていた。

 きっとこれで良いはず、とシャロは考えながら言葉を続ける。


「えっと……アルトリウスさん、と呼ばせていただいても……?」


「うん! あ、でも出来るならアルって呼んで欲しいかな。アルトリウス、って長くて呼びにくいと思うからね」


「は、はぁ……では、アルさん、と」


「そうしてくれると有難いよ。アッシュと、それからルキも」


「まぁ、確かに呼びにくいからな……わかった、今度からアルって呼ばせてもらうさ」


「優男」


 シャロとアッシュの言葉にうきうきとした様子になっていたアルトリウスだったがそこに水を差すようにルキが優男、と称した。


「え?」


 するとアルトリウスが何を言われたのか理解出来ない、というように声を漏らした。

 だがルキはそんなことはお構いなしに言葉を続ける。


「お前は優男で充分だろ。それからそっちは……壁女だな」


「壁女って何処を見て言ったのかな!? 明らかに視線が僕の顔から下がったよね!?」


「壁は壁だろ。ぱっと見だとチビと同じくらいにしか見えねぇし」


「それは流石に失礼だよ!! 僕は普通にシャロよりは大きいからね!? っていうか子供と比べるとかおかしいよ!!」


「待ってください! 何で私に飛び火したんですか!?」


「チビも壁女もストーンッて感じで壁だから?」


「よーし! 子供とはいえそういう話題を口にするとかちょっと説教が必要だね!!」


「ルキさんにはデリカシーが欠けています!! そういうのは良くないですよ!!」


「チビに優男に壁女。うん、我ながら完璧だな!」


「スルーされた!?」


「話を聞いてくださいよぉ!」


 ルキによってヒートアップしたシャロとシルヴィアだったが、ルキはそれを一切気にした様子を見せずに自画自賛していた。

 そんなルキに噛みつく二人だったがルキは完全にそれを聞き流しているようだった。


「さ、流石に優男とか、壁女っていうのはどうかと思うよ……」


 そうした三人を見てひくひくと頬を引き攣らせながらアルトリウスが零すとアッシュがため息交じりにこう言った。


「はぁ……ルキは人の名前を覚えるのが苦手なんだよ。だからああやって自分がわかるように適当な呼び方をするんだけど……まぁ、付き合いが長くなれば名前を覚えるはずだから名前を呼んでもらおうとしても厳しいだろうな。しかもあれは本人に悪気とか一切ないぞ」


「え……あ、あれでなのかい?」


「あぁ、ルキはああやって何か特徴になるか印象に残ってることを挙げてるだけだからな。まぁ、流石にデリカシーがないってのは同意せざる負えないんだけど……」


 そう言ったアッシュだったがふと少しだけ考えてから再度口を開き、先ほどの言葉を訂正した。


「いや、デリカシーがないって言うよりも興味がないって方が正しいのか?」


「興味がない?」


 アッシュの言葉にアルトリウスは疑問符を浮かべていたがアッシュはそれ以上答えず、ルキを見た。

 ルキはシャロとシルヴィアに色々と言われているようだったが何処吹く風で全て聞き流し流していた。

 もしこれが立ち止まっての会話であればシャロとシルヴィアは何とか話を聞かせる。ということも出来たのかもしれないが、ルキの歩みは一切止まらず、またどうにかルキの前に回ろうとしてもルキは器用に避けてしまうのでそれも叶わなかった。


「むぅー……! 主様! ルキさんに何とか言ってあげてください!!」


「そうだよアッシュ! ルキはさっきから僕らの話を全部スルーしてるんだよ!?」


「はぁ……はいはい。ルキ、とりあえず興味がないからって特定の、それも本人が気にしてそうな部位を呼称に選ぶのは感心しないぞ」


 シャロとシルヴィアに言われてアッシュは仕方がないな、というようにルキに対してそう言った。


「いや、だって……ストーンッ! て感じだったから覚えやすいし……」


「それでもだ。それに事実ってのは時として人を傷つける、何て言うだろ?」


「あー……まぁ、ハロルドがそんなこと言ってたような……?」


「だろ? だから何て呼べば相手が傷つかないのか、考えた方が良いぞ」


「んー……でもなぁ……本当に壁だし……」


「本当に壁だとしてもダメだって言ってるだろ」


「いや、でもほら! 凄い壁だぞ?」


「凄い壁って何だよ」


「だって俺たちの知り合いにあんなまさに壁! って感じなのは少ないっていうかほぼねぇし……これだ! って思ったんだよなぁ」


「はぁ……あのな、例えそうだとしても言葉は選ぶべきだろ。もっとこう……」


「こう、何だよ?」


「……絶壁?」


「さっきから壁壁言うのやめてもらえるかな!? 僕だってちゃんとあるんだからね!? それにアッシュの絶壁って壁よりも酷いよね!? 壁を越えてるよね!?」


 ルキを嗜めるように言っていたアッシュだったが途中からルキと一緒に壁という言葉を口にし、最終的には絶壁という表現をしてしまった。

 そんな会話を聞いていたシルヴィアはもう我慢ならない! と抗議の声を挙げた。


「あるんだよ! 小さくても!! 確かに!! あるんだよ!!!」


「いや、ねぇだろ。チビと同じで」


「だから何で私に飛び火するんですかぁ!!」


「シャロはまだ子供なんだから気にする必要はないだろ」


「それはそうですけど……でも! 言葉にされると気になってしまうんです!!」


 飛び火したシャロも同じく抗議の声を挙げるとアッシュはシャロはまだ気にする必要はない、と言った。

 そのことを理解していたもシャロはやはり気になるものは気になるようで拗ねたように言って不満そうにアッシュとルキを見ていた。


「チビでも気にするんだな、そういうの」


「気にしますよ!」


「んー……まぁ、それなら控えるべき、ってことか」


「みたいだな」


 そんなシャロの様子を見てアッシュとルキはそういうことなら控えようか。という意見が合致していた。二人にとっては既に身内として認識しているシャロが相手だからこその考えだったのだが、それを知らないシルヴィアにとってはそんな二人の態度というか、考えが納得いかなかった。


「ふーん……二人とも、シャロには随分と優しいんだねー」


 だからこそ、そんな言葉を非常に不満があります、という声色で口にしてしまった。


「当然だろ。身内には優しくなるのが人間だ」


「アッシュが身内だって言うなら一欠片くらいは優しくするしかねぇからな」


「そうやって優しくなる、と言うのならもっとわかりやすく優しくしてください! 例えばルキさんはもっと主様とのスキンシップの機会を私に譲るとか!」


「これ以上は無理! っていうか普通に考えて今でも充分譲ってるだろ?」


「ルキさんの十分の一くらいを充分だって言うのはどうかと思います!」


 シルヴィアのチクリと刺さるような嫌味を二人はさらりと流し、ルキはそのままシャロといつものような言い合いを始め、アッシュはそんな二人に困ったもんだな、というような目を向けていた。

 そしてすぐにシルヴィアとアルトリウスに視線を向けてからこう言った。


「俺たちはこれが常だと思ってくれ。まぁ、たぶん聖都までは退屈しないだろうさ」


「むぅー……確かに退屈はしないだろうけど……色々と言いたいことがあるんだよね!」


「あはは……ちょっと圧倒されたのと、話題が話題だから何も言えなかったけど……うん、その、退屈はしないけどちょっと胃が痛くなるかなぁ……」


「退屈な旅をするよりは遥かにマシだろ?」


 そう言って楽しげに笑うアッシュをシルヴィアはジト目で見据え、アルトリウスは苦笑を零していた。

 そんな状況の中でアッシュは今回の依頼は思っていたよりは悪くないのかもしれない、と考えていた。

これで少しは仲良くなーれ!

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