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セッション41 竜殺(後編)

「どうする? 撤退するか?」

「否。まだだ。あと一発は射てる。それで俺様の右腕はおしゃかになるだろうし、狙いも滅茶苦茶だろうが、それでもまだ射てる」

「一発じゃ心許ないじゃろう。であれば、術を連発するか?」

「矢と同様に避けられてしまうのでは?」


 皆の視線が司令官(イタチ)に集まる。イタチは目を細め、数秒考えると、


「翼を奪う」


 と宣言した。


「腕が無事なら数撃ちゃ当たる戦法で矢を放ち、チマチマと体力を削るというのもアリだが、出来んからな。その上、こちらには空を飛べる奴が二人もいるのだ。使わん手はない」

「二人? 僕だけじゃなくてか?」


 飛行スキルの『有翼』は僕しか持っていない筈だが。


「拙者、実は最近飛べる様になったで御座りまする」


 と理伏が挙手した。


「理伏が?」

「はい。風使いとしてはやはり飛べぬ様では話になりません故、努力しました」


 そいつは凄い。

 出来ない事を出来る様に努力したのがまず素晴らしいし、達成したというのであれば、なおの事素晴らしい。……また僕のお株が奪われたような気がしないでもないが。


「……まあ良いか。じゃあ、僕は向かって右の翼を狙うわ」

「では、私は左を」

「ッ、来るぞ! 飛んでこい!」


 イタチの警告と同時に竜の吐息(ドラゴンブレス)が降り注ぐ。跳躍して躱し、そのまま翼で飛翔する。左を見れば理伏が矢の如き勢いで飛び出していた。そのまま竜の左脇を突き抜ける。


「ぬっ、くっ――!」


 理伏が足裏から風を噴出する。その都度鈍角に曲がり、三度の直線を経て軌道を竜へと戻す。どうやら真っ直ぐにしか飛べない様子だ。僕みたいに思う様には飛べないらしい。

 だが、充分だ。


「『剣閃一突(ケンセンヒトツキ)』×『中級疾風魔術(ダウンバースト)』――『天津風(アマツカゼ)』!」


 彼女の必殺技を放つには充分な飛行能力だ。

 疾風の槍と化した理伏が竜の左翼を穿つ。反動で既に折れていた理伏の刀が砕け散る。翼の膜に穴を空けられた竜は悲鳴を上げ、空中でバランスを崩す。


「よし、じゃあ僕も――」


 口を大きく開き、息を吸う。しかし、空気は肺にまで入らない。喉の手前に圧縮されて集まっていく。

 先日戦ったギリメカラより押収したスキルだ。『吸引』、『大気圧縮』、そして『吐息』だ。吐息と言っても竜の吐息(ドラゴンブレス)とは異なり魔力の砲撃ではなく、大気の砲撃だが、威力は同等だ。

 ギリメカラの様な象鼻(つつ)を持っていないので、僕は大気の砲撃に指向性を持たせる事は出来ない。修行すれば出来る様になるかもしれないが、今は無理だ。なので、竜に接近した状態で大気の圧縮を解いた。放たれた爆風が竜の右翼の根元を打ち砕く。


「GYAAAAA――!」


 両翼を負傷し、地に落ちる竜。巨体であれば体重もあり、高所からの落下となれば衝撃も強くなる訳で、地面との激突時には大音量が響いた。それでも竜は死なず、よろよろとしながらも身を起こす。

 その隙、千載一遇のチャンスを見逃す程僕達は甘くない。


「『天龍一矢(テンリュウイチヤ)伊雑(イザワ)』――!」


 イタチが渾身の矢を射る。

天龍一矢(テンリュウイチヤ)』は上空から魔力の矢を降らせる弓技だ。しかし、『伊雑(イザワ)』は水平に矢を射る。矢は射られた直後に爆ぜて、そこから七本の魔力の矢を放つ。散弾銃の如き弓技だ。一本一本が砲弾並みの威力を誇る為、破壊力が散弾銃とは比べ物にならないが。

 これならば狙いが定まらなくても問題はない。散弾の範囲内に敵がいればどれかは当たる。

 七本の魔力の矢が竜の血肉を抉り取る。鱗と共に血飛沫が舞う。


「『中級大地魔術(スタラグマイト)』、『中級火炎魔術(イラプション)』!」


 間髪入れず三護が魔術を浴びせる。

 地面から生えた岩槍が竜を腹から貫いて捕らえ、次いで火柱が立ち昇る。先程よりも大きな絶叫が竜の喉から迸る。中級とはいえ二連の魔術だ。串刺しと火炙りのコンボは痛かろう。


「G……G……!」


 だが、まだ死なない。ここまでやってもまだ竜は死なない。

 岩槍で身を貫かれようとも首から上は動かせる。竜は鎌首をもたげると、その口腔をイタチ達に向けた。そして集まる高密度の魔力。六発目の竜の吐息(ドラゴンブレス)だ。

 吐息が放たれる、その直前、


「『槍牙一断(ソウガヒトタチ)』×『着火』――『鬼火断(オニビタチ)』!」


 僕の槍が竜の首を断ち切った。

 スキルで炎を纏い、攻撃力を上げた斬撃だ。地面に転がり落ちた首はもう動かない。吐息も吐かない。さしもの竜も、元は神の肉片であろうとも、生物である以上は首を断たれれば死ぬしかない。


「はぁー……ようやく勝った……!」


 戦闘終了だ。

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