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22.日常となった朝

新章開始。

 アッシュにとってもルキにとってもシャロにとっても、そしてイシュタリアにとっても色々なことがあったあの日から数日が経過していた。

 初日はぐっすりと眠って寝坊をしたシャロも今ではある程度何が何処にあるのか理解し、掃除や料理などをアッシュに任されるようになっていた。

 そんなシャロは毎日が充実しているように非常に楽しそうに生活をしていて、今は朝食を完成させてまだ眠っているアッシュを起こすために階段を軽快な足取りで上り、その部屋の前にやってきていた。


「主様! 朝御飯が出来ましたよ!」


 アッシュはシャロに対して朝に起きて来なかったら起こしに来て欲しい。部屋の鍵は開けておくから普通に入ってくれて大丈夫だ。と伝えてあるのでシャロはその言葉に従って扉を開けて部屋の中へと入りながらそう言った。

 だがそれに返ってくる声はなく、シャロが部屋の中をぐるっと見渡すとベッドに膨らみがあるだけだった。


「んー……主様とルキさんはお寝坊さんですね……お二人ともー、朝ですよー?」


 言いながらシャロが布団の上からアッシュかルキのどちらかはわからないが軽く揺さぶるが起きる気配はなかった。

 それはここ数日で半分ほどがそうだったのでまたかぁ、と思いながらシャロは揺さぶる力を強くした。


「お二人ともー! おーきーてーくーだーさーいー!」


 ついでに大きな声を出してみる。するともぞもぞとベッドの中で動く気配がして、それからすぐにぴょこんっとルキの耳が出てきた。

 そしてそのままごそごそと顔だけを出してシャロを見ると、寝惚けたような声でこう言った。


「んー……あとぉ……まんぞく、するまで……」


「ルキさんのそれは満足しないからダメです! ちゃんと起きてくださいっ!」


「うぅー……あっしゅぅー……ちびがいじめりゅ……」


 言葉を続けながらも夢の世界へと旅立ったルキの呂律は最終的には回っていなかった。

 とはいえ今度はルキに寝惚けながら声をかけられたアッシュが目を覚ますことになった。そうだ、目を覚ました。


「……おはよう、シャロ。良い朝だな。いや、違う。悪い朝だ(・・・・)


「おはようございます、主様。ところで……悪い朝、ですか?」


「あぁ、ルキが寝惚けて抱き着いて来るから俺じゃなかったら今頃内臓が潰れるか口から出てる。あと、首筋が痛い」


 どうやらアッシュの口にした悪い朝というのは自分にとってのことだったらしい。

 確かにルキはしっかりとアッシュに抱き着いている。また首筋が痛いということだったがシャロがもしかして、と思いながら目を向けるとそこには歯形が残っていた。


「あー……えっと、またルキさんが寝惚けて噛みついてたみたいですね……」


 苦笑を漏らしながらそう口にしたシャロはアッシュの首筋が赤くなり、それが歯形によるものだと悟っていた。これはここ数日、毎朝見かけるものであり、既にシャロにとってはそれが当たり前のこととなっていた。

 だがアッシュは違った。あの日からルキと一緒に寝ることとなったが毎日こうして歯形が残されている。それを当たり前のことだと考えることは出来なかった。


「はぁ……いや、まぁ、良いか。食い破られてないだけ御の字だ……」


 ため息混じりにそう言ってからアッシュはルキの腕を解いてベッドを抜け出した。

 非常に手慣れたそれはルキの目を覚まさせることもなく、元々ルキによる抱き着きと言う名の拘束などなかったかのようにすら思えた。


「流石に毎日になると手慣れますよね」


「あぁ、毎日だからな。というわけでルキは置いておくとして。今日の出来栄えはどうだろうな?」


「今日は昨日よりも自信がありますよ! 自分で味見をして、つい美味しい! って言っちゃうくらいですからね!」


 アッシュの言葉に対してシャロは嬉しそうに、それでいて自慢げにそう返した。

 それを聞いたアッシュはその微笑ましさに頬を緩ませながらシャロへと先に下に降りるようにと促した。


「着替えてから降りる。先に降りて、準備をしておいてくれるか?」


「はい、わかりました。ルキさんの朝御飯は……後で温めてお出しする。で良いですよね?」


「あぁ、それで頼む。まぁ……食事を始めれば匂いに釣られて降りてくると思うけどな」


 ルキの嗅覚は非常に鋭く、また食欲も旺盛なので誰かが食事をしていればアッシュが口にしたように起きて降りてくるはずだ。

 そのことはシャロにもわかっているので小さく笑みを零してから部屋を出てから階下へと降りていった。

 それを確認してからアッシュは着替えを済ませてからベッドへと目を向けた。


「はぁ……これは完全に寝に入ったるよなぁ……」


 そう言いながらアッシュはベッドへと近寄り、軽く布団を捲ってそこに眠るルキを見た。

 非常に幸せそうな表情を浮かべてアッシュの使っていた枕と、ルキのお気に入りのブランケットを抱き締めている姿は何処か子犬を連想させるものだった。


「……こうしてると、昔と変わらないって思えるもんだな……」


 そう零してからアッシュは一度ルキの頭を撫でるとそっと布団をかけ直してから部屋を後にした。



 あれから少し時間は経過し、アッシュとシャロは朝食を食べ終えて食後のお茶を楽しんでいた。

 買い置きのパンとベーコンや卵を焼いた物、スープといった非常に簡単な物だった朝食には充分なそれらを二人で食べながら穏やかな朝の時間を満喫している。


「腕を上げた、っていうよりも慣れてきたってところか?」


「はい、つまりはこれが私の本当の料理の腕です! 最初は慣れないキッチンで大変でしたけど、慣れればこれくらいは出来ますからね!」


 ない胸を張りながらシャロがそう口にするとアッシュは小さく苦笑を漏らしながらシャロが初めてこの家のキッチンを使った時のことを思い出していた。

 アッシュが前世の知識を使って改造されたキッチンはこの世界の物よりも遥かに使いやすく、その代わりとして初見であれば非常に困惑する物となっていた。


「そうか……そうか。それは良かった。それなら安心して食事の準備を頼めるな」


「えへへ……はい、お任せください!」


 食事の準備を頼める。ということをアッシュが口にするとシャロは非常に嬉しそうに言葉を返した。

 こうしてシャロが嬉しそうにしているのはアッシュに、というよりも人に頼られているからだ。シャロは誰かの役に立ちたいと思っていることもあって、こうした些細なことでもシャロにとっては大きな意味のあることだった。


 そんなシャロの様子にアッシュは多少なりと考えることがあった。

 人と言うのは多少なりと人に頼られたいと思うことがあるのはわかっている。だがそれにしてもシャロのそれはこの年齢の子供が抱く思いにしては異常なほどに強かった。

 とはいえアッシュがそれを口にする理由は今のところなかった。ただイシュタリアによってお世話役になった少女と、主となった自分。たったそれだけなのだから。


 アッシュがそうしたことを考え、シャロが嬉しそうにしながら食事を続けていると二階から扉の開く音がした。

 それに気づいたアッシュとシャロは顔を見合わせる。


「起きたみたいだな」


「そうですね……では、少し失礼してルキさんの朝御飯の準備をしますね」


「あぁ、頼んだ。ルキは……」


「お肉類が少し多めに、ですよね?」


「よくご存じで」


 そう言いながらアッシュは軽く肩を竦めてみせた。シャロはそんなアッシュに小さく、それでいて何処か得意げな笑みを零してから席を立った。

 アッシュはそんなシャロの背を見送ってから一人でルキが来ることとシャロが戻って来ること。その二つを待つことにした。


 そして少し経つとルキが足取り軽やかに部屋へと入ってきた。


「おはよう、アッシュ!」


「おはよう、ルキ。今日も寝坊だな」


「いやぁ……アッシュと寝るようになってからそれはもうぐっすり寝ることになったからなぁ……」


「それだけじゃないような気もするんだけど……」


 元気よく挨拶をするルキにアッシュが軽くからかいの色が見える言葉を返した。するとルキは嬉しそうにそんなことを言って快活に笑って見せる。


「それよりも……朝飯だ!!」


 シャロの作っている朝食の匂いによってルキのお腹がくぅと小さく鳴った。


「相変わらず可愛らしい腹の音だな」


「むー……別に良いだろー……あ、でもアッシュが可愛らしいって言ってくれるってのはむしろメリットかも……!」


「……逞しくなったよなぁ……」


 少しばかりはにかみながらそう言ったルキに対してアッシュは困ったような表情を浮かべて返してから小さくため息を零した。

 ルキは当然のようにそれに気づいているが指摘することはない。そうした表情を浮かべるアッシュも、ため息を零しながらも何だかんだと受け入れてくれるアッシュも、ルキは大好きだったからだ。

 大好きなそれを邪魔するようなことをしたくはない。いや、邪魔したとしたら別の表情が見られるかもしれない。という考えに至ったルキは指摘すべきか頭を悩ませた。

 だがそれを遮るようにシャロが朝食を手にして戻って来た。


「おはようございます、ルキさん」


「おー、おはよう、チビ」


「もう、チビじゃないですってば! あ、それよりも……随分と可愛らしい音が聞こえましたね!」


 普段からチビだと言われることに不満を持っていたシャロはここぞとばかりにルキの腹の音について口にした。ただしそれが何の音だったのか、ということは口にしなかった。

 勿論何の音なのかはわかっていて、敢えて口にしなかったのだ。それを理解しているルキはガルルと唸って口を開いた。


「う、うっせぇんだよチビ!! そんなことよりもさっさと飯にしようぜ!!」


「飯にしようぜ、って言っても残ってるのはルキだけだぞ。本当なら食事の途中で降りてくるかと思ったんだけどな」


「う、ぐ……だ、だって、本当にぐっすり眠ってたから……! そ、そーれーよーりーもー!! 良いから飯!! 腹が減ってるんだよ!!」


 シャロに対しての言葉に何故かアッシュが答えたことでルキは即座に分が悪いと判断して無理やりにこの話題を終わらせようとした。

 それを受けてシャロは勝ち誇ったように笑みを浮かべ、アッシュは呆れたようにため息を零した。

シャロが活躍するはず……はず……!

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