表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/35

一之瀬さんの考え

「な、なにを…」


正直、僕は狼狽していた。というか、しない人なんているのだろうか。

一之瀬さんからの突然の提案。それが分からないほど、僕だって子供じゃない。


「そのままの意味ですよ。話の流れで察して下さると助かります。できれば二度は言いたくないので」


一之瀬さんはそう言うと、ティーカップを手に取った。

ゆっくりと口元へ運ぶ動作を見ながら、僕は先ほど一之瀬さんが放った衝撃の一言を脳内で反芻する。


(自信を付けさせるって…つまり、そういうことだよね…)


自然と喉がゴクリとなった。要はあれだ。男になるというやつなんだろう。

その提案はきっと男子なら眉唾物であり、喜ばないやつはそうはいない。

一之瀬さんも目立つことがないだけで相当な美少女だし、女の子からのお誘いなんてある意味夢のようなシチュエーションである。裏があったとしても、多くの男子は飛びつくだろう。

未だ楓とそういう関係になれない僕に、ハッパをかけようとしてくれているのかもしれないけど…


「……悪いけど、断らせて貰うよ」


僕は一之瀬さんからの提案を、丁重にお断りさせて頂くことにした。


「……理由を聞かせて頂いても?」


一之瀬さんは静かに問いかけてくる。視線はこちらに向いていない。ただカップの中を見つめていた。


「僕は楓の彼氏だから…一応だけど、それでも裏切るような真似はできないよ」


「今は他の女の子の家にいるというのに?」


「…痛いところを突くね。うん、でもそれでもやっぱりそういうことをしたら、駄目だと思うから」


一之瀬さんの指摘は、自分でも分かっていることだ。誘われたとしても、ここまで来たことは自分の意志であることには変わりはない。そのことを言い訳するつもりはなかったけど、最後の一線を越えるつもりできたわけじゃない。


「第一、今一之瀬さんとそんなことをしても、自信なんて付かないと思う。僕は弱いから、多分一之瀬さんに逃げてしまうと思うんだ。きっと罪悪感しか生まれないし、なにより一之瀬さんに失礼だよ」


そこを履き違えてはいけないんだ。ここで流されたなら、きっと傷つけあうだけで終わってしまうことだろう。僕と楓の事情に、こんな形で彼女まで巻き込んでしまうわけにはいかない。


「私がそれでも良いと言っても?」


「僕が嫌なんだ。だから無理だよ」


僕は弱い自分が嫌いだ。だけど、これ以上嫌いにはなりたいわけじゃない。

どうしようもない自分であっても、そんな自分から逃げるわけには行かなかった。僕はどこまでいっても藤堂凪であることに変わりはないのだから。


それに、なにより…


「一之瀬さん、ずっと手が震えてるじゃないか。無理なんてしないで欲しい」


彼女の手は、ずっと震え続けていた。

紅茶を飲んでいる時も、話している時も、ずっと。


「だから一之瀬さん、僕は…」


「……バレちゃいましたか。意外と見るところは見てるんですね、藤堂君。私の負けです」


話を続けようとしたとき、一之瀬さんは大きくため息をついた。

カシャリと僅かな音を立て、ソーサーにカップを置くと、彼女はそのまま両手を挙げる。白旗のポーズだ。なんのことかと、僕は一瞬困惑した。


「え、負けって」


「全部ウソってことですよ。藤堂君の反応を見るために付いたウソです。本気な訳ないじゃないですか」


う、うそ?え、さっきまでのあれ、演技ってこと?

事情が飲み込めず目を白黒させてると、一之瀬さんはそのまま頬杖をつき、空いた指先でトントンとテーブルを叩き始めた。


「考えてみてください。今はまだ昼前ですよ?なんで朝っぱらから盛らないといけないんですか。だいたい、私達は今学校サボってる真っ最中です。そんな中で彼氏持ちの男子を家に連れ込んで自分から誘うとか、どんなビッチですか。私そこまで飢えてませんよ」


呆れた顔をしながら諭すように早口で説明してくる一之瀬さん。

なるほど、言われてみれば確かに納得の一言だが、それで僕が納得するかはまた別の話である。


「えええ…」


「本気にしちゃいましたか?残念でしたね、私は安い女じゃないですよ」


いや、ドヤ顔されても…なんだか僕が期待してたかのような言い草だけど、端からそんなつもりなかったんだけど。


「いや、してないから。僕自分から手を出すとか絶対しないから」


「ですよね、藤堂君はヘタ…草食系男子の極みですものね。知ってましたよ。それに彼女さん想いでご立派なことです」


今ヘタレって言いかけたよね?ちゃんと気付いてるから。言わないけどさ。

…うん、確かにヘタレだな僕は…


「…少し妬けちゃいますね」


「ん?なにが?」


「いいえ、なんでも。お気になさらず」


そう言って一之瀬さんはまたカップに紅茶を注いでいく。


(一之瀬さんの考えがサッパリ分からない…)


僕はそれを見ながら、またため息をつくのだった。


ブクマに評価、感想ありがとうございます


寝取られなんてなかったのです


評価を入れて下さると大変嬉しいです、頑張れます(・ω・)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ