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Filling Children  作者: 笹座 昴
エピローグ
54/56

エピローグb:新しい家族の形



 何度も吹き出しそうになりながら、目の前に展開していた自分の『評価表』を眺める。

「準備いい?」

「いいよ」

せーのでお互いのものを交換して、そして――

「あははは!」

響きわたるのは、互いの笑い声だ。


「何これ! 自分のと全然違う! お前酷いな!」

「酷いって言うな!」

目の前のやつは、あっははと私の評価表を見て笑っている。

「あのさ、酷いって人のこと言える!? ここの評価見なよ! あんたFだよ!」

F? とそいつは首を傾けてから、どれどれと私が指している部分をのぞき込んだ。

「なになに……『親への適性度』……?」

「親への適性度がF! あんたが将来親になれば、筋金入りのゴミ親になる素質がある」

「えっ!? 嘘!?」

そいつはひったくるように自分の成績表を手元にたぐり寄せて、一心不乱に中を読んでいる。

「えっと、詳細は――あなたは感受性や他人への興味が人より低く、子育てに向いた性格ではありません。従って、子どもを自らの手で育てることを希望する場合は、以下の表2に記載する教育をすべて受講する必要があります。また、パートナーには本評定においてB以上の評価を持つ相手を推奨しており、それ以外のパートナーを選択された場合には、1ヶ月ごとの保護官の監査および――」

目の前のやつは声に出してそこまで読んでから、堪えきれなくなったのか笑い始めた。

「だめだ。人の命が掛かっているとは言え、ここまで読んで、もうめんどくせと思った私は、紛れもなく向いてない」

笑いすぎて流れた涙を拭いたそついの目が、ふと私の成績表に移った。

「はぁ!? お前もここEじゃん! 人のこと言えるのかよ!」

静かに紅茶を飲んでいた私は、カップを横に置いた。

「そうですね。Eが一番下だと思っていたけど、まだ下があるんだとそれを見て思いました」

「えっ? もしかしてこれもっと下もあるの? この詳細項に、どうこき下ろされているのか逆に興味あるんだけど」

わかるよと頷いてから、周囲を見渡す。こいつだから、私は何の隠す必要性も感じずに自分の評価表を見せているけど、これは遺伝子情報やメンタル検査から求められた秘情報扱いの個人情報だ。他の人の評価を見ることはできないし、こんな複雑な分析を私たち人が行うことはできない。


「あのさ。今だったらこれ見て、自分は向いてないんだって分かるからいいんだけどさ、昔はわかんなかっただろうし、パートナーの見せてって言えなかったんだよね」

「そういえばそうだな。23世紀……22世紀? いつまでだったか忘れたけど、ヒューマノイドがいなかった昔は、子どもを生んだら絶対にその人が育ててた――」

そこまで言われて、しみじみと思う。

「うわあ、悲惨」

「ロシアンルーレットかよ」

目の前のやつを見て、こんなやつが母になることを想像すると心の底から可哀想だなと思う。私の顔を見て、熱心にうなづいているそいつを見て、こいつも今私に対して同じことを考えているのがわかった。



「よーし、次行こ。次」

「そうだね」

軽くそう言って、次の項目に移る。

「あなたに向いている職業は……『教師、宗教家、コーディネータです』って、お前洗脳でもするつもりかよ!」

再び目の前のやつに、あはははと笑われる。さすがに気分が悪くなってむすっとした顔になった。

「って、このコーディネータって何?」

「なんか、ヒューマノイドの行動方針を決めている人がいるんだって。そのデザイナー職」

「えっ、そう聞くと格好良いじゃん!」

私も知らなかったので、さっき職業の隣にある詳細ボタンを開いて確認した。詳細ページにはその職業の概要と、なぜ私がその職業に向いているのか、そしてその職業を選んだときに私が得られるメリットとデメリットが書かれていた。それがスクロールすると、私の適性度順にずらずらと100個続いている。

「何個あるんだよ。知らない仕事ばっかなんだけど」

やつも、私と同じようにスクロールしながら、時折気になったものがあったのかタップしている。

「ほんとそれ」

それにしても自分のものとは全然違う。その相手のものを眺めていて気がついた。

「あのさ。私の100位の職業は適性度57%しかないけど、こっちは100位でも87%もあるんだね」

「えっ、見せて」

100位の職業欄をそいつに見せた。

「ほんとだ。ってことはつまり、私は何でもできちゃうパーフェクト人間だけど、お前は洗脳するしかないってことだ。なっちゃえよ、教祖」

「うるせえ」

けらけらと楽しそうに笑っているそいつを見て、なんだか私もおかしくなって笑った。家に帰ったらもっとじっくりと見てみよう。もしかしたら、私は本当に教祖になるべきかもしれないし。



「じゃあ、そろそろ日も沈みそうだし帰るか」

「そだね」

立ち上がって、心の中で「オープン」と念じると、私の前に縮小化された私の『家族』が現れた。長い黒髪を軽く結んで、少し垂れ目な目が、今日もじっと私を見あげている。大きさもあるけど、こう見るとほんとどっちが親かわからない。

「あのさ。今日、グラタンがいい」

「ダメです」

有無も言わさず否定された。ひどい。

「何でダメなの?」

「今日、そこでドーナツを2個も食べたのは知っていますよ。だからだめです。それにそこのシナモンドーナツ、私も食べたかったのにずるいですよ」

うぐっと黙って、口の周りに付いた砂糖を拭った。そこから、どれほど自分が前からここのシナモンドーナツを食べたかったかの主張が延々と続く。

 なくてもいいはずなのにヒューマノイドに食事機能を付けたやつ誰だよ。食への恨みはほんと一生覚えているし、グルメすぎるんだよ。


 小言を流し流し聞きながら、グラタン以外だと何が食べたいかを全力で考える。

「あのさ。チーズフォンデュは?」

「チーズが食べたいのですか? まぁそれならいいでしょう。ブロッコリーは多めですけど、好きですよね」

やったと喜んで横を見ると、あいつはあいつの家族に「今日はたこ焼きと焼きそばを絶対に一緒に食べるんだ」と絶賛抗議中だった。あいつの家族はほんと大変だな。


「まだ明るいですが、気をつけて帰ってくださいね。それ以上遅くなるなら、私が迎えに行きますので」

「わかった」


 私が遅くなると、おろおろと家の前を歩かれるのを知っている。

 私の家族が、私を心配するのを知っている。


 だから、まっすぐ家に帰ろう。


 明日一緒に食べようと家族のために買ったお土産のシナモンドーナツが入った袋を手に持ってから

「じゃーね」

腐れ縁のような友人に手を振って、私は家族の元に向かった。




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