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64 いきなり大ピンチです

 ごくりとつばを飲み込み……アーシャはくるりと踵を返し部屋の扉へと走った。

 その途端、いくつもの声が飛ぶ。


「捕らえろ!」


 すぐに控えていた神官や衛兵たちが追いかけてくる。

 その中の一人がアーシャの腕を掴もうとしたが、激昂したフレアが炎を飛ばした。


『気安く触んな!』

「うわぁ!」


 一瞬にして火傷を負い、アーシャを捕まえようとしていた衛兵が倒れる。

 だがその直後に、神官たちの焦ったような声が聞こえた。


「ちっ……あれを使え!」


 そんな言葉と共に、こちらに向かって拳大の結晶のような物が飛んできた。


「そんなもん通じるかよ!」


 魔法道具か何かだと思ったのだろう。

 フレアは勇ましく結晶を弾き飛ばそうとした。

 だが、彼の腕が結晶に触れた途端――。


「なっ!?」


 一瞬のうちに、フレアの体が結晶の中に吸い込まれたのだ。

 カツンと音を立てて床に落下した結晶の中には、先ほどまではなかった炎が揺らめいていた。


「そんな、フレア!」

『駄目ですアーシャ! 今は逃げ……っ!』


 駆け寄ろうとしたアーシャをウィンディアが前に立ちはだかり制する。

 だがそんな彼女の元にも結晶が飛んできて、ウィンディアまでもが吸い込まれてしまう。


「ウィンディア!」

「もう一体捕獲したぞ! とにかくあの女の周囲に投げつけろ!」


 神官たちの喜色に満ちた声が飛んできて、アーシャは戦慄した。


(まさかこれは、精霊たちを捕まえる道具……? そんなものが存在するなんて……!)


 彼らには精霊の姿が見えていないようで、結晶はやみくもに飛んでくる。 

 だがアーシャの周囲にいるアクアとアースには、いつ当たってもおかしくはない。


『行くよアーシャ。今は逃げて態勢を立て直さないと!』


 そうアクアに叱咤されて、アーシャはぐっと唇を噛んだ。

 今すぐにフレアとウィンディアを助けたい。

 だが、うまくいかなければアクアやアースまでもが掴まってしまう……!


「……はい!」


 アーシャは再び出口を目指して走り出した。


(絶対に、逃げ切らなきゃ……!)


 だんだんと追っ手が近づいてくる。距離を縮められたことを察したアースがアーシャの元を離れ、追っ手に相対した。


『邪魔……!』

「うわぁ!」


 床や壁がぼこぼこと隆起し、追っ手の追撃を阻む。


『ナイス! ここはアースに任せて行くよ!』


 アクアにそう急かされ、アーシャは苦渋の思いで走り出した。

 すぐにアースが追い付いてくることを期待したが、やがて背後から歓声が上がり彼までもが捕獲されてしまったことを察せずにはいられなかった。


「どうして、こんなことに……!」


 あの手紙自体が、アーシャをおびき出すための罠だったのだろうか……。

 そんなことを考えもせずに、のこのこと敵地へ乗り込んでしまった自らの浅はかさをアーシャは呪った。


『あとちょっとだよ、頑張って!』


 最後まで残ったアクアに励まされ、アーシャは必死に足を速めた。

 神殿の出口がすぐそこまで迫ってきている。

 外に出れば、なんとか逃げ切れ……!


「きゃああぁぁ!」

『アーシャ!?』


 その時、全身に激痛に走りアーシャはその場に倒れ込んでしまう。

 痛みを堪え瞼を開くと、アーシャが倒れ込んでいる床に魔法陣のような紋様が描かれているのが目に入った。


(これは……魔法床トラップ? でも、来た時にはこんなものなかったのに……!)


 魔法床トラップは魔獣や害獣と戦う時などに用いる設置式魔術だ。

 激しい苦痛を伴うことから、人間に対して用いるのは固く禁じられているはずだが……。


『アーシャ、アーシャ! 待っててね、すぐに治療を……あぁぁ!!』

「アクア……!?」


 アーシャに治癒を施そうとしたアクアの気配が消える。

 それと同時に、カツンと音を立てて内部が水で満たされた結晶が傍らに落下した。

 ついに全員が捕らえられてしまったことを悟り、アーシャは絶望した。


「まったく、手間を掛けさせる……」


 痛みに呻くアーシャのもとに、カツカツと靴音を鳴らしながら神官長がやって来る。


「さぁ、鬼ごっこは終わりですよ、聖女様」

「ああぁぁぁぁ!!」


 彼が手にしている錫杖で床を叩くと、再びアーシャの全身を激痛が襲った。


「あぁ、すぐにセルマン殿下の元へお連れして――」


 神官長がなにやら周囲に指示を出している声を最後に、アーシャの意識はぷつりと途切れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わああ、予想以上に大変な展開に…! これは魔王様も他のみんなも大激怒案件ですね。魔族総出で国を滅ぼしに来られても仕方ない。。 アーシャと精霊たちが早く救出されますように…!
[気になる点] 知らない人についていったらダメ……だけど 知ってる人が悪人だった場合は アーシャ一人が悪いとは言えないねー [一言] この国は神殿も神官も腐っていたの? どこまで焼けばいいかな!? …
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