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重なる姿

「と、藤堂くん…?」


一之瀬さんの戸惑った声が聞こえてくる。いきなりその場に崩れ落ちた僕を彼女はどう思ったのだろう。だけどそんなことはもうどうでもよかった。僕はその場に蹲るように膝を抱える。


「なんでもないんだ、大丈夫だから…」


「な、なんでもないって、そんなわけないでしょう!大丈夫ですか!?」


駆け寄ってくる音がする。一之瀬さんは僕なんかのことを心配してくれているらしい。やはり彼女はいい人だ。僕にすら優しくしようとくれる。

普段物静かな一之瀬さんにこんな一面があったことを、僕は今まで知らずにいた。


「頼むから、ほっといてくれよ。もうどうでもよくなったんだ…」


だけど、その優しさが今の僕には煩わしい。

僕はますます膝に顔を埋め、背中をコンクリートの壁に押し付ける。汚れようが構いやしない。

遠くでチャイムの音が聞こえようと、それもどうでもいいことだった。


「…私を、そんな薄情な女だと思われたら困ります」


だというのに、彼女は僕の腕に手を伸ばしてきた。細い両手がブレザーの制服に触れる感触が伝わってくる。


「やめてよ、僕はもう…」


「やめませんよ。やめたら藤堂君、ずっとここにいるんですか?蹲っていたって、なにかが解決するはずもないでしょう」


どうやら強引に僕を引き起こすつもりのようだ。僕の体格は標準よりやや小柄であるとはいえ、それでも一之瀬さんよりは大きいし、身長だって高い。華奢な彼女では、大の男を動かすのはかなりの労力を使うことだろう。



「ほらっ、行きましょう藤堂君!」


だから、早く諦めて欲しかった。朝から無駄に体力を消耗する必要もない。そもそもただのクラスメイトである僕に構う必要なんて、彼女にはまるでないはずなのだから。


「もういいから。お願いだからほうっておいて…」


「んっ、しょっ。うぐぅ…」


そう思ったからこそ、僕は何度も懇願するのだが、一之瀬さんはそれを無視する。そればかりか、未だに彼女は僕の腕を離そうとしないのだ。チラリと様子を伺うと額に綺麗に切り揃えられた髪の間から、額に汗が浮かんでいるのが見えた。


(なんでそこまでするんだよ)


もう全部どうでもいい。そう思っていたはずなのに、ここまで頑なな一之瀬さんを見てると、いい加減イライラしてきた。


僕なんてなにも価値がない人間なのに。

一之瀬さんのためを思って言っているのに。

こんなに一生懸命に手助けしてもらう理由なんてないというのに。


(これじゃ、まるで…!)


タイプも違うし、似通ったところもないというのに、その時は何故か、僕に手を貸そうとする彼女の姿が、先に行かせたはずの楓の姿と妙にダブって見えてしまった。


「もう、離してくれよ!」


「えっ、きゃっ!」


そんな幻想を振り払うように、僕は一之瀬さんの手を振り払って立ち上がった。


「鬱陶しいんだよ!僕になんか構わないでくれ!!」


僕は溜まった鬱憤を晴らすかのように、沸き上がる激情を一之瀬さんにぶつけてしまう。


「さっさとどっかに行ってくれよ!こんなことしてもらう価値なんて、僕には全くないんだから!」


……ああ、分かってるさ。これはただの八つ当たりだ。一之瀬さんを楓と重ねて、これまでの不満を彼女に吐き出そうとしているってことくらい、分かってる。


「だからいいんだよ。僕なんて、もうどうでもいいんだ…」


それでも止まらない。止められない。

いつの間にか怒声から泣き声に変わっていたとしても、もう自分ではどうにもならない。走り出した感情は止まらない。堰を切ったように言葉とともに溢れていく。


「楓も、僕のことなんてほうっておいてくれればいいんだ。僕になんて、構わなければ、もっと…」


目から涙が溢れても。まるで関係ない女の子に内心を吐露していようとも。

僕はもう、止められない。


「…そうですか。大変、だったんですね」


だというのに。

こんな情けない姿を晒しているというのに、一之瀬さんはそこにいた。

ただ黙って、僕の話を聞き続けていた。


「…なんで」


とっくに学校は始まっていて、彼女はもう遅刻確定だっていうのに。

何故か彼女は、僕の側にいるのだ。まったくもう、訳がわからない。


「え?」


「なんで、そんな顔してるんだよ…!」


僕はその手を振り払ったのに。怒ったっていいはずなのに。

なんでそんな穏やかな顔を僕に向けているんだよ…!


「僕は、僕は…!」


「でも、凪君は立ち上がれたじゃないですか」


なにをいえばいいのかもう分からない僕に、彼女はそんなことを言ってきた。


「は…?」


「悲しくても、辛くても。凪君は今立ち上がれてる。なら、大丈夫です。話したいこと、まだあるんでしょう?全部聞いてあげますから」


その顔が、とても優しく見えてしまって。


「僕、僕は、僕は…」


「はい、なんでも言ってください」


僕はその場で、全ての感情を吐き出していた。

ブクマに評価、感想ありがとうございます



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― 新着の感想 ―
[一言] 正直ここまできたら凪君一人で生きていった方が楽だよね
[一言] 更新お疲れ様です。 あらすじとか見てたら、なんとなく無理かと思ってましたが、実際読んでたらとても面白かったです^^;
2020/05/14 17:28 退会済み
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