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46.ご褒美は

「よし、何にしても俺たちは聖都に向けて出立しないといけないから無駄話はこれくらいにしておくか」


「だな。片道で良いんだろ?」


「あぁ、聖都までの護衛であって聖都からの護衛の依頼は受けてないな」


「ということは……聖都に辿り着くまでの間に色々と覚えてもらう、ということですね!」


 三人の会話を聞いていたシルヴィアとアルトリウスはそこで首を傾げた。

 色々と覚えてもらう、というのはどういう意味なのだろうか、と。


「主様は聖都までの旅路の間に勇者様に旅をするのに必要なことを幾つか覚えてもらおうと考えているんです」


「え?」


「それはどういうことなのかな?」


 シャロの言葉を聞いてシルヴィアとアルトリウスは不思議そうにアッシュを見て、どういうことなのかと聞いた。

 するとアッシュは面倒臭そうに言葉を返した。


「依頼としてはそうするように、ってのはなかった。けど聖都まで向かう最中に色々と覚えてもらわないと一から十まで全部俺たちが面倒見ることになるだろ。流石にそれはなしだ。出来ることは自分でやるようにしないとな」


「あぁ……なるほど、確かにそうだね。僕は騎士として行軍の経験があるから多少は心得があるけど、シルヴィア様は知識は持っていても実際にやったことはないんだ。だから聖都までの間に色々と出来るようになった方が良いだろうね」


「そっか……そっかぁ……うん、わかったよ! 僕も頑張って覚えるから、えっと……アッシュが教えてくれる、ってことで良いのかな?」


 アッシュの言葉を聞いたアルトリウスとシルヴィアは納得したようにそう言って二人でアッシュを見た。

 そんな二人にアッシュは軽く肩を竦めながらこう返した。


「俺だけじゃない。ルキだって旅には慣れてるしシャロだって心得は充分にある。まぁ、二人から存分に学んでくれ」


「そっか、三人から、だね……」


「シルヴィア様、自分もお教え出来ることがあると思いますから……何かあれば自分にも聞いてください」


「うん、わかったよ。その時はよろしくね。アッシュとルキと、それからシャロも!」


 子供二人に教えてもらえ、と言うことをアッシュが少しだけ遠回しに口にした。それに関して少しだけカチンと来た。ということなど微塵もなく、寧ろすごく有難い! と考えているシルヴィアは笑顔でそう言った。どうやらシルヴィアの中ではアッシュも含めて三人から、ということになっているようだった。

 それに対してアッシュはそういう反応をするのか、と僅かに感心していた。またそんなシルヴィアを見てアルトリウスが安心したように小さく息を吐いていた。


「まぁ、仕方ねぇから少しくらいは教えるけど……本来はない仕事が追加されて俺としては面倒でしかないんだよな」


「あー……あはは……た、確かにそうだよね……」


 だがルキははっきりとシルヴィアに教えるのは面倒でしかない、と言い切った。

 シルヴィアはそれを聞いて申し訳なさそうにそう口にしたが、ルキはそんなことは関係ないとばかりに声を挙げた。


「ってことで! 報酬ってわけじゃないけど何かないとやってられねぇよな!」


「あぁ、そういうことか。無理難題はお断りだぞ」


「そんなこと言うわけねぇだろ? ただ……やることやったらご褒美ってことでちゃんと褒めて欲しいなぁ、って」


 普段のルキを知っているアッシュとシャロは随分と大人しいお願いに少し戸惑い、それでもそれくらいなら、とアッシュは了承の言葉を返した。


「それくらいなら別にそんな言い方をしなくてもやるんだけど……まぁ、ルキがそれで良いならわかった」


「言ったな? 絶対だぞ! 絶対だからな!!」


「そんな念押ししなくても大丈夫だって……でも、そうなるとシャロも同じようにしないといけないな」


「それはつまり私が勇者様や騎士様に色々と教えることが出来れば褒めていただける、ということですね!?」


 シャロも同じように、ということはつまりそういうことだ。

 そのことに食いついたシャロにアッシュは苦笑を漏らしながらこう答えた。


「そういうことだ。ルキもそれくらい良いだろ?」


「仕方ねぇなぁ……けどアッシュ、俺の方を念入りに、だからな!」


「はいはい。わかったわかった」


「よっしゃ! それじゃ早速一つこいつらに教えてやるか!」


 シャロを褒めるのは良いけど自分の方を念入りに、といういつも通りのルキに少しばかり呆れながらアッシュが返せば、ルキは嬉しそうに小さくガッツポーズをした後でシルヴィアとアルトリウスを見ながら言葉を続けた。


「出発する前にどの時間帯までに何処まで進んで、何処で何度休憩を挟むのかってのを事前に決めておいた方が良いぞ。まぁ、予定よりも早く着いたり遅れたり、思っていた以上に疲れて早めに休憩したり、そういうのは仕方ないのにしてもある程度の予定がある方が動きやすいからな」


 シルヴィアとアルトリウスは自分たちよりも小さな子供が思っていたよりも真面目なことを言っていることに少しばかり驚きながら確かにある程度の予定は立てておいた方が良いか、と納得していた。

 それと同時に自分たちはそういった予定は特に立てていないことを恥じた。


「なるほど……確かに君に言う通りだね……」


「とりあえず早く着けるように、ってくらいしか考えてなかったなぁ……えっと、今から予定を立てる。ってことでも良いのかな……?」


 だからこそルキの言葉に素直に感心するアルトリウスと、気まずそうに予定を立てようかと考えるシルヴィア。

 そんな二人の様子に満足したようによし、とルキは一つ頷いてからアッシュを見上げてからこう言った。


「こういうので良いんだよな?」


「そうだな……まぁ、二人にとって意味のある話が出来てたみたいだし……うん、良くやったじゃないか、ルキ」


「基本的なことだけどちゃんと出来てるか出来てないかでだいぶ違うから教えておいて損はねーよな。ってことで……しっかりと褒めてくれよな!」


 そう言ってからルキはアッシュとの距離を一歩詰めてから、それじゃ撫でてくれ! と撫でやすいようにと頭を差し出した。

 そんなルキに仕方がないな、と言いたげに小さく苦笑を漏らしてからアッシュはその頭に手を乗せた。そして少し強めに頭を撫でながらこう言った。


「ルキの言うように基本的なことだけど、だからこそ重要なことだな。それをちゃんと理解して教えられるのは流石ルキだな」


「当然だろ! 昔アッシュに言われたしな!!」


 アッシュに褒められ、撫でられたことによってルキの尻尾は左右に揺れ、非常にご満悦の様子だった。

 それを見ていたシャロは自分も何かシルヴィアとアルトリウスに教えることが出来れば同じように褒めてもらえる! と考え、何かないかと思案していた。とはいえすぐに出てくるはずもなかった。

 そのことを不満に思い、むぅー、と少しばかり頬を膨らませて羨ましそうにルキを見ていた。

 ルキはそうして自分を見るシャロの姿に気づき、自慢げにアッシュに撫でられたまま胸を張ってこう言った。


「羨ましいならチビも頑張るんだな。まぁ、俺の方が色々知ってるはずだから頑張らないと俺が全部かっさらうけどな!」


「そ、それはずるいです! 私だって主様に褒めてもらいたいですし、なでなでしてもらいたいのに!!」 


「残念だったなぁ! アッシュのなでなでは俺だけのものなんだよ!!」


「だーめーでーすー! 主様のなでなでを独占だなんて許されることじゃありませんからね!」


「チビが許さなくても俺が許してるから問題ねぇよな!」


「むぅー!!」


 ルキが好き勝手に言い、何とか言い返そうとするシャロだったが上手く言い返すことが出来なくて頬を膨らませてしまった。

 そんなシャロを見てルキは勝った! と得意げになっていて、そんな二人を見てアッシュは微笑ましいと思えば良いのか、何をやっているのだか、と苦笑を漏らすべきなのかと少しだけ考えた。

 そしてすぐにそんなことよりもこの場をどうにかしなければならない、と思考を切り替える。

 切り替えて考えた結果面倒になりこういう場合は適当に色々と有耶無耶にしてしまうのも手か、と投げやりな答えに行きついたアッシュはルキを撫でるのをやめて、ちょいちょい、とシャロを軽く手招きした。

 するとシャロは未だにルキに対して頬を膨らませたまま、それでもアッシュに呼ばれたからとアッシュにとてとてと近寄った。


「あんまり頬を膨らませてばかりいると潰したくなるのが人ってものだと思わないか?」


 言いながらアッシュは手を広げて親指と人差し指でシャロの頬を挟むと、その膨らんだ頬を軽く摘まむ。するとぷひゅぅ、と何とも気の抜ける音と共にシャロの口から空気が漏れた。


「ほら、こんな風にな」


 言ってからアッシュはシャロの頬から手を放して軽く頭をぽんぽん、と撫でた。


「な、あ、あ、主様ぁ!! そういうのはダメです!! 嬉しいような恥ずかしいような照れ臭いような嬉しいような! とにかくごちゃごちゃになるからダメです!!」


「嬉しい方が多いみたいだし問題ないだろ?」


「そーれーでーもーでーすー!!」


 赤くなりながらそれを誤魔化すようにアッシュの胸をぽかぽかと両手で叩きながら抗議するシャロだったがその姿は非常に微笑ましく、また可愛らしいものだった。

 とはいえアッシュはそう思っていることを悟られるのもアレなので苦笑を漏らすことで誤魔化した。

 だがアッシュたちのやり取りを見ていたシルヴィアとアルトリウスはほっこりとしていてつい、といったように頬を緩ませていた。

 もしシャロがそれに気づいたのなら更に赤くなって抗議の言葉を口にしていただろう。


 そんなアッシュとシャロを見て面白くないと思う人物が一人。言うまでもなくルキだ。

 二人で楽しそうにしている姿を見てルキは面白くない、と思った。

 思ったからには即行動、ということでルキはアッシュの抱き着くと不満げにアッシュを見上げた。


「アッシュ、俺を褒めてる途中でそれはダメだと思うぞー」


「ルキさんは充分に褒めてもらっていたと思いますよ! それなのに更に、というのは我儘だと思います!」


 ルキがアッシュに抱き着いたことでぽかぽかと叩けなくなったシャロは、何となく途中でアッシュを取られたような気がして対抗するようにアッシュに抱き着いた。

 小さな子供が自分の物を抱き締めて離さなくなるような、そういった行動だと思えばわかりやすいはずだ。


「普通は俺が満足するまでだろ! ご褒美なんだからな!!」


「ルキさんはそう簡単には満足しないって私でもわかっているのでそれはダメです! ルキさんは主様が関わると際限がありませんからね!!」


「ガルル……!!」


「むぅー……!!」


 そしてすぐにお互いに言い合いに発展するが手を出すことはなく、唸り合うだけ、というのはいつものことだった。

 そんないつも通りの二人の姿を微笑ましく思いながらアッシュは二人の頭に手を乗せて、二人を軽く引き剥がしながらこう言った。


「とりあえず二人は落ち着け。それでこれからの予定を決めてから出発しよう。それで良いよな?」


「……アッシュが言うなら、仕方ねぇからそれで良いぞ」


「主様が言うのでしたら、わかりました」


「え、あ、うん……僕もそれで良いよ……?」


「うーん……それで良いんだけど……あー、いや、言うだけ意味がないのかな……」


 アッシュの言葉に全員が了承の意を示したがシルヴィアとアルトリウスは未だにアッシュから離れないルキとシャロに戸惑い、そんな二人に抱き着かれているのに一切気にしていないアッシュに更に戸惑っていた。

 だがアルトリウスは苦笑混じりにそう言って、シルヴィアもアルトリウスの言うようにきっと意味がないんだろうな、と無理やり自分を納得させ、同じように苦笑を漏らした。

ルキとシャロにぐいぐい迫られてるけど、まだ足りないよなぁ!

人数も少ないよなぁ! 増やさねば。

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