11 かわいいは正義です
一通り食事を終えると、ルキアスが指を鳴らす。
すると部屋の扉が重々しい音を立てて開き、姿を現したのは――。
「まおうさま―?」
二足歩行の愛らしいクマのぬいぐるみ(?)が、こてんと首をかしげて立っていたのだ。
その瞬間、アーシャは雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
「かっ、可愛いっ……!」
愛らしさの塊のような存在の登場に、アーシャは一瞬で心を奪われてしまった。
その途端、精霊たちが騒ぎ出す。
《アーシャ! いくら可愛くても相手は魔族ですのよ!?》
《そうだそうだ! 油断してると寝首を搔かれるぞ!》
《ていうか私の方が可愛いでしょ!》
《それは自意識過剰……》
「で、ですが……こんなに可愛い生き物が邪悪な心を持っているとは思えません……!」
その生き物は、アーシャの膝くらいの背丈しかない。おまけに全身ふわふわで、くりんとつぶらな瞳がなんとも愛らしいのだ。
(さ、触りたい、抱っこしたい、モフモフしたいぃぃぃ……!)
わきわきと指をわななかせるアーシャを見て、ルキアスはおかしそうに笑った。
「我が配下のモフクマ族だ。見ての通り戦いは得意でない種族でな、安全を保障する代わりに魔王城で働いてもらっている」
ルキアスが合図すると、モフクマがトテトテと彼の足元まで歩いてくる。
ルキアスはひょい、とモフクマを抱き上げ、アーシャに手渡した。
「彼女は我が婚約者、聖女アーシャだ。彼女の命令は、俺の命令と同等に受けるように」
「なんなりとどうぞクマー」
「抱っこと頬ずりさせてください」
「マー!」
モフクマは嬉しそうに両手を挙げてばんざいした。
許可が出たので、アーシャは思う存分モフモフのお腹に頬ずりする。
「はぁ、至福です……♡」
「マ~」
「モフクマよ。彼女の気が済んだら部屋に案内してやってくれ」
「はいクマー」
(はぁ、魔王城に来てよかった……)
もっちりもふもふの感触を堪能しながら、アーシャは心からそう思ったのだった。
トテトテと小さな歩幅で歩くモフクマに先導され、薄暗い魔王城を進みアーシャがたどり着いたのは、魔王城の上部に位置する部屋だった。
「ここクマー」
「ありがとうございます、モフクマさん」
「マー!」
嬉しそうにぴょんぴょん飛び上がるモフクマを抱き上げ、アーシャは荘厳な意匠の施された扉を開ける。
「お、お邪魔しまーす」
おそるおそる薄暗い室内に足を踏み入れると、ぴょん、と床に飛び降りたモフクマが両手をあげる。
「マ!」
その途端、頭上のシャンデリアに明かりがともり、室内の全容が明らかになった。
《なんていうか……魔王城にしては普通だね》
《棺桶で寝ろとか言われるかと思ったぜ》
精霊たちの言う通り、アーシャに与えられたのは至って普通の部屋だった。
ベッドにテーブルにクローゼット……温かみのあるシンプルな家具が備えられた、十分な広さを持つ部屋である。
「人間さんの部屋クマー」
そのいい方に、アーシャははっとした。
人間さんの部屋――もしや、魔王城には自分以外にも人間がいるのでは?
「もしかして、私以外にもここに人間がいるんですか?」
「いないクマ」
こてんと首を傾げたモフクマに、アーシャは苦笑いした。
「そ、そうなんですか……」
「でも人間さんのために、この部屋はずっとあったクマ」
その言い方に、今度はアーシャの方が首をかしげる番だった。
(魔王様は人間が来た時のために、部屋を用意してたってこと?)
思案するアーシャをよそにモフクマが「マー!」と遠吠えをすると、あちこちからわらわらとモフクマの仲間が集まってくる。
「ベッドメイクするクマ」
「寝る前のミルクをどうぞクマ」
「マッサージもどうぞクマ」
ふわふわもふもふ、至れり尽くせりの対応に、アーシャはすっかり骨抜きになってしまった。
「ふわぁ~、幸せです……♡」
《こーらアーシャ、スキンケアの前に寝ちゃダメ!》
《髪の毛の手入れも終わっていませんわ!》
精霊たちに世話を焼かれながらモフクマを抱きしめて……いつのまにか、アーシャはすやすやと眠りの世界に引き込まれて行った。




