ある微笑 10
裸体のドロレスが後ろから抱き着いてきた。背中に胸が当たる。プレイロイドの体は暖かい。鉄の冷たさを好む人もいるようだが、大半は人に近い温もりを求める。その要望に応え体温を人肌で維持している。見た目も人間と大差ない。でも、僕はアンドロイドの体が好きじゃあない。本当の温もりが好きだからだ。
『あのフロンティアの娘が気になるの?』
「うん」
ドロレスはさらに強く抱きしめて、僕のうなじにキスをした。ピクンと体が正直に反応する。
『近くにかわいいアンドロイドがいるのよ。集中して』
ドロレスは首筋にキスをした。
「ごめん」
僕は説得力のない謝罪を行った。
『ユウは私のこと興味ないでしょ』
ドロレスは首筋へのキスを挟みながら言った。
「そんなことないよ」
『うそつき』
ドロレスが首筋を強く吸い上げる。たぶんキスマークが残る。
『もしユウが希望するなら、フラニーの容姿に似せることもできるわ。私、アンドロイドだもの』
甘い誘惑。
「遠慮しておくよ」
『怖いの?』
「ちょっとだけ」
『正直なユウが好きだわ』
ドロレスが耳元で囁く。声に温もりはなかった。でも、僕の体は正直に反応した。プレイしたい。それに気づいたドロレスが言葉を続けた。
『ねえ、プレイするでしょう?』
僕はうなずく。
『男なんだから、口ではっきり言いなさいよ』
「プレイしたい」
『よくできました』
ドロレスは僕の耳を舐めながらキャンディーを握った。
☆
プレイを終えた後、僕はドロレスとベッドで寄り添いながら、話をした。
『アンドロイドの私が人権を得るのは大変だったのよ』
アンドロイドはロボット三原則(人間への安全性、命令の服従、正当な自己防衛)を10年間守るとアンドロイド住民の申請ができる。人間のように労働から解放はされないが、行動と発言の自由を得る。大昔の奴隷が敬虔に働き金を貯め、市民権を買うのに似ている。
「申請が厳しかったのかい」
『いいえ。人間たちの偏見が厳しったのよ』
「どんな風に?」
『アンドロイド住民の権利を得てから、男たちに色々進言すると、機械のくせに生意気だ、と言われたり、シティ内で男と普通に会話をしていたら、女たちに、人形のくせに媚びをうっている、と陰口を叩かれたり、酔っぱらった暴漢たちに乱暴されて半壊したり、とか散々な目に遭ったわ』
「ひどい話だ」
『今はアンドロイド住民も増えて、発言の市民権を得たから、だいぶ良くなったけどね』
ドロレスは真剣な表情になった。
『私の経験から言わせてもらうと、フロンティアの娘、私と同じ運命をたどるかもしれないわ』
「そんな、彼女は人間だよ」
『偏見は人間の理性を消し去るものよ』
ドロレスは断言した。
ドロレスが活動を停止した。彼女の言葉が頭から離れない。
言葉はフックになり、いつも僕の心のどこかに引っかかり、ちくりと痛みを誘発する。するとフラニーのことを考えてしまう。彼女にとってパラデスは生きづらい環境なのかもしれない。悩みを抱えているかもしれない。僕はフラニーの年齢と大差ない容姿をしているドロレスを抱きながら、物思いにふけった。いつもの通り答えは出なかった。




