ある微笑 9
僕は『ニューシネマパラダイス』という昔の映画を見た。今のCGアニメに比べたら、かなり画質が落ちるし、意味のわからない台詞もあって、僕は疲れた。でも、フラニーのことを知るには昔の映像を見るしかない。CGアニメではダメだ。生の人間と自然が映し出されていないとダメなんだ。
物語はシチリアという島から始まる。冒頭、太陽の陽を浴びた海が映る。老婆が古風な電話機を使う。イタリアという国のローマに住む映画監督の息子トトに電話をかけたが、見知らぬ女性が出る。そして、母は昔お世話になった映画技師が亡くなったことを伝え、女性に言づてを頼む。息子はその話を聞いて回想を始めた。
歴史の教科書で聞いた第二次世界大戦。終戦間近のシチリア。父を亡くした少年トトは島の映画館に入り浸った。そして、映画技師と仲良くなった。二人が友情を深めたある日のこと事件が起きる。
昔の映画フィルムは燃えやすかった。映画技師が少し目を離した隙に映画館は火の海になる。トトが映画技師を助ける。
映画技師は火事の後遺症で視力を失った。トトはいつの間にか青年になった。
トトに好きな人ができた。島の外から来た美しい少女に一目ぼれをしたのだ。
少女に恋焦がれるトトに映画技師がある寓話を教えた。王女と兵士の物語を。
昔、昔、とある国で王様がパーティーを開いた。国中から美しい女がたくさん集まった。
警備に立った兵士は王女様が通るのを目にした。どの美女よりも美しく兵士は一目で恋に落ちてしまったが、貧しいただの兵士と国王の娘ではどうしようもなかった。
それでも思いは募り、ついにある日、王女様に語りかけた。
”王女様 あなたなしでは生きていけません”
王女様は兵士の深い思いに驚き、心を動かされた。
そして、こう答えた。
もしもあなたが100日の間、昼も夜も私の部屋のバルコニーの下でずっと待っていてくれたらあなたのものになります。
兵士はすぐにバルコニーの下に飛んでいった。
1日、2日、10日が経ち、20日がたった。毎晩必ず王女様は窓から確かめた。
だが兵士はじっと動かずに待っている。
雨が振っても 風が吹いても、雪が降っても動かない。
鳥が頭に糞を落としても 蜂が刺しても、
決してそこから動こうとしなかった。
こうして 90日が過ぎた。
兵士は痩せこけて真っ白になっていた。目からは涙が滴り落ちていた。もう涙を抑える力は残っていない。眠る気力すらなかった。
王女様はそんな彼の様子をずっと見守っていた。
そして、99日の夜のこと。兵士は立ち上がった。そして、椅子を持つと、その場から去った。
どうして兵士は立ち去ったのか。映画の中で答えを教えてくれない。でも、僕はこの寓話がとても印象が残った。
トトは少女と離れ離れになり、映画監督になることを夢見てイタリア本土に渡ることになる。親友だった映画技師はトトに言った。
“もうお前と話したくない。お前の噂を聞きたい”
ここで回想は終わり現代に戻る。トトはイタリア本土で有名な映画監督なった。そして、映画技師の葬儀に参列するため故郷に戻った。
葬儀に参列したとき、映画技師の家族から思い出の品を預かる。昔の映画フィルムだ。トトはイタリア本土でフィルムを見た。映画技師との思い出が詰まっていた。トトは嬉しそうに泣いた。
映画を観終えて、少し僕の胸が熱くなった。一時、僕は余韻に浸った。
※
パラデス居住区にあるベンチにフラニーと一緒に座っている。最近、フラニーが会話の最中に笑うようになった。それは僕に心を開き始めているサインかもしれない。
「最近、古い映画を観たよ」
「どんな映画?」
「『ニューシネマパラダイス』」
「知ってる。フロンティアにいた頃、DVDで見たわ」
「DVDって?」
「昔に使われてた映像記憶媒体のことよ。手のひらサイズで丸くてキラキラ光るの」
「そんなのものを使って映画を観るんだ。フロンティアは変わっているね」
「そうかもね」
フラニーが笑った。
「いい映画だったよ」
「そうね。私も好き」
「特に王女と兵士の寓話が印象に残った」
「あのバルコニーで100日待つって話?」
「そう」
「ユウって意外とロマンチストなんだね」
「アンドロイドだとでも思っていたの」
「半分思ってた」
フラニーがまた笑った。
「ひどいなあ、まったく」
「私たちがその王女と兵士を演じることになったら、どう配役されるかな」
「当然、僕が兵士だよ」
「でも、現実の立場的に貧しい生まれは私の方よ。それにユウはかわいい顔をしているから王女様の方がいいんじゃあない?」
「かわいくないよ」
「その否定する仕草がかわいいのよ」
フラニーが小悪魔的な笑みを浮かべた。




