2話 おもちゃの家
「ソフィーさん。回収に来ましたー!」
この農園の管理員の宮本さんが、農園の入り口に止められたトラックから顔を出して、こちらに手を振っていた。
一人乗りの小型バギーを、トラックに比べればのろのろと最大速度で運転をしながら、言葉を返す。
「すみませんがちょっと待ってください! 今運んでいるところです」
バギーから降りて、宮本さんに頭を下げる。今朝はちょっと予定外のことがあったので、出荷の時間に少し遅れてしまった。
宮本さんと話をしながら、農園の各地で収穫した野菜が積み込まれた小型トレーラー5台を、入り口の方まで遠隔操縦する。
順次、農園の端から姿を見せたトレーラーを誘導するように両手を挙げながら後ろに下がる。もちろんこんなことをしなくても誘導はできるけど、人は視野内のものが突然動き出すと不安に思う。私はいつも人に見られるような場所ではできるだけ私が操縦していることがわかるようなポーズを取っていた。
5台の小型トレーラーが、トラックの前に横一列に並んだ。
「トマトが5箱に、ピーマンと――」
宮本さんが収穫箱の数を数えながら、携帯端末にその数を記入している。
「はい。ぴったりですね。ありがとうございます」
今年で54歳になる宮本さんが青い作業帽を取って私に向かって頭を下げるので、私はそれ以上にしっかりと頭を下げた。
「トマト、よくできていると実千夏が言っていました」
「実千夏ちゃんが言うなら楽しみですね。あとで頂きます」
宮本さんの笑顔に、背負っていたリュックからビニール袋を取り出す。
「そう言うと思って、持ってきました。形の悪いものですが、どうぞ」
宮本さんはビニール袋に入れたトマトを、「家内が喜びます」とほっこりとした顔で受け取ってくれた。
「あぁ、そうだ。ソフィーさん。あと5日で、あそこの2つの建物を壊せるそうですよ」
宮本さんが、農園に残された二つの家を指さした。
「10年目――」
「そうですよ。やっと10年。解体業者はもう手配できているので、すぐに壊して農地にする段取りはできています」
「ありがとうございます」
佐賀県が福岡県に吸収されてから、この農園付近一体は特別区域に指定され、数少ない住民は固定資産税や高い水道代・電気代を搾り取られるだけの土地を自治体に返還し、コンパクトシティ設計がされた福岡市内の市営住宅に引っ越した。
そのあと、ここに残されたのは所有者不明の土地と、自治体に返還されない土地。
所有者不明の土地は所有者が決まるまで手出しができなかったけれど、10年前に『10年間所有者が名乗り出なければ、自治体が回収して自由に使用できる』という条例ができて、あと5日でその10年目を迎える。いつ崩れてもおかしくない空き家は、安全のためにその近くで作業できなかったけれど、雑草が生え放題だったいくつかの土地もこれで新しく開拓することができる。
「あと、あっちの一番邪魔なやつの持ち主とも、やっと交渉が進んだんですよ。結構ふっかけてきたんですけど、まぁ仕方ないですね」
宮本さんが指すのは、ぼろぼろの3階建ての小さなマンションだ。
土地を持つのには毎年固定資産税がかかるし、こんな場所の土地だと今更だれも買う人はいないからタダでもいらないという人がほとんどだ。だけど、人口減少で地価の安くなった日本の、そのまたこんな田舎の土地にかかる税金など気にしない富裕層が外国にはたくさんいて――そんな人たちに売られた土地を取り返すのはすごく難しい。宮本さんたちプロジェクトの人たちは、これまですごく頑張ってくれていた。
「ありがとうございます。これでまた収穫量が増えます」
「いえいえこれは私たちの仕事です。元はと言えばソフィーさんが作った野菜から稼いだお金を使わせて貰ってますから」
農園がもっと小さかったころから知っている間柄で、互いに何度も頭を下げてから顔を上げた。
「じゃあ、これ今日の実千夏ちゃんの分です」
宮本さんがトラックから、大きなクーラーボックスを取り出した。
「実千夏ちゃんのリクエストの、良いお肉がたくさん入ってますよ」
「すみません……」
この辺りにはスーパーはないから、必要なものは宮本さんに頼むことになっている。
「年頃の女の子に難しいものを頼まれたら、おじさんたちどうしようって困っちゃうんですけど、実千夏ちゃんはいつ聞いても『肉』なので助かりますよ」
宮本さんの朗らかなその言葉に、ますます肩を狭くしてから頭を下げた。
「ソフィーさん。ではまた明日来ます」
「はい、3日ほどは天気がいいので、明日も予定通りだと思います。よろしくお願いします」
トラックに乗り込んだ宮本さんを手を挙げて見送ってから、空いたトラクターにクーラーボックスを積み込んで、操縦席に乗り込んだ。
トラクターの運転は自動操縦に任せて、カタカタと揺れた車内から農園を見渡す。
「あそこのマンションがなくなると、見晴らしがよくなりますね」
今の時代、ぽんとお金を出してくれる人はいないから、やりたいことがあるなら自分で稼がなくてはならない。毎年目標値に向かって収穫量を上げて、それで売ってお金を稼いで、宮本さんたちにわずかばかりの報酬を払った残りすべては、新しい土地の整備費用や、農業ロボットの購入費用に充てている。
「そろそろ、管理用のヒューマノイドがもう一人必要でしょうか」
来年はどのように効率化させるべきでしょうか。そんなことを考えていると
「フィー!」
実千夏が白い家の前で手を振っていた。その視線は、トラクターの背中にあるクーラーボックスを向いている。
トラクターを家の前に止めて、軽くジャンプをしてトラクターの操縦席から飛び降りた。
「お帰り!」
実千夏は私がクーラーボックスを下ろすのを手伝う振りをしながら、奪い取ってそのまま地面に置いて中を見始めた。
「うおー」
真空パックされたお肉を取り出して、よだれを垂らさんばかりの様子で目を輝かせている。実際に実千夏は、軽く口元を腕で拭ってから、立ち上がってこちらを向いた。
「これ、中にしまっとくね」
「お願いします。私はまた作業に戻りますけど、まだ食べてはだめですよ」
さすがの実千夏も、火を通す前に食べたりはしないだろう。
「うん、頑張ってね。お弁当美味しかったよ」
時刻は11時を少し過ぎたところだ。もう食べたのですかと、そう思いながら「宿題ちゃんとするんですよ」と伝えて、私は仕事に戻った。
午後からは、人が3人手伝いに来てくれたので、インゲン豆の支柱立てを手伝ってもらう。
こういう力加減や動作が不規則な作業は、農業ロボットなどの特化型機械は得意ではない。そして、こういう単純作業であればヒューマノイドよりも人の方が費用対効果はまだ高かった。
「ありがとうございます」
「いいのよ」
還暦の女性の原田さんが汗を拭いながら笑う。九州から元気プロジェクトは、県の中では大規模プロジェクトだけどそれを専業でやる人を雇うほどの余裕はない。だから、みんな本業は別にあって、その仕事の合間に手伝いに来てくれている。
『たまにはこういう体を動かす仕事もいい』と言ってくれる人に、不揃いの野菜を贈る。
「今度、佃煮を持ってくるわね」
「ありがとうございます! 原田さんの佃煮大好きです」
いつの間にか手伝いに来てしまった実千夏が、私の横で元気よくお礼を言った。
「あとの片付けは私とフィーでやっておきます」
みんなで並んでしばらく無言で夕焼けを見上げてから、「じゃあお先に失礼します」と帰って行く人たちを見送った。
「はい、じゃあフィー。片付けよう」
ほぼ毎日ここに来ている実千夏が手慣れた様子で、農具を倉庫に運び始める。帰るための車を遠隔操縦で呼び寄せながら、私は急いで実千夏の手助けに入った。
「実千夏、ありがとうございます」
「いいってことよ」
農具をすべて片付け終えた実千夏は笑顔でそう答えながら、こちらにやってきた軽トラに自分の荷物をひょいっと投げ込んだ。そして、荷台を開いてから、軽やかにその上に飛び乗る。
「フィー」
軽トラの上から、実千夏が私に向かって手を伸ばす。その手を掴んで、軽く引っ張ると「重っ」と言いながら実千夏の体が傾いた。私はこう見えて、すごく重い。
「はい。下がってくださいね」
実千夏が「いけると思ったんだけどなー」と答えながら下がってくれたので、不器用に足を引っかけながら転がるように荷台に乗り込んだ。その格好の悪さを誤魔化すように実千夏の隣に座って、体操座りをする。
「立たないでくださいね。では出発します」
自動操縦させた軽トラが、がたがたと農園の間を走り始めた。
途中で、白い家の前に寄ると、実千夏が飛び降りてからクーラーボックスを抱えて戻ってきた。最後は、開きっぱなしだった荷台をロックしてから、私たちの家に向かって細い道を進む。
かたかたと揺れる軽トラの荷台の上で、実千夏が後ろ手を突いて空を見上げていた。そしてそのまま、パタンと後ろに倒れる。
「実千夏。揺れるので危ないですよ」
「大丈夫。肉は足で押さえてる」
実千夏が私に向かって親指を上げた。実千夏の足元を見ると、クーラーボックスが実千夏の足で荷台の端に押しつけられている。
「いえ、あの、肉の心配をしているわけではないですよ」
実千夏はわかってると言うように、私の顔を見て笑った。
「あっ、実千夏。そういえばさっき原田さんからビワをいただきました」
背中のリュックからビワの入ったプラスチック製保存容器を取り出すと、実千夏はすでに起き上がってこちらに手を伸ばしていた。無言で伸ばされるその手に、黄色い果実を置く。
実千夏は揺れる荷台で器用に皮をむいて、ぽいと口に入れた。
「美味しいですか」
噛みしめるその表情で、美味しいことは分かるけれど、いつもそう聞いてしまう。
「あまーい」
そう言う実千夏の顔は『すっぱい』ときと同じ反応だ。甘いとすっぱい――それがどう違うのかが、私にはわからない。
「フィーも一緒に食べれたらいいのに……」
ふてくされた様子でつぶやく実千夏に、私自身がすごく楽しみにしていることを告げる。
「あの実千夏。今度エレナが『食べる機構』の研究を一段階進めると言っていました……」
エレナは、ヒューマノイドの機能改善やメンテナンスを専門に行っているヒューマノイドだ。この近所に住んでいる。
「えっ、ほんと!?」
「はい。エレナは無意味な機構は作らない主義なのですが、やはりヒューマノイドから要望が多いそうで。その……エレナがついに折れました」
会うたびに頼んでみて良かったですと思っていると、実千夏ががばっとこちらを向いた。
「フィー。食べられるようになったら、一緒に京都の甘味とか東京にケーキ食べに行こう! すごく美味しいらしいんだ」
狭い軽トラの荷台で、実千夏が私に向かって熱弁する。
「えっと、すぐにできるものではないと思いますよ」
「わかっているよ! うーん楽しみだなぁ」
他にどんな食べ物がいいかなぁと、実千夏は笑顔で思いを巡らせていた。
その楽しそうな横顔を見ながら――やはり実千夏も、人や物の多い都会で暮らした方が幸せなのでしょうかと、今日もそう考えてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
軽トラを10分ほど走らせて、古い日本家屋が見えてきた。その日本家屋の前に軽トラを止めて、その隣にある、緑や赤のカラフルな巨大キューブが連結したような構造をした私たちの家の玄関に向かう。
「ただいまー」
実千夏の声に反応して、扉のロックが自動的に解除された。
「お肉、お肉」
実千夏が脱ぎ捨てるように靴を脱ぐ。
「実千夏、先に手を洗ってください!」
すぐにでも肉を焼き始めそうな実千夏に、慌てて声を掛けながら、手を洗って急いでエプロンを着けた。私の隣でしゃがんでキッチンの扉を漁る実千夏を横目に、農園で採ってきた野菜を洗ってから切り始める。
「フィー。網はー?」
「食洗機で乾かしています」
実千夏が網を脇に挟んで、がさがさと引き出しからトングを取り出してキッチンを出て行った。その手慣れた様子に、私は野菜を切る速度を上げた。
切った野菜を入れたアルミトレイを持って外に出ると、実千夏は、庭に半分備え付けになっているバーベキューコンロに器用に炭を積んでいた。
「実千夏、まさか炭から始めるのですか……?」
「もちろんよ」
実千夏が私に向かって、格好よく親指を上げた。
「フィー。今日のお肉見た? いつにも増して良いやつだよ。これは炭からやらないと冒涜でしょ」
この熱意を少しでも他のことに向けてくれれば……実千夏はチャッカマンで丸めた紙に火を点けている。
「フィー。今から勝己も来るって。聡司は皆藤先生一人にできないから今日はいいって」
聡司君は皆藤先生のお子さまで、勝己君は実千夏と同じFチルだ。
「わかりました。ではもう少し野菜切ってきますね」
実千夏は私が持ったトレイに視線を向けた。
「それ以上はいらないんじゃ……」
「勝己君は、実千夏よりは野菜を食べますよ」
さっきは急いだけれど、炭から起こすのなら焼き始めるのに時間がかかるので、野菜の種類を増やそう。
一度野菜を切りにキッチンに戻って、再びトレイを持って外に出ると、実千夏がリラックスチェアに座りながら、注意深く火の様子を見守っていた。
「フィー」
手招きされたので実千夏の隣に置かれた普通の椅子に座ると、実千夏はトレイの中からひょいとパプリカを摘まんでぽりぽりと食べ始めた。
「フィーは肉の準備を頼む」
なぜか厳かなその指令に、クーラーボックスから真空パックされた肉を取り出して、焼きやすいように別のトレイに順番に並べていく。そうしているうちに、黒い乗用車がこの家に近づいてくるのが見えた。
私たちの軽トラの横に止まった乗用車から、14歳という年齢の割には小柄な少年と、背の高い成人女性が現れた。
「うわぁ、ほんとに平日からバーベキューやってる……」
実千夏は呆れてそうつぶやく勝己君に、自慢気に親指を上げた。
「頑張ったでしょ」
「褒めてねーよ」
火を囲むように、実千夏の隣に勝己君が、私の隣にエレナが座る。
「エレナも来たんですね」
エレナが住処であるヒューマノイド研究所を出ることはあまりない。
「あんた今、何時だと思っているの?」
その声に空を見上げる。まだ18時半で日は沈んでないけれど、勝己君が帰るころには真っ暗だろう。
「帰るときはちゃんと送りますよ?」
「あんたと、実千夏と勝己――全員子どもじゃない」
その声に自分の姿を見る。私の外見は15、16歳くらいだ。
エレナはこんなことを言っているけれど、ただ勝己君が心配なだけなんだ。だけど、エレナは絶対にそんなことは言わない。
エレナの顔をのぞき込んで「わかっていますよ」と口には出さずに微笑むと、直接目の前から私のコア内に入り込もうとクラッキングが開始された。必死に防衛しながら慌てて勝己君に話しかける。
「勝己君はどの野菜が好きですか?」
「カボチャとトウモロコシかな?」
「カボチャはまだですが、トウモロコシはありますよ。もぎたてが一番美味しいんですけど、今朝取ったやつなので生でもまだいけますよ」
一つどうですかと勝己君に小さく切り分けたものを渡すと、勝己君は受け取って、小さく口に入れた。
「甘い」
そのときやっと隣からの攻撃が止まった。
それは良かったですと勝己君に向かって微笑んでいると、実千夏が無言でこちらに手を伸ばしていた。何も言わずに実千夏にもトウモロコシを薄く切ったものを渡す。
実千夏はトウモロコシを噛みしめてから飲み込む前に口を開いた。
「やっぱ自分でもいだやつ、生かぶりつきが一番だよ。トウモロコシは」
「お前のとこの売り物だろ?」
「良いのだよ。一本くらい」
「あまり良くはないのですが、一本くらいは大丈夫ですよ」
だからまた来てくださいと言うと、勝己君は「わかった」と頷いた。
「そろそろ、肉。肉焼こう!」
実千夏が飛び上がるように立ち上がって、トングを持って手早く肉を置いていく。
「勝己はタレを頼む」
勝己君は呆れたように実千夏を見上げてから、それぞれのお皿に焼き肉のタレを注ぎ始めた。私も立ち上がって、肉の隣に野菜を置いていく。
しばらく立ったまま網とにらみ合っていた実千夏が、トングを持った手で両手を合わせた。
「いただきまーす」
トングで肉を掴んで、タレの入った2枚のお皿に順番に放りこんだあと、そのままトングで顔の前に肉を掲げて、大きく開いた口で拾うように肉を口の中に入れる。熱い熱いと言いながら、実千夏は涙が出そうな表情でお肉を食べていた。
焼き肉は実千夏の独壇場だ。私とエレナは、ただ椅子に座って二人が美味しそうに食べる様子を見守る。
「ねぇ、エレナ。『食べる機構』の研究の進捗具合はどうですか?」
エレナは脚を組んで前を向いている。
「別に食べ物を体の中に取り込むくらいはすぐにできるわよ。でもそうじゃない――そんなもんじゃあんたたちは納得しない」
「よくわかっていますね」
エレナはふらふらと揺れる火と、その向こうで美味しそうに焼き肉を食べる勝己君を見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁ、食った食った」
実千夏が一人だけリラックスチェアを前後に大きく揺らしながら、お腹を撫でている。食べ終わって火を消したので、私たちの家から漏れる灯り以外は周囲は真っ暗だ。
虫の鳴く音を聞きながら、みんなで星空を眺める。
「こっちの家から眺めた方が風情があるのにな」
勝己君は椅子にもたれ掛かりながら、隣の日本家屋を見ていた。この家も私たちの家だけれど、物置くらいにしか使っていない。
「住むには耐震性が足りないのですよ」
本当は、自治体の人が用意してくれたこの家にずっと住む予定だった。けれど、老朽化が進んだこの家は、正しく計算すると50年以内に必ず来ると予測される地震に耐えられるほどの強度がなかった。そんな場所に実千夏を住まわせることがどうしてもできなかった私は、実千夏と相談して値段が手頃なジョイント式のこの家を買った。
「部屋足りなくなったら増やせるから便利なんだよ、この家。小さい頃はもっと小さかった。ね、フィー」
はじめはキッチンとリビングの二つだけだったけれど、実千夏が小学校、中学校、高校に上がるにつれて少しずつ大きくした。でも、もうこれ以上大きくすることはないのかなと思う。
「そうだとしても、周りの景色から浮きすぎ」
外壁は子どものおもちゃのような、はっきりとした緑と赤で、エレナの指摘通りここだけ別世界のようだ。
木と森ぐらいしかないこの辺りに、急に現れるおもちゃの家――
「いいのですよ」
だって、小さい実千夏が、この色がいいと言ったのですから。
そう信号を送ってからエレナに向かって微笑むと、エレナは何も言わずに前を向いた。




